第17話「突然ですが、毎晩特訓しています」
続きは昼頃に更新します
それからというもの、毎晩マオと一緒にベッドの中に入って眠りに就いた。
そして夢の中でマオに魔力の使い方を教わった。
最初はマオが何らかの魔法を使っているはずだし、負担がないかと心配したのだが「この程度でマオの魔力はなくならないのだ。朝ごはんとお昼ごはんを食べれば回復するから、もっとたよってほしいのだ!」と小さな胸を張っていた。
それから何度目かの夜を迎え、少しずつ魔力の引き出し方のコツが掴めた日のことだった。
「……うむ、その調子なのだ。一気に引き出しすぎないように、気をつけて……」
いつか説明されたように、魔力とは魂から引き出されるエネルギーだ。
そのせいでゲームのように、魔力を使いすぎたら魔法が使えなくなる、ということはない。むしろそれは優しいレベルだ。
魔力は使えば使うほど精神的な疲労が溜まり、使いすぎれば昏倒し、最悪の場合は衰弱死してしまう。
つまり制御訓練とはいえ、やりすぎたり制御を誤ったりすれば命の危険があるのだ。
まだ不慣れな俺がそのあたりの加減を間違えないよう、マオがきちんと見張ってくれている。
「しかし、兄様は飲み込みが早いのだ。普通はこんなに早く細かく魔力を行き渡らせるのは難しいのだぞ?」
「そうなのか?」
「うむ。父上がたまに狩りで身体強化を行使しているだろう? 普通はただ全身を魔力で覆う程度で魔力制御は十分だと思ってしまうからな」
俺は今、心臓を中心にして全身に魔力を行き渡らせている。
前世の医療知識のおかげか、制御訓練を行うときに血管や骨格をイメージしながら魔力を流すと、体のすみずみまで流れていくのだ。
今では全身が満遍なく光り輝き、体温も心なしか上昇している。
でもそれだけじゃなく、魔力を帯びている体が力が湧き上がってくるのだ。
まだ起きている時に試していないから現実味はないけど、おそらく普段よりも大きな力が発揮できるはずだ。
そして、そんな状態を見たことがある。
マオが言ったように、父さんがたまに大きな獲物を狩る時に凄まじい剛力を振るうのだ。
腕一本で木を叩き切るほどの剛力の正体は、魔力で身体を強化していたからだろう。
「父さんのやり方だと、訓練としては不十分なのか?」
「父上のように、身体能力を強化するだけならば十分なのだ。全身を覆うだけだから、兄様のやり方でも同じ効果が見込める。身体強化で差が出るのは、練りこむ魔力の量だけだから。しかし魔法を使うためには、魔力で魔法陣を描かねばならない。故に魔法を習得する前に、細かな制御技術が必要になるのだ」
「う~ん……でもそれだと、父さんももっと細かな制御ができれば魔法を覚えられるってこと?」
「理論上ではそうなのだ。でも現実ではそうはいかない。見ていてほしいのだ」
そう言って、マオは赤く燃え盛る指を差し出した。
全身から燃え盛る炎が指先に集まりだし、それはジェーンさんが見せてくれた魔法陣に似た形をとり始めた。
炎がどこかで見たことがあるような文字を象り、指先が円を描くように動けば、それに沿って文字が流れていく。
同時に、マオの炎が少しずつ減っていく。いや、減っているのではない。
両の眼でじっくりと観察していたからわかる。マオの炎は少しずつ小さくなっていくが、その文だけ文字に使われているのだ。
「兄様、何かわかったか?」
「魔法陣を描くために、魔力が必要なんだな」
「そうなのだ。はっきり言ってしまえば、魔法は身体強化よりもはるかに魔力を大きく消耗する。魔法陣を描けるほどの制御技術を身につけても、描けるほどの魔力量がなければ魔法は使えないのだ。他にもいろいろ克服しなければならない点はあるが、多くはやはり魔力量の問題になるのだ」
「でも、魔力量なんて増やせるのか?」
体力をつけるために体を鍛える、というのはわかる。
筋トレだったり走り込みだったり、鍛え方は思いつく。
しかし、魔力の源になるのは魂だ。魂を鍛えるにはどうやったらいいんだ?
魔力の制御訓練で自分の魂を感じ取れるようにはなったが、鍛えるとなると見当もつかない。
「魔力量を増やす方法か……大別すると三つあるのだ」
「い、意外と数多いんだな。いや、筋トレとかと比べると少ないのか?」
「一つは単純に、魔力をたくさん使うことなのだ。魔力も筋力と同じように酷使すればする分、少しずつだが産み出せる量や質が増えていく。ただ、このトレーニングは魔力が少ない人には向かないのだ」
「どうしてだ?」
「効率が悪いから。魔力が少ないとすぐガス欠になってしまうし、基本的に空っぽになるまで使うと一日か二日休まないと全回復しないのだ。このトレーニングで増える量は微々たるもので、筋トレと同じく日々の積み重ねが大事になる。なのにすぐガス欠になって何日も休むようでは、非効率的ではないか?」
なるほど、だから父さんも滅多なことでは身体強化を行わなかったのか。
必殺技的なノリで使っていたこともあったけど、魔力量が少なければ持続時間も短いはずだ。
戦闘中に魔力が底をついたら、それだけで致命的だものな。
多分、父さんのように武器を構えて戦う人は魔力の量が少ないか、マオが言うような魔力トレーニングの仕組みを知らずにいる人たちなんだろう。
「もう一つは、精神的に成長をすることなのだ」
「精神的な成長……?」
「基本的に魂は年月を経て肉体の成長に比例して成長するのだが、それにはやはり限界がある。だいたいの目安になるが、成人する頃には魂の成長も止まり、そこで大体の魔力量が定まる。たまに大人の中でも子供っぽい者がいるのだろう? 体は立派でも精神が未熟ゆえ、魔力を扱うことに長けていない人種とはああいう大人のことを言うのだ」
「つまり、座禅を組んだり瞑想したり、精神修行をしろってことか」
「ザゼン? が何かはわからぬが、精神修行というのならば正解なのだ。その他にも本を読んで知識を得たり、見聞を広めて理解を深めたり、知恵をつけてゆくことで魂の質が向上することもあるのだ」
「そして最後の一つなのだが……種族レベルを上げることなのだ」
……アレスガルドで10年生きてきたけど、初めて聞く単語だった。
「種族レベル……?」
「この世界に生きる者にはレベルがある。限界とも言うかも知れないのだが、それを越えると一気に肉体や魂に宿る力が上昇するのだ。それを一般的にはレベルアップという」
単語の意味的にはRPGをはじめとするゲームをプレイしたことがあれば、一度は耳にするような話だ。
しかしマオの話からすると、ゲームのようにホイホイとレベルは上がりそうにもない。
「具体的には、どうやってレベルを上げるんだ?」
「兄様……これから言うことは、どうか軽々に口に出さないと約束して欲しい。お願いなのだ」
マオの口調が真剣なものに変わる。ジェーンさんの時ほど恐ろしさは感じないが、あの時と同じくらいの真剣味が彼女の口調に表れている。
俺はツバを一つ飲み込み「わかった」と答えた。
そしてマオは、なぜこの話を最後に持ってきたのかを嫌というほど理解した。
「限界……それが意味することは、己の力と研鑽で魂を最大限に成長させたということ。その上で今よりも魂を増やすとしたら、もう外部から魂を取り込むしかないのだ――――――つまり……魔力を持つ者を数多く殺め、強敵を糧にし、貪欲に狩り続けることで、次のステージへと成長、否、進化するのだ。その現象を、種族レベルの上昇と言うのだ」
相手が弱ければたくさんの魂を狩り、相手が強ければ質の良い魂を食えるという。
どれだけ取り込めば強くなれるかは、個人差があるから明確な答えは出せないとマオは言った。それほどに、種族レベルを上げるのは困難なのだと。
そもそも種族レベルを上げるということは、今の種族より上位の存在へとなり変わることにほかならない。
人間に前例がないため答えは挙げられないが、エルフであればハイエルフへと至る。
そして魔族であれば……魔王へと至る。
「だから、兄様……種族レベルを上げるということは、修羅の道を歩むことになるのだ。よほどのことがない限り、そんな選択肢は取らないで欲しい」
「ああ、わかった。それに……このことは誰にも話さないようにするよ」
「……そうしてもらえると、助かるのだ」
強さを求める人間にこのことを教えれば、必ずどこかで虐殺が始まる。
なにせゲームと違い、弱い相手を倒しても得られる経験値が変わらないのだ。
十万でレベル上限を越えるのなら、数万の魂を持つ相手を何人も探し出すより、十万人を殺すほうが手っ取り早いと考える者が現れるかもしれない。
それが個人ではなく、国家や大規模な組織に知られればなおのこと利用されかねない。
少なくとも、種族の限界を越えた魔王を打倒するために、異世界の人間に犠牲を強いて宛てがおうとする国があるんだ。絶対に虐殺は行わないとは言い切れない。
「それなら、当分は地道に制御訓練と精神修行を集中してやっていくしかないな」
「ぬか喜びさせてしまって、申し訳ないのだ」
「いいさ、気にしなくても。それにいま必要なのは、この義眼を使いこなすことだからね。訓練していれば勝手に増えていくよ」
「…………わかったのだ。私も兄様を全力でサポートするのだ!」
「その意気だ。頼んだよ、マオ」
「任せてほしいのだ!」
予想外の話で暗い雰囲気になってしまったが、どのみち俺には関係ないと今は割り切って明るい声を出す。
仮にアカデミーに入ったり、あるいは入る前に魔力の量で壁にぶつかったとしても、それは普段からの俺の努力不足ということだ。
若いうちに壁にぶつかった程度で、人間をやめるような真似はしない。
種族レベルを上げるということは、そういうことなのだから。
しかし、俺はこの時、まだ肝心なことに気づいていなかった。マオが伝えたかった、本当の意味に……。
魔王という存在は、魔族が限界を越えて至る究極の到達点であるということは、決して唯一無二の存在ではないということだ。
勇者が魔王を倒してから十年の時間が過ぎている。
次の魔王が現れるために必要な時間は、着々と経過して行っていた。
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遅筆な作者のペースが上がる! ……かもしれません(汗




