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第11話「突然ですが、王都から騎士がやってきた」

 ある昼下がり、見慣れない馬車が一台、村長の家に止まっていた。その時は、どこかのお偉いさんが視察に来たのかな、と思う程度だった。だがほどなくして、自分たちが当事者だったことを知らされた。


「マオさん、お久しぶりです。そして君は、レオ君だね? 初めまして、私の名前はアイン・ベルウッドだ」


 豪奢な鎧と外套に身を包んだ一団が、我が家に押しかけてきた。そして彼らの持つ鎧と剣には、王国騎士団の紋章が刻まれていた。

 即ち彼らは、王都アイワーンの王国騎士団だったというわけだ。

 そんな人たちが、なぜこの辺境の村に? しかもマオに向かって「お久しぶり」と言ったということは、初めて来たわけではないということになる。


 ベルウッドさんに話を聞いてみると、彼らは俺が意識を失っている間に訪れたらしい。

 理由は、このあたりで発生した原因不明の大火についてだ。

 村の近辺には王都の貴族の別荘があり、たまたまその日に貴族が滞在していた。そして遠方で立ち上る巨大な火の竜巻を、目撃してしまった。

 恐れた貴族はすぐに調査を命じ、これまたたまたま遠征から戻ってきた王国騎士団と鉢合わせ、調査隊に懇願され同行する運びとなった。


 そこで彼らは、焼けただれた廃牧場の敷地を目撃してしまった。

 付近の森に延焼しない不自然な焼け跡。地面がガラス状に溶解するほどの熱。自然の山火事ではないことは明らかで、すぐさま村に調査の手が入った。


 彼らは大火傷した俺の話を聞き、この家に押しかけ、すべてを知った。

 そして精霊を呼び出して暴走させたマオのことを知り、その危険性からすぐにでも処罰するべきだと、吠える声が上がった。

 だが両親はどうかそれだけは、と泣いて懇願した。必死に頭を下げる父母と、マオがまだ幼いこと、そして実害が兄一人だったことから、今すぐ処罰する必要はないと、騎士団を率いるベルウッド団長は判断した。

 しかし、起こった事態は非常に危険である。そのため騎士団はこの一件を王都に持ち帰り、改めて処遇を決めることになった。


 それがこの日だった。寝耳に水の俺は、痛む体を引きずってでもマオを守ろうと、その背に庇った。


「君は勇敢な少年だ。安心したまえ、その小さな女の子を危険に晒すことはしないよ」


 銀髪碧眼の騎士団長、アイン・ベルウッドはそう言って微笑み、しかしすぐに顔を引き締めた。

 本人はそのつもりでも、マオがしたことは確かに大事だ。国の耳に入った以上、なんのお咎めもなしということはありえないはず。それがマオに危害を加えるようなことはなくても、罰は罰だ。

 俺たち家族は、震えを押し殺して彼の話を聞いた。



「まず、マオ殿には修道院に入って頂きます。期間は……『聖女候補生』の証を手に入れるまで」



「そしてレオ君。君には『アイワーン学園』に入学してもらいます」



 当然ながら、耳を疑った。なんで俺にも罰……というか、指示が飛んできたんだ?


 マオの処遇については、ある意味で納得のいくものだった。

 精霊を呼び出せるほどの魔力を持つマオは、当然ながら危険な存在だ。受け入れ先の修道院が見つかるまで、一切の魔法を使用することを禁止された。

 そして修道院で魔力の制御を教わり、魔法を安定させ、二度と過ちを犯さない高潔な精神を宿すために『聖女候補生』として教育を施されることになる。


『聖女』とは神々と直接交信ができ、神託を賜り、代行する者を指す。

 俺が生まれる前にいた魔王を討伐した、勇者の傍にも『聖女』がいた。一世代に一人しかいないというわけではないが、「神の代行者に任命される」ことが『聖女』としての第一条件だ。

 そのため複数の『聖女』が現れることは稀であり、その時にはなにか大きな波乱が起こる前兆でもある。

 だからこそ、いつでも「神の代行者」となれる『聖女候補生』を教会は用意することにした。大きな災厄に立ち向かうためにも、神託を聞き逃さないために『聖女』となれる人間は多い方がいい。

 そして、仮にも「神の代行者」となるべき人間として教育されるのだから、性格や実力に問題のある人物にとっては良い矯正となるわけだ。


 この処遇にマオは、大きく反対した。兄様と離れたくない、家族の傍にいたいと、怪我を負う前からは考えられない、嬉しい事を言ってくれた。

 そんなマオを説得すべく、両親とマオ、そして女性騎士と一緒に別室で話し合いが行われた。

 その間に、どうして俺の今後が勝手に決められたのか、事情を聴くことにした。


「はじめに断っておくけど、君は何も悪くない。被害者だということは、当然知っている。でもね? 君が"精霊に傷を負わされた" ことが大きな問題なんだ」


 ベルウッドさんが言うには、王都をはじめとした様々な土地では「精霊が害をもたらした人間は悪人である」と言い伝えられていると聞いた。

 人間は魔法を使う上で、大なり小なり精霊から力を借りている。そのため魔法を使うものにとっては、精霊に嫌われることは絶対に避けなければならない事態の一つだ。

 そして精霊は命を持った一個の生命体ではなく、自然から生まれた実体を持たないスピリット体と呼ばれる存在であるため、見ただけで人の魂がわかるらしいのだ。つまり、善人か悪人かをひと目で見分けることができる。

 そんな精霊が直接手を下した人間が、果たして善人と呼べるのか?

 誰もが口を揃えて言うだろう。答えは当然、否だ。

 だからこそ精霊に傷つけられた人間は忌むべき存在であり、それだけで憎まれたり、過激な国では罰されることがある。


「経緯は聞いている。君はあくまで妹さんを庇っただけだ、とね」

「じゃあ、むしろ妹を……」

「それもない。本人はそのあとのことを覚えていないようだが、子供二人を精霊が殺せなかったとも思えない。少なくとも君たちが生きていた以上、精霊は許したのだと王は判断なされた」


 それを聞いてホッとした。怪我はしなかったとはいえ、マオはまさに精霊の気分を害したのだから。

 修道院送りも厳罰には違いないんだろうが、同じ間違いをしないように教育を受けるという意味では正しいことかもしれない。


「でもね、君については判断が難航した」

「どうしてです? 俺はマオを守っただけで、精霊から直接攻撃されたわけじゃ……」

「それを他の人は知っているわけじゃない」


 精霊がつけた傷というのは、実は見る人がみれば一発でわかってしまうのだそうだ。

 ある程度の魔法の知識と技術があれば、傷跡から精霊の気配を感じ取ることができるのだと。

 ましてや俺は、顔というよく見える位置に傷跡がある。隠して生きることはほとんどできないだろう。


「だから君には確かな身分を手に入れてもらいたいんだ。悪いことなんてしていないと胸を張って言えるように、『アイワーン学園』を卒業してもらいたい」

「確かな身分って言うなら、別に王都のアカデミーじゃなくてもいいと思いますけど」

「そこについては、監視の目が行き届いていた方がやりやすいからね」

「監視…………それは、俺が悪事を働かないかってことですか」

「はっきり言わせてもらえば、その傷跡が原因で君はいわれなき誹謗中傷を受けるだろう。もしかしたら暴力を振るわれるかもしれない。そうなれば当然、アカデミー側としても対処する必要があるだろう。

 他のアカデミーではいくらこちらが事情を説明しても、直接目が行き届いていないから隠蔽されるかもしれない。残念ながら、絶対にしないとは言い切れないんだ」


 それだけ、精霊に傷つけられたという事実は重いということか。

 それに口には出していないけど、俺が悪人にならないか見極めるためでもあるんだろう。

 いじめに対する報復、魔が差して悪事を働く、そういうことを危惧しているから手元に置いて監視したいって理由もあるはずだ。

 そして不安が的中した時、迅速に対処するためでもあるんだろう。

 それみたことか、と。精霊に傷物にされた奴を入学させるから、と。

 不満の声が爆発する前に処罰を下すためには、近くにいた方が当然やりやすい。


「そういうわけで、君には申し訳ないんだが王都のアカデミーを受験してもらいたい」

「拒否することはできないんですか?」

「お勧めはできない。少なくとも入学後に問題があった場合、君自身の手で問題を解決する必要があるよ。アカデミー側も、偏見を持って君を見るかも知れないから」


 味方がゼロの環境と、少しでも味方がいる――ただし切り捨てられる可能性あり――環境。

 どちらが心強いかと言われれば、後者の方だ。それがどれくらい役に立つかは、まだ判断できないが。


「……わかりました。『アイワーン学園』に行きます」

「ありがとう。厳しい道のりになるとは思うが、頑張ってくれ」


 おや……? なんだろう、ベルウッドさんの言い分はまるで……。



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遅筆な作者のペースが上がる! ……かもしれません(汗

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