混深 2
「...ッ、ヤバっ!」
「おおっと、びっくり」
目が覚めたと同時に、落ちる寸前のことがよぎった俺はガバっと体を起こす。
「...痛く、ない?」
両手を見てグッパするが、特に痛み等はなかった。正直そこそことんだから無傷どころか死を覚悟したのだが.........。
「全く、君って子は、いつもいつも飽きさせないなー。」
と、横に座っていた魔王が頭を抱えながら苦笑いしていた。
「おっさん、回復魔法使えたっけ?」
「ハハハ、使えないわけじゃないけど死体寸前のは直せないかなー」
ソレ聞いて、かなり重症だったことはよくわかった。
「あらー、もう目が覚めたなんて人間にしてはそこそこ頑丈ねー?」
そこへ扉の開く音がした。目を向けるとひとりの、おそらくツノがあるから魔族だろう女性が手を振りながらこちらに歩いてくる。
それに対し、俺はつい口が滑る。
「...エロい女来た」
「...君からその言葉を聞くのは初めてだよ」
いやこれは本当にそうだ。
彼女は人よりの美形だった。そういった魔族はあまり見なかったし、その中でも過去1の美人だと思う。これなら素で【魅了】チートを圧倒できるとさえ思った。
「ふふっ! アンタの話以上に面白い子ね」
と、彼女は俺の前に立ち、手を差し出す。
「どうも坊や。現魔王軍四天王の一角の【リリー・アンドレア】よ」
「ど、どうも!」
握手を交わし、俺は魔王の袖を引く。
「ん?」
「......あれか? サキュバスってやつか!」
「...ねえねえ、私魔王なんだけど?」
「うん、今更なんだよ? それよりこの人スゲー美人やんけ!」
「.........この落差はいったい...。」
なんかおっさんが項垂れたが、俺は構わず彼女の方に向き直る。
「俺......いえ自分、【平和湧磨】って言います。どうぞ下僕なりなんなりお好きにお呼びください!」
「あっははは!! ねえねえ【シェル】、この子思った真逆に面白いねぇ!」
「...しぇる?」
俺は再びおっさんの方を向くが、それについては特に話す気がないみたいで彼女をやや睨むように、口を尖らせて息づく。
「...貴方はほんと、昔からよくわからない方ですよ」
「ちょっとちょっと、魔王様は威厳保たないといけないよー?」
「その程度で保てない威厳ならないほうがいいですよ。いつだってこの椅子、カ《・》けていいんですから」
「ふふ、少なくとも私は結構よ」
と何処かいたずらじみた笑みを向け、彼女は今度は俺の目線にしゃがむ。
見た目はやや人間に見えるが羽と角があり、その瞳を覗くと、何か、吸い込まれるような感覚を覚える。
「ねぇ君、実はこの胸もっと大きくなるけど見たい?」
「ちょ、リリー―――」
「あ、そのままでいいです」
俺はスッと手のひらで制した。
「...ありゃ?」
彼女はキョトンとした顔をしたが、フッ、と一息つき口にする。
「いいですか、誰もが巨乳を好きかっていえば自分はそうじゃない! 人にはそれぞれ適格なサイズというものがあり、ただ胸が大きいのはバランスが良くない! それなら俺は豊満ボディのほうが良いですし、貧乳も悪いことはないのですよ。例えばこう抱きしめたときかすかに当たる柔らかさもまたよく、ロリ巨乳は何かちょっと人外じみた何かを感じるけど逆に貧乳は長身女性にも適格なものとなることもあり、むしろ腹回りの肉厚ならこう、なんていうんですかねー。つまりはその人によって感性というものは―――」
「.....ユウマくん、ここまで饒舌になることあったんだ」
なんかおっさんがやや引いてる気がする。と、
「コラァぁぁぁ!!まてバク!!」
「...許さない」
「わあああああああ!! すみませんすみません!!助けてくださいユウマアニキィ!!」
「...あ」
と、ちょうど窓を横切る3人の姿に、何が起こったのか理解した俺は焦ってガバっとベットから降りる。
「悪いおっさん、姉さん!俺いかねえとバクがヤバそうだ!!」
と、まだややほうけたままの二人に声をかけ、俺は3人がかけていく方向に向かって駆け出した。
「...そっちの方がはるかに年上なんですけどね」
バシン、と背中を叩く。
「レディに年は禁句でしょ?」
「ははは、いつだって冗談ばかりの貴方に言われてもね。」
彼はポリポリと頬をかく。
「...それに、そろそろ次世代の育成にもかかわらないとね」
「まだ早いと思うけどね。まあ、そのために各地に散らばった四天王が【次世代】連れてこうして来たわけだけど。」
魔王の命で今日、四天王の彼女含む二名がこの地に戻ってきた。それぞれ、【次世代の四天王候補】を連れて。
「早いに越したことはない。マオがもし【魔王】を継ぐ場合、信頼は早いに越したことはないからね。」
「言って貴方、ベンと私くらいじゃない、長い付き合いって。」
「ははは、まあそれはそれ。それにもっといえば貴方が」
「はい、それ以上はだーめ」
と彼女は魔王の口を人差し指で止める。
「昔は昔。いい子連れできから安心しなさい。少なくとも【参謀】よりは、ね」
「...あったのかい?」
「...ちょっと、不穏な子と一緒だったわね。あとは4人目が私がいた頃はまだ後任決まってなかったけど」
「まだだね。今代で決まるかわからないね。一応ラブコールしてる人はいるんだけど」
「...そこまで親バカなら、なんであの子を置いてるの?」
彼女は唐突に無表情になる。
「...あの子、診察したときから【神】に近いものを感じたわよ。勇者とは比べられないほどの、魔族に対照的な何かを。」
「......」
「貴方が気づかないと思えないのだけど?」
彼女の言葉に、しかし彼はフッと笑い、
「...マオが、あの子がユウマを必要としている。そして多分、彼も、ね。」
「...本当、勇者を愛した変人魔王様らしいこと。」
彼女はため息とともに再び笑みをこぼす。
「まあ、要観察ね」
「気をつけてくれよ? 絶対今日のユウマの反応知ったらマオ、あとマオとたぶん同格の獣人の娘がきっと拗ねるから」
「あら、それは面白いわね」
「やめてください。貴方は本当に大変な冗談ばかりだから」
「...フフ、まあいいけどね。」
ある程度満足したのか、彼女は部屋を出ていく。
「...愛してるわよ、私の魔王様?」
「ははは、毎度ありがとう。」
疲れ切ったのか、彼はやや温もりの残るベットに寝転がった。
「...貴方は、この思いも【冗談】と思ってるのよね」
「ん、何回いました?」
彼は起き上がり扉を見るが、もうそこに彼女はいなかった。
再び寝転がり、少し物思いにふける。
ユウマは今日、反応がおかしかった。
1つ目は先ほどのリリーについて、そして......
焦ってこの部屋に入った時、彼はうわ言で言っていた。
なんで、守れないんだ....と外傷とは別の、苦悶の表情でうなされながら。




