act.29
珍しく事務所にエマが来た。
「お師匠まで……珍しい組み合わせですね」
マリーにコーヒーをと告げる。
マリーはエマとお師匠に頭を下げるとそのままキッチンに。
「その鉄臭いガキンチョは依頼人かい?」
デブ君に銃の構えを教えていたベルナドットが鼻をひくひくさせながらエマの隣に立つ女子高生を見た。鉄臭いって何さ……
全音の視線を集めた女子高生が一歩前に出る。
「あの!私は今公社に追われていています!
暫くの間、私を守って貰えないでしょうか!」
女子高生の言葉の真偽を確かめるべくお師匠とエマを見る。
「何でも自己増殖ナノマシンってのを開発したらしくてね。
そのナノマシンを巡って終わらてるらしいよ」
「私が公社にいた頃の後輩でリンちゃんって言うのよ。
キノコ大好きな変な子だけど良い子よ」
エマの言葉にベルナドットが大爆笑した。
「エマにヘンナコ呼ばわりされるって事はだいぶ頭がおかしいんだね!」
「失礼だぞ、ベルナドット。
まぁ、座りなよエマの後輩ちゃん」
「あ、はい……」
さてはて、どうするかな?
「君の命にどれだけの価値を払う?」
シガリロを咥えて火を点ける。横から手が伸びるがはたき落として防御。
「こ、コレとこれだけではいかがでしょうか!」
そう言って机の上には五千万と謎の無針注射器が置かれた。よく分からないけど五千万あれば充分だ。
「良いだろう。
君を守ろう」
お師匠とエマが連れて来たってのもある。
この注射器は何だろうか?中にはテラテラ光る流体が充填されている。
「これは?」
「手を出して下さい」
手を出す。リンに注射器を奪われ、普通に撃たれた。
「……で?」
痛くもなければ、特に変化も無い。
「マッシュマン達がいうことを聞くようになりますよ!」
なんじゃそりゃ……なんて事をやっていたらマリーがキノコのぬいぐるみを持ってやって来た。あんなぬいぐるみ買ったっけ?
「マリー、なんだいそれは?」
「いえ、台所をウロウロしてまして……」
キノコがバタバタ暴れ始めたのでマリーが手を離すとキノコはトコトコと僕の方に来る。何だコイツは?
「これは?」
「私が作った自己増殖ナノマシンを使ったマッシュマンです!」
「これ作ったんですか!?」
マリーが目を輝かせて依頼人を見た。
嫌な予感しかしない。
「凄く可愛いです!」
「でしょ!」
あーあ、全く。マリーは変なものが好きだね。そう言えば何時だったか、公社の技術者が作った変なパワーアーマー作ったのは。
あの時もマリーはあのパワーアーマー気に入っちゃてたな。
「貴女にもこのマッシュマンが言うこと聞くナノマシン打ってあげるわね!」
言うが早いか依頼人、リンはマリーに先程の注射と同じ物を打った。
「あのねリンちゃん。
多分、そのナノマシン二本あるだけで公社でデッカイ派閥作れるよ?」
「そんなに凄いのかい、このキノコを操れるナノマシンは?」
試しにウロウロしているキノコにこっちに来いと言ってみると此方に寄ってきた。マリーが感心した様にこっちに来てと手を差し出すとキノコはそっちに歩いて行く。
下らない。
「まぁ、僕はこのキノコを操れる能力はどうでも良いんだけどさ」
「おい!外に面白い者が居ったぞ!」
ドバンと扉を蹴飛ばして同居人がやって来た。
その手には大きなキノコが四つ切ぐらいに切られている。キノコと出会ってとりあえず切ったと見た。
「これだけ大きなキノコ!
焼いて良し!煮て良し!蒸して良しじゃ!」
「そのまま食って死んでしまえ」
仕事の依頼人が来てるから部屋に引っ込めと言おうとしたが、それよりも早く依頼人が食い付いた。
「ビッグマッシュマンに勝ったんですか!?」
「びっぐ……なに?
このデカイキノコか?」
「はい!」
「何ぞ、道を歩いていたから後ろからバッサリやったのよ。
見ていたらブリブリとして美味そうだった故に」
拾い食いより酷い。
「美味しいですよ!
私のオススメは焼いて醤油を掛けると凄く美味しいです!」
ナノマシンの塊だろうが……食うなよ。
「ほう!
それは良い事を聞いた!」
同居人がマッシュマンなる死骸を抱えて台所に入って行く。マリーは複雑そうな顔で足元に何時の間にか増えていた小さなキノコ達を抱え上げて抱き締めている。
まぁ、良い。話を進めよう。
「それで?
この任務の達成条件は?」
「公社が彼女を諦める事だね。エマ君と同じさ」
「成程」
因みにエマの時はお師匠が後ろ盾にいることで解決した。
「成程……」
頼って来て貰った所で申し訳無いが僕に後ろ盾に成れる程の力はない。いや、ああ、そういう事か。
「お師匠、任せてください」
「え?うん、君なら簡単に出来るだろう」
やはり、僕の狙い通りだ。
「それで、リンさん。君を狙ってる派閥の人間は誰だい?」
「ほぼ全部の派閥です」
「主要な所だと?」
そうですねぇ〜とリンがいくつかの名前を上げる。ステン親子率いる議会派、トンプソン親子の部署派、技術開発部のAI派に知らん名前のポロポロと上がる。
隣に座るベルナドットが何時になく緊張した様な顔をしていた。
「この中で最もデカい派閥は?」
「ステン派閥とトンプソン派閥に技術開発部です。
後は殆どがこの三派からの派生派閥です」
「なら、この三派閥と決着つければ何とかなるのかい?」
「はい」
なら、話は簡単じゃないか。取り敢えず、アナルとオカッパに……技術開発部は誰がトップなんだ?
「技術開発部のトップは?」
「トップと言う概念はありませんが、発言力が強いのはバイオテクノロジー部の長壁さん、主産業の一つであるパワーアーマー開発部の大天才、オオスちゃんです」
なんだ。全員知り合いじゃん。
「分かった」
携帯端末でアナルと糞ヤクザに長壁とオオスを呼びつける。
アナルとヤクザは最初は突っぱねたがお前の知り合い全員撃ち殺すぞと脅したら渋々承知し、オオスと長壁は二つ返事で了承した。
今すぐ来い、とは流石に無理だから3日後の10時にこの事務所に集まる事にさせた。つまり、この3日間は最後の攻勢になる筈だ。
「やれやれ」
「伏せろ!」
シガリロに火を点けようとした所でベルナドットが僕に飛びついてくる。それに少し遅れて同居人が弟子君とマリーを、お師匠がエマと依頼人を床に押し倒す。
直後、壁が吹き飛ぶ。なんだ、と言う前に凄まじい銃弾の嵐が浴びせられている。
「やれやれ。早過ぎないか?」
「こんなものさ」
「ワシの家!」
お師匠は笑いながら葉巻を咥え、僕はそれに火を差し出す。葉巻に火がついたのを確認し、シガリロにも火を点ける。
「怪我はないか?」
「アタシは大丈夫だ」
ベルナドットが頭を低くしながら壁があった方を睨み付け、エマと依頼人は確りと頭を抑えて伏せている。マリーはスターム・ルガーを抜いて入り口を睨んでいる。
よしよし。
「それで、どうするかね?」
お師匠が姿勢を低くしたまま紫煙をゆっくりと吐く。
ゴンゴンと分厚い靴底が階段を駆け上がる音が聞こえた。登ってきたかな?
「そうですね」
リボルバーを抜いて入り口に一発。
「外にお昼でも食べに行きましょう」
扉がゆっくりと開いて頭に穴を開けたスーツが倒れて来た。やっぱりこっちから来たか。
「ハッハッハ。
良い案だね」
お師匠が笑うとフォーチュネイト・サンを抜いて天井に跳弾させて6連射。銃撃の嵐は一瞬で止む。凄いものだな。
よっこいしょとお師匠が立ち上がる。ベルナドットは部屋に走って行き今の所愛用しているアサルトライフルとマリーの自動小銃を片手に戻って来る。
エマは持って来たショットガンを片手に頭を下げたままだし、リンも同様だ。同居人は自身の部屋に隠れていたカキタレ共にエマ達と付いて来いと告げて大穴の空いた壁から飛び出て行った。
「じゃあ、行こうか。
お師匠とベルナドットはエマと依頼人をマリーはお師匠とベルナドットの動きを見ながらついて来て」
全員が依存無しと頷くのでスーツ姿の死体を踏み越えて外に。出る前に顔を外に一瞬出して引っ込める。直ぐに弾丸が飛んでくる。
視界には5人見えたので見えた位置に銃だけ出して銃撃。
「よし、安全だよ」
輪胴を抜いて新しいものを嵌め込む。
両手にリボルバーを握り階段を降りる。下に降りればまだ何人も居たが視線をくれてやれば全員が怯んだ様に武器を下ろした。
「それで良い。
君等も命は惜しいだろう。僕だって無闇に殺したくはない。君等は何処の派閥だい?」
「す、ステン議長の系統だ……」
「ステンか……」
シガリロを咥えて紫煙を吐く。あのクソアマ、いつか本当にぶっ殺してやろうかな?
「取り敢えず、三日後に時間に遅れないようにって念を押してね。
1秒でも遅れたら撃ち殺すぞって」
「わ、分かった」
「あと、また襲って来てもいいけど、次は殺すからね」
それじゃあバイバイと昼飯を食べに行く事にした。
行くのは勿論ケラー・ロジェ。少しばかり迷惑が掛かるかも知れないが、彼処のマスターと僕はなかなかに良い関係を築けていると思う。事前に一言告げて断られたら適当な店にするとしよう。
「此処で昼ご飯を食べよう」
ケラー・ロジェに着き、中に入る。
「マスター、少しばかり面倒くさい案件をもらってね。事務所が半壊してしまったんだ。
その兼ね合いで騒がしくなるかも知れないが、ここで昼をとっても大丈夫ですかね?」
「勿論!よく来てくれました!
ガンスリンガーにシェリフのお二人なら例え宇宙人共が攻めてきても店を開けますよ!」
さぁ!どうぞどうぞと大歓待される。これがあるからあんまり来たくないんだよね。お師匠と同列に並べられるとより恥ずかしい。
テーブル先に座ると珍しくベルナドットは僕から離れてカウンター席に陣取る。手にはアサルトライフル。
「ベルナドット、そんな敵意を剥き出しにして座ってちゃ店の迷惑だよ?」
注意するとうっさいと睨まれる。やれやれ。
「取り敢えず、ハンバーグを」
僕が注文をすると皆も注文をし始めた。ベルナドットは要らないと言うので、片手で摘めるもの頼んでおく。礼儀が成ってない。
そして、注文を終えたところで新しい来店者だ。。
「おい!アキは居るか!」
「お久し振りですね、くるみ子さん」
今日は休みだったデブ君を連れたくるみ子さんだ。その後をくるみ子さんのお師匠たるサヤさんもいる。余り使いたくないが、立ち上がっておくか。
「その男が噂のガンスリンガー?」
どこからかそんな声が聞こえた。声の主を探すとサヤさんの後ろからそっと見ている少女が居る。フム……誰だろうか?
「待て待てアキ!」
「落ちつけアキ!」
サヤさんとくるみ子さんは焦った様に両手を開いて僕に向ける。それに合わせてベルナドットが後ろから銃を構え、マリーが苦虫を噛み潰したような顔で銃を向ける。
二人が能力者なのは知っているからだ。
「落ち着こうか、二人共」
ベルナドットとマリーに銃を降ろすよう告げる。
「そちらのお嬢さんは?」
「私の新しい弟子だよ。
氷を操れる」
伝説のポケモン3体揃ったよ。
「成程。
サヤさんは能力者の中ではかなり有名ですもんね」
視線を感じ、根源を見ればお師匠が外を指差していた。そちらに視線を向ければアリスとコッホが怖い顔してこちらに歩いて来ているのが見えた。後ろには公社のパワーアーマーだ。
「ふむ。
サヤさん達の要件は?」
「トンプソンだ。あとは分かるな?」
サヤさんはチラリとテーブル席のリンを見る。リンは一切ソチラに目を向けないがかなり身を縮こませており、隣に座るエマは怖い顔でショットガンを握っている。
「受けましたか?」
「……ああ」
サヤさんの言葉に思わずため息が漏れてしまう。
「サキさん達とやり合うのはカナリ骨が折れる。本当に」
「私もアンタとやり合うぐらいなら公社と戦争する」
「では何故?」
尋ねたところでデブ君が前に出た。
「先生、ごめんなさい。僕が悪いんです」
デブ君は今にも泣きそうな青ざめた顔で端末を見せた。其処にはふくよかな中年の女とその女に銃を突きつけるスーツの男が写っている。
「誰で?」
「僕の母……です」
成程、身内を人質に取られたのか。
「監督役は私」
サヤさんの新しい弟子がそう告げた。
「ガンスリンガー、リンを渡しなさい」
新弟子が端末を取り出して写真を確認しているのか、女性陣と端末を交互させていた。
取り敢えず、端末を撃ち抜いてやる。
「すいません、マスター」
奥のキッチンからショットガンを持って出て来たマスターに謝っておく。
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
新弟子は驚いたように固まっていたし、サヤさんは完全に両手を挙げて降伏のポーズを取っていた。
やれやれ。




