act.23
さて、面白い玩具をエマに渡して一か月がたったある日、デブ君がやって来た。
「お久しぶりです、ガンスリンガー」
「やぁ、デブ君。
シュッとしたね」
「はい。約束通り10㎏体重を減らしました」
「へぇ、それは凄い」
7か月掛ったけど。まぁ、7か月かけてでも10㎏も痩せる事が出来たんだから凄いな。
寝る前は良くテレビでダイエットだの何だのと騒いでいたが、結局体を動かすのが一番の近道なんだよな。
「僕を、くるみ子さんに相応しい男にして下さい!」
「良いよ。
まぁ、其処に座りなよ」
マリーを見ると今日もまた弟子君と共に投げ飛ばされていた。7か月経っても経験の差は覆せないか。
「さて、君をくるみ子さんに相応しい男にして欲しいとの事だが、そもそもくるみ子さんに相応しい男ってのは何かな?」
「……僕は貴方の様な男がくるみ子さんに相応しい男だと思っています。
銃の腕も、金も、容姿も、それに立ち振る舞いも。シェリフの弟子、二代目シェリフ。ガンスリンガー。このあたりで貴方の名前を知らない者はいないし、公社でも貴方を要注意人物として取り上げています」
最後の言葉は聞き捨てならない。
「そうか。
銃の腕を磨きたいなら毎日銃を撃て。センスが有れば僕レベルには簡単になれる。センスがないなら、的に弾を当てられる程度にはあがる。
構えて」
腰からリボルバーを引き抜き、輪胴を抜く。そして、それを渡す。
デブ君はそれを恐る恐る手に取り、握る。
「どう握ればよいかわかるかい?
銃は所詮道具だ。鉄と木で出来た生き物を殺し、物を壊す。だから、優しく握る。そいつは人を殺す。しかし、人が死ぬのは結果論だ。その結果はその過程ですべてが覆る」
「はい」
「殺す理由は君が決めろ。
殺す術位は見付けてやろう」
「分かりました」
デブ君がリボルバーを構える。
銃を握る様は……うん。何時か如何にかなるだろう。素人はそんなものだ。
「午後に射撃場に行こうか。
君の何時も使ってる銃を持っておいで。メインとサブ、両方」
「分かりました」
「じゃ、午後に来てくれ。
マリーも午後に射撃場に行くからそのつもりでね」
ベルナドットに投げ飛ばされて床に寝転がっているマリーに告げる。
マリーはコクコクと首を上下させていた。
「参考までに聞くけど、得物は?」
「実弾系のアサルトライフルと自動拳銃です」
「種類は?」
「……分からないです」
「口径は?」
「7.62mmと45口径です」
成程。AKの模造品とガバメント系の模造品か。
弾出ると良いね~腕吹き飛ばないと尚良いねぇ~って感じかな。そんな感じでデブ君を見送り、ソファーに座る。
ベルナドットがマリーと弟子君に結言を述べてシャワーに行けと告げた所だった。
「マリーはどうだい?」
「上々だな。
何であの子はあんなに付いてこれるんだ?」
ベルナドットにタオルを渡し、机に座る。
「そりゃ、マリーは僕を何時か殺すつもりなんだからさ」
「はぁ?
どういう事だよ」
それからマリーが何故僕の下に来たのか説明する。
ベルナドットは黙って聞くだけだ。そして、マリーがシャワーから出て来た。ベルナドットは何も言わずに脇に置いてあった彼女の銃を取ってマリーに向ける。
「ヒィッ!?」
マリーは猛烈に膨らんだ殺気に当てられてその場で動けなくなる。腐っても、と言うには些か違うが嫁になっても傭兵だ。
シガリロを咥え、火を付ける。
「ベルナドット、人差し指を下ろせ」
「それは出来ない相談だ」
「誰がお願いと言った?
もう一度言うぞ、人差し指を動かすな」
ベルナドットがビクンと震えて此方を見た。
「マリーもこの程度の雑魚にビビっちゃダメだよ。
僕みたいになれないよ?」
「あ、あの、えっと……」
「ベルナドットに君が僕の弟子になった理由を話したら勝手に勘違いしたんだよ。
まぁ、君が僕を殺しに来たとしても今の君じゃ僕には勝てないけどね」
昼食を食べようと告げるとマリーはシュンとして台所に。ベルナドットもッチと舌打ちをすると共に台所に入った。
それからマリーが作ったパスタを食べて、13時頃にデブ君が銃を持ってやって来る。マリーもガンケースに銃を入れて準備は出来た。
「射撃場ってどこにあるんですか?」
「ん~?
ああ、近所の河原だよ。ま、この街じゃどこもかしこも射撃場みたいなものだけど、一応周りに関係ない人もいるし広い場所で撃つ方が良いでしょ」
そう言う訳で河原に向かう。ベルナドットも小銃を担いで歩いて来る。河原に来るとアナルさんとコッホにアリスとメイドが3人いた。
メイド3人は人間ではなく機械っぽい。目が違う。人間の目ではない。試しに殺気を飛ばすとメイド達は瞬きせずに背負っていたライフルを構える。その動きは正に機械であるが反応は人間だ。兵士。しかも戦場で経験を積んだそれだ。
「何だ、サイボーグか。
お久しぶり、コッホにアリス」
アリスはアレから面と向かって会ったことは無い。マリーは定期的に授業を受けに行っている程度だ。聞いた話ではあれからコッホがうまく立ち回って恋仲になったそうだ。結構結構。
「ああ、久しぶりだな、ガンスリンガー」
「ひ、久しぶりね」
シガリロを咥え、デブ君とマリーを見る。
「マリー、いつも通り。デブ君はマリーに教えて貰いながら準備して」
火を付けてからメイドを見る。
「その義体は公社製じゃないね。
人形師かい?」
メイド達は何も言わない。銃を構えているだけだ。
「ご主人様のお許しを得ないと話せないのかい?」
ま、良いや。紫煙を吐くとアリスとコッホを見る。こっちは変わらないね。良くも悪くもない。アナルさんを見る。相変わらず僕に付き纏ってくるね。話しかけてこないから挨拶だけで済ませるけど。
「先生、準備出来ました」
そこにマリーがライフルを持って戻って来る。デブ君も同様だ。
「じゃ、デブ君。
的を右から全部撃って」
「は、はい」
デブ君がライフルを構えて撃つ。外れ。撃つ。外れ。撃つ。外れ。撃つ。当たり。次の的。撃つ、外れ。撃つ。外れ。見てるだけで時間の無駄だ。マリーはジッと見ている。力み過ぎだし。
全部で5個の的、まぁ、これは空き瓶なんだけどさ。それを撃つのに5分掛った。
「デブ君、君、銃下手糞だね。最初の頃のマリーみたいだ」
「全くだよ。よくこんな腕で今まで生きてこれたね。戦場に居たら真っ先に死んでるタイプさね」
ベルナドットも苦笑を通り越して哀れみすら浮かべている。
「取り敢えず、マリーに銃の持ち方から教わりなさい」
「それが良い」
ベルナドットがそう笑うと瓶を並べ出す。
そして、僕の隣に立って構える。そして、ドンドンドンと撃ち始めた。5秒で15個に並んだ銃を撃つ。流石傭兵隊長。ベルナドットは笑いながら瓶を15個を置いて、僕の肩に手を置いた。
「リボルバーじゃ、難しいかい?」
ん~?っとニタニタ笑われる。イラっと来るので1秒で6個。2丁使って12個。リロードに2秒で残る3つを1秒。これで5秒だ。
シガリロを口から放し紫煙を吐く。
「この程度出来て当然。
3丁使えば3秒で終わるさ」
弾倉を交換して完全に止まっているマリーとデブ君を見る。
「ほら、手が止まってるよ?
誰だって出来る珍しいモンじゃないでしょ」
「相変わらず、キチガイじみた射撃の腕ですね」
そこで漸くアナルさんが話しかけて来る。冷や汗を浮かべているのは何でだろうね。
「この程度、誰だってできますよ。
アリスやコッホでも出来ると思いますよ?」
ねぇ?と告げると二人はお互いに顔を見合わせそれからまぁ……と頷いた。
「貴方、体の何処も機械化してないって本当?」
「ええ、幸いにも機械化に縁のない生活をしているので」
そこでアナルさんが話し掛けてきた。
「じゃあ、そこの3人でも余裕でできるってことかしら?」
「そうですね」
そこの三人とはメイドさん達だろう。
「発言よろしいです?」
真ん中に居たライフル銃のメイドが告げる。
「何かしら?」
「我々でも彼の様な射撃は不可能です。
何ですかドローショットに0.04、次弾発射までと間は0.05で全てヒップショット。持ち替えて次弾発射まで0.2秒。
そして、発射された弾丸は全て瓶のど真ん中に命中。控えめに言ってキモいです。
レーザー測距も弾道予測シミュレーターもましてや機械化による最適化と最速化すら行って居ない人間。
我々も自動ライフルを使えば彼と同等のタイムで出来ますが、彼と同じではありません」
メイドさんはスカートの裾を持ち上げると深々と頭を下げる。突然のそれに後ろの二人も全く同じモーションで動いたのには少し驚いた。
「我が主が大変無礼な事を申し、私共から謝罪させて頂きます」
「いや、別に気にしてないよ。
僕もそこまで本気でやってないし。このお遊びに意味は無いからね。ただの余興さ」
肩を竦めるとメイドさん達はありがとうございますと頭を下げた。うん、何かスゲーな。
ま、良いか。メイド達からデブ君を見る。デブ君はマリーの話を真剣に聞いている。マリーはエッととかうーんととか言いながら銃を構え、何かを教えていた。
マリーが教え、デブ君か構える。そして、撃つ。形は様に成っている。うん。様に成っている。
しかし、ぶっ放すが当たらない。何だろうね。的まで25メートル程しかないのに。多分、糞なのだろう。能力が無いのだ。
ならば小銃を与えるだけ弾の無駄だ。弾をばら撒くしか能の無い銃を渡せばよい。
「マリー、デブ君はセンスがない様だ。
時間の無駄だね」
「あ、はい」
「あの、えっと……すいません」
デブ君がシュンとした。
「良いよ別に。僕に実害は無いもの。
君に良い銃がある。一旦家に帰ろう」
家に帰り、部屋の脇に飾っておいたM60を手に取る。
「君にこれをあげよう」
「え?い、良いんですか?こんな高そうなモノを……」
「サコーM607.62mm汎用機関銃ですね」
そして何故か付いてきたメイドさんが解説してくれる。
「嘗て地球状に存在していた超大国の一国が作り上げた狂戦士達が愛用した機関銃で数多くの映画でも主人公や力自慢の男達が腰に抱えて撃ちまわった銃とデータが残っております」
色々と違うけどもまぁ、良いや。
「僕もそれは拾ったからね。
飾っとくのも良いが撃って使うのも良いと思う。それ自体はかなり使い難い。エマにお願いして改造して貰え……いや、エマに改造する際は僕も連れて行け」
「分かりました」
あの守銭奴は絶対に訳の分からん理屈を捏ねてそれを安く買い叩き、安価な銃をデブ君に高額で売り付けるだろう。
「あの、早速向かいたいのですが……」
「勿論良いとも。行こう」
マリーとベルナドットはどうするか?とベルナドットがマリーに射撃のコツを教えると言うので任せた。
エマに宜しく伝えておいてくれとも言われたので請け負っておく。
「エマさんって結構凄い人なんですよね?」
「ああ、そうだな。
彼女は現代人でガンスミスの神様に愛された天才少女だ。公社の技術開発部にも属していたとか何とか」
「えぇ!?エリートじゃないですか!なんでこんな場所で?」
デブ君が驚いて僕を見ていた。
「何故かって?
エマ曰く、彼処は権力闘争と派閥争いが酷すぎて自分の研究に没頭出来ないとか言っていたね」
今は大分改善されたらしいが、エマは既に公社を見限っている。
「な、なるほど……」
「まぁ、本当に銃とお金が大好きな変人だが腕は確かだよ。君ももう少しこの世界に慣れてきたら活用すると良い。それまでは僕やくるみ子さん、ベルナドット辺りと一緒に行きなさい」
でないとまた銃弾発射機構付き十徳ナイフを買わされる。
エマの店に行くとエマが腕を組んで店の前に立っていた。何やってんだ?
「やぁ、エマ」
「あらアキとデブ君」
「デイブです」
「何やってんだい店の前で?」
自分の店を見詰めているので隣に並んで店を見る。
「いえね、ちょっと面倒臭い依頼が2つ入ってね」
「面倒くさい依頼?」
「公社絡みが一件と個人的な奴が一件」
「話せる方の話は聞くよ?」
「なら公社の方を聞いて頂戴」
どうぞ、と告げると公社が本格的にエマを囲い込みに来たらしい。土地の権利書と店をもう一軒武器ごと買える程のお金を持って来たのだとか。
「売れば君は公社行、断れば無一文で宿無し?」
「そうね」
「権利書は誰が持ってるの?」
「名前分かんないけど、アナイスタシアの部下の一人ね」
アナルか〜最近多いね、アイツ。
「権利書奪って来てよ」
「良いけど、かなりお金掛かるよ?」
「じゃあ、こんだけと今後のメンテナンスや武器弾薬の購入代割り引くわ」
エマが懐から電卓を取り出して僕に見せた。
「ん〜……せめて、このぐらいは欲しい」
電卓の数字を打ち替える。
「ちょっと、それじゃ、私のご飯が一日2食になるわ」
「2日で3食なのを僕は知ってるぞ?」
「なら、このぐらいにして」
さっきの1.5倍だ。
エマにしては随分と羽振りがよいな。
「よし、良いよ。
期限は?」
「特に言われてないけどまた明日来るってさ」
「了解」
ナルホドねぇ……成程。
「じゃ、僕の用件言うね」
「ええ」
結果から言えばM60はM60ModEになった。ModEのEはエマのEだ。




