act.19
私の名前はベルナドット。ギレーナ・ベルナドットだ。今、私は地球に居る。何でかって?火星で運命的な出会いを果たした旦那の家に押し掛ける為だ。まぁ、嘘だ。
「いい加減、自分の家を見付けて出て行ってくれませんか?」
「別に大家の婆は許可してくれたんだから良いだろう?
それより、キングサイズベッドを買おうぜ」
「嫌です。
それより、貴女が僕の事務所から出て行けば問題ないです」
ハッハッハ!ナイスジョークだぜと笑ってやると旦那は笑みを湛えた表情に僅かばかりの殺気を込める。
こういう人間は大なり小なり有名になる。思考の何処かに殺すって言う選択肢が必ず出て来る。そして、その選択肢を理性と言う常識で先ずは否定する。そして、ベストな選択肢を選び、更にその選択肢をもう一度殺すって選択肢と吟味するんだ。
つまり、サイコパスって奴だな。本当に。
「それよりも、私は銃が欲しい」
何時も使ってた奴は火星に置いてきた。
脱出する際は難民だって事で難民移送停戦協定に基づいて出て来たので武装は解除しているのだ。まぁ、質の良い市販品だから捨てた所で痛くないし、そもそもあの銃は全部公社や軍からかっぱらった銃だからぶっちゃけ元手ゼロだな。
「僕は大口の店は知りませんよ」
「私のだけで良い。
暫くはお前と一つ屋根の下だ」
言うと、旦那は座っているソファーに体重を預けて上を見た。幼い顔立ちが残る青年だが、その瞳は実に老成している。何百人も何千人もの人の生き死にを見て来たエルフの爺みたいな目をしてやがる。そして、そこからは殺気か無気力か、そのどっちかしか出て来ない。
「なら、エマの店に行って下さい。
僕が紹介出来るのは其処だけです」
「エマ?」
確か、火星に来てた逝かれたガンスミスの膜付きだ。
マリーとか言うお人形みたいなガキと共にキャンプをウロウロしては逝かれた銃ばかり作っていたな。まぁ、無料で団の銃を整備したり弾を作っていたから大目に見ていたが、ありゃ相当な逝かれだ。違いない。
平気な顔で撃つと撃った側の人間の皮膚が溶け出すようなヤバい薬品とかを使う銃を作り上げるんだ。
「あの油臭い小娘かい?」
「ええ、頭は少々可笑しいですが、腕は確かです」
旦那は私に脇に置いてあったショットガンを投げて寄越す。火星でも持って来ていた奴だ。
弾は勿論抜いてある。台先を前後させてからドライファイア。トリガープルは1.2㎏前後だが、台先の動きもトリガーストリークも非常になめらかで良い仕事をしている。クルミ材で作られており培養樹木ではない天然ものだ。
「それを作ったのはエマです」
「気に入ったね。
よし、行こう」
旦那に告げると、嫌な顔をされた。旦那に殺された私の馬鹿義弟と同じ反応だ。面倒臭いって時のそれにそっくりでもある。
「僕の名前出せば話は通ります」
「ハッ!デートだよ!
恥ずかしい事言わせんなよ!」
旦那が何時も着ている上着と帽子を投げてやると、旦那は渋々立ち上がり、腰には何時もぶら提げている旧式のリボルバーを吊るした。
この青年はこの古臭い、もう十何世紀も前の火薬式拳銃でいとも簡単にパワードスーツを殺してく。普通の人間には出来ない所業だ。旦那が“お師匠”と慕っている先生が手放しで褒め称える理由は其処にある。が、何故か旦那は自身の自己評価がかなり低い。普通、300メートル先の戦闘機動するパワードスーツ群相手にヒップショットの六連射をアイカメラ貫通させてのヘッドショットさせる奴なんざ見た事ない。
確かにレーザーバレットだったが、問題は其処じゃない。レーザー銃にしろビーム銃にしろ、発光部は銃に固定されており、トリガーを引く衝撃、つまりスイッチを押した衝撃程度ではズレないのだ。しかし、レーザーバレットは違う。
撃鉄を叩く衝撃でビーム乃至はレーザーを発射するためにその衝撃で弾が揺れ、結果僅かばかりのズレが生じるのだ。
それは50メートル圏内での至近距離での戦闘では左程影響はないが、流石に300メートルも離れれば数センチ物ズレになる。
そして、パワードスーツはアイカメラやその他一部分だけを覗けば対光学兵器用のコーティングが施されておりほぼ威力は消えてしまう。にも拘らず、そのズレを勘と経験で修正して全弾命中させていくのだ。
「じゃ、行こうぜ」
私はこのアキと言う青年にゾッコンだ。
私の義弟に対しても何の迷いもなく引き金を引き、そして殺してしまった無慈悲さと狂気。そして、それを何とか隠そうとしている姿。そういう可愛いところが堪らなく好きなのだ。愛おしい。
旦那はなかなか持てるらしく、この前付いてきた腑抜けの膜付き、アリスとか言ったか?あれが惚れているようだが、まぁ、無理だろうな。
旦那は金髪のクルミ子とか言うガリガリチビな膜付きが気に成っているようだが、アレは旦那に対してそういう感情を一切抱いていない。旦那が可哀そうだからさっさと振ってやればよいのに。そうすりゃ、私も万々歳なのだ。
街に出る。反応は4つ。私を見て発情するアホ、旦那を見て発情するバカ、私を見て嫉妬する間抜け、旦那を見て嫉妬する糞。旦那は気が付いていない。
殺気に関する察知は尋常では無く、それ以外はほぼ無反応だ、
「ガンスリンガーさん、これ食べて」
事務所近くの露店でホットドッグを売っている小娘がアキに焼き立てのホットドッグを差し出す。
「ああ、悪いね。
また困った事があったら気兼ね無く言ってね」
旦那はそれを受け取り小娘と奥でホットドッグを焼いている親父に手を挙げた。
何でもショバ代をせびりに来たヤクザが騒いでいたのでボコしてやったとか。本人は名前を売る為と善意とある程度の金が信用と情報を得る一番の近道として計算づくめの行動らしいが、まぁ、そこに自分がモテる事を入れていなかった。
そう言う抜けている所も好きなのだ。
「私の分は無いのか?」
「貴女は何の貢献もしてないでしょう?」
「デートなんだから恋人の分も買うのが男の甲斐性ってもんさね!
ま、私がアンタを養っても良いんだかね?」
どうする?と意地悪してやると、旦那はハメられたと言う顔をする。可愛いねぇ。
「では、これをどうぞ」
そして、手にした出来たてのホットドッグを差し出してきたので、一口だけ貰っておく。
「一口だけ貰っておくよ。
間接キスだぜ?」
ヒッヒッヒと笑うが、旦那は仏頂面で何の迷いもなく私の食べた所を一口で齧り取ってムシムシ食べ始めた。
「もっと恥ずかしがれよ」
「僕は貴女の隣を歩いているだけで恥ずかしいですよ」
「もっと顔に出せって言ってんだよ」
肩を叩き、照れんなよと笑うと眉を顰められた。
そんな感じのやり取りをしていると、旦那は次から次へと話し掛けられ色々と貰う。殆どが消え物で、偶に花売りのガキから花束を貰っていた。
そして、花束は泣いている小さい子供や老婆に与える。キザでもありカッコつけでもあり、紳士だ。
「エマ、起きてるかい?」
油臭い子、エマの店に着く。何やらゴチャゴチャとしており壁一面には大小様々な銃が並んでいる。ホコリを被って並んでいるそれは一見マトモに見えるが、全てジャンクだ。
ショーケースには様々なパーツと弾丸が置かれている。此方はマトモだ。
店には数人の男が銃を見ていた。3人だな。3人の内1人はなりたての傭兵で、残り二人は常連だ。
「あら、何か御用?」
相変わらず油臭いエマは顔に掛けた保護マスクを上げると、私を見た。
「あらベルナドットさん。
新しい銃ね」
まだ何も言ってないのにサッとカタログを出された。公社のカタログは勿論いくつかの有名所のカタログに、手作りのカタログだ。
「大量に品下ろしするなら結構時間待って貰うわよ」
そして、何を言う前に。言いたい事を全て言われた。
「拡張パーツのカタログも見せてあげたら?
傭兵もそう言うの付けるんでしょ?」
旦那は知らんけどという顔で告げる。
旦那はそうだ。基本的に拡張パーツを付けない。古臭いレバー式ライフルを持っていて、其処には単なる筒が付いているだけだ。まぁ、ピープサイトであり板を差し替えてマイクロサイトに変更出来るのだが、少なくとも100とか200先を狙って戦う代物でもないのに、旦那はその銃で800メートル先の狙撃手や指揮官を狙撃していた。
本人はシェリフなら拳銃で出来ると本気で信じている様だが、あのジジイは2.5倍スコープ付けた軍用の高精度選抜ライフルで撃っていた記憶がある。
どの位練習したのか?と部下の一人が聞いたところ、対物ライフル大好きなイカレ野郎ことマガトに話を聞き、一週間程基礎射撃をしただけとかで、参考にならんと部下が嘆いていた。
「エマ、お前のオススメってのは何だ?」
カタログをパラパラ捲り、手作りのカタログに目を通すとお手製の写真が貼り付けてあり、口径と用途に重量と長さのみが書かれている。
作動とか使用材質、他のカタログに書かれているような事は一切書いてない。故に聞く。
「私のオススメ?
そんなの聞いてどうするのよ?使うのは貴女よ。貴女の好きな銃を言って頂戴」
「エマは要望通りの銃を作ってくれるよ。
確り見ないと余分な物も付けられるけどね」
例えば豆挽き器や缶切り。何に使うんだよと突っ込みたくなる物が大量に付いた弾丸が撃てる十徳ナイフを売っているらしい。さらに言えばそれを主力商品やしようとしてるとか。
逝かれてるな。
「逝かれてるな。
誰が、こんなアホなセットを買うんだ?」
目の前に置かれた十徳ナイフと化した銃床を見る。エマが自信満々に出して来た奴だ。
「さっき売れたのよ!!」
エマが告げ、思わず旦那と見合ってしまった。それから、買った馬鹿に同情するべきか上手く売りつけたエマを褒めるべきか考え、黙って置く事にした。
「取り敢えず、普通の銃で良い。
AKタイプで、フルオートで撃てる銃だ。弾薬は火薬。パラ仕様が良い」
「なるほど。
この木銃を何時もみたいに構えてみて」
差し出されたコード付きの木銃を差し出されたのでそれを構える。すると、コードの繋がった先にあるコンピューターに何やらデータが算出されておる。なんだ?
「何だいコリャ?」
「貴女の体格を計算してるのよ」
「なるほど、で、何が分かるんだ?」
旦那を見ると靴と一緒だよと言われた。
「公社のF型コンバットブーツ28だ」
旦那に告げるとオーライと言われた。
それから暫くして店にくるみ子とデブがやって来た。
「エマ!テメェ!!」
そして、くるみ子は入って来るなりいきなりエマの胸ぐらを掴もうとしてカウンターに阻まれていた。背と腕の長さが足りないのだ。
「何よ?」
エマが何をしたいんだ?という顔でくるみ子を見る。デフは私と旦那を見て何やら興奮し、それからくるみ子とエマの間に割って入った。
「ぼ、僕は大丈夫ですから!
クー子さん!帰りましょう!!」
デブはくるみ子に言うがくるみ子は駄目だと引かない。
旦那を見ると訝しげにデブを見ていた。
「取り敢えず落ち着けよ。
詳しく話せ」
状況が掴めないのでくるみ子に言うと、カウンターの上に十徳ナイフ型の銃を置かれた。
それで私と旦那は理解した。
「返品制度は勿論あるんだろうな?」
くるみ子は背中に回したショットガンを手に取り、エマに詰め寄る。そこで漸く旦那が割って入る。
「落ち着いて下さいくるみ子さん」
「落ち着いてるよ全く!」
旦那はカウンターの上に置かれたゴミを手に取る。
「何故、君はこれを?」
「て、店主さんにオススメされたんです」
そこの、とエマを指差すデブ。視線はエマに集まる。
「私、嘘はいってないわ。
コーヒーは豆から飲むと美味しい。そして、豆を挽くには豆挽きが必要。
戦場では缶詰の食事が出る事がある。そして、大多数の人間は缶切りを無くす。戦場で絶対に無くさないものと言えば?そう、銃よね。じゃあ、無くさないものに無くしそうなものを付けたら安心じゃない?」
「オーケー、もう喋るな」
呆れて物も言えない。こんな阿呆な、それこそB級通り越してC級な商人な売り文句にそれを買う阿呆。
くるみ子が私を見た。
「エマは悪くねぇよ」
旦那を見る。
「流石の僕も擁護できないです」
手の施しようがない。
「それより、君はくるみ子さんとどんな関係で?」
「あぁ!そうだ!
すっかり忘れてた!アキ!紹介するぜ!私の恋人のデイブだ!」
「は?」
旦那が笑顔で固まっていた。デイブと紹介されたデブはなにや照れていた。私は笑っていた。
「初恋は実らない物だぜ?」
そして、固まっている旦那の肩を叩き慰めてやる。出来た女の特権だな。
「どの様に出会ったのか教えて貰っても?」
そして、旦那が何とか捻り出す。
何でも無い話だ。デブは金を巻き上げられており、それは毎回くるみ子の住んでるアパートの裏でやっていた。くるみ子はそれを時々見かけており、ダセェと馬鹿にしていたらしい。
ある時、丁度旦那が火星に来た時に相変わらずデブは金を巻き上げられていた。
“金を出しな”
そんな決まり切った文句にくるみ子は次の台詞が直ぐに分かったらしい。
“この前もあげたじゃないか”
そしてボグン。パンチだ。
しかし、次に来たセリフ違ったらしい。
“鉛玉しか無いよ”
デブは安っちい拳銃を取り出しチンピラに向けたらしい。震える手、ブレブレの狙い。しかし、其処には明確な反抗心があったらしい。
チンピラは銃を向けられ怯みはしたが、チンピラ以上に震えているデブを見て余裕を取り戻したとか。
“撃てるもんなら撃ってみろよ!”
がちん。サタデーナイトスペシャル。
もう一度がちん。安物買いの銭失いとはよく言ったものだ。そこで、デブはチンピラにボコボコにされそうになり、見兼ねた、と言うか何故トキメイたくるみ子に救われたそうだ。
「そう……ですか……」
お幸せに、と傍から見ても完璧な紳士を演じ切った旦那はデブとくるみ子に言葉を掛ける。
それから用事が出来たので、と店を後にする。
「じゃ、私がアキを貰うな。
アキの嫁だ。よろしくな」
デブに挨拶し、エマに後で欲しい銃の要望書送ると告げて傷心の旦那を慰めてやることにした。
主人公は失恋する物なのだ
先輩に片想いし失恋する物なのだ
エロゲにはそう書かれている




