act.14
「ギレーナだ。
ギレーナ・ベルナドット。ここら一帯のギース共の取り纏めみてぇな事をやってる。困った事や気に入らねぇ事があったら言ってくれ。
それなりに解決する手助けをしてやる」
眼の前に立つ犬耳と尻尾を生やした長身で筋肉質な女性が言った。ビキニアーマーと言うかビキニに手足にはお情け程度のアーマーが施された強化外骨格。
腰には大きめの汎用ナタと盾を提げており、背中にはグレネードランチャーを背負っている。髪は右側面が刈り上げられており、筋肉質な四肢と合わせて実にマチズモ的な印象を受けた。
「アキです。
シェリフの弟子で、今回はこの戦場でお世話になります」
「随分となよっちいな?
死ぬのは構わんが、私の前では死んでくれるな。報告書が面倒くせぇ」
「えぇ、善処します」
にっこり笑ってベルナドットをもう一度観察する。
装備的に白兵戦用の兵士なのだろう。猟騎士とか言ったか?敵陣深く斬り込んでいって暴れまわる。何処までも獲物を求めて敵陣を深く切り込んでいくその姿はまさに猟犬。そして、彼等、或いは彼女等は機動力確保のためにバギーやバイク等に跨がり、剣や槍を扱う。
故に猟騎士と呼ばれるのだ。
「最も、僕は彼女の護衛なのでそこまで前線に出しゃばることはしません」
後ろの方で遠くに聞こえる砲撃音の度にビクついてるアリスを見る。
ベルナドットはそんのアリスを見るとフンと鼻を鳴らし、語る価値も無いと言わんばかりに視線を僕に戻した。
「ババアから話は聞いている。
あの膜付きに何か作戦に参加させてやって欲しいってな」
ババアとはトゥワイスの事である。
「彼女は僕以上には腕が立ちます。
今は戦場の空気に慣れていないだけで一晩もすれば何時も通りの彼女になりますよ」
お手柔らかに、と笑うとベルナドットは僕に殺気を飛ばす。僕はそれに対して思わず銃を撃った。しかし、ガチンと音がして弾は出ない。
お師匠に初弾は抜いておけと言われた意味が良く分かった。冷や汗が流れる。
「僕はまだ未熟なんで、そう言うお遊びは止めてください。
お師匠と違って撃ち殺してしまう」
ベルナドットは僕を睨み付けながらフンと鼻を鳴らした。
振り返れば、マリーとエマは完全に固まっており、マリーに至っては半べそで漏らしていた。あーあ。
アリスは銃に手を伸ばしかけていたし、何故か付いてきた同居人は鯉口を切って笑っていた。
「エマ、悪いけどマリーをシャワー室に。
アリス、挨拶変わるよ」
アリスの肩を叩き、同居人の許に。
「詰まらんのぉ。
何故、初弾を抜きよった?」
「お師匠からの命令だよ。
さて、この後どうする?僕は軽く係争してる地帯に出て新型の腕鳴らしをしたいんだ」
腰に下げた二丁のリボルバー、M1858“ニュー・モデル・アーミー”を撫でる。抜いて、空になっている弾倉に一発確りと入れておく。
コイツは結局ボアアップではなく新調した。エマがピースキーパーを潰すのは惜しいとしてボアアップ代金だけで44口径版を用意してくれたのだ。
代償はエマを専属のガンスミスとして雇う事。エマ自身は前線に出ないが、念の為と後学の為にマリーも連れて来た。そうしたら、マリーに新型のレールガンの試射をさたいと言い出して一悶着あったがまぁ、それはどうでも良い。
「ワシも行く。
最近暇故にここ等で再度腕を磨いて来る。一週間して戻らねば死んだと思え」
「そうか。ならば一週間戻らない様に神に祈っておくよ」
「カッカッカッ!
男のつんでれはキモいだけじゃぞ」
ハンマーを起こすと同居人はピューッと去って行った。やれやれ。
「お前がシェリフの弟子か」
いきなり話しかけられ、振り返ると犬耳の生えた僕よりも年上そうな男が立っていた。
格好は上裸でベルナドットみたいな格好。何だろ?めっちゃ好戦的。攻撃しますよ感凄い。声掛けて来たって事は腕に自身のある殺し屋かな?
火星まではるばるやって来たかな?
「ええ、シェリフの弟子です」
次の瞬間、殺気と共に斬りかかってきたので後ろに倒れつつ射撃。
やっぱり。殺し屋か。面倒臭いし殺しちゃおう。
44口径の強装弾だ。男の胸に吸い込まれ、後ろに少し吹き飛ぶ。
僕は帽子をバッサリやられた。3連射撃って内2発は同位に当たるも、残る一発は少しズレて半かけ程だ。まだまだ修行が足らないな。
男は防弾チョッキを着ていたのかゴホゴホと血を吐きながら涙目で此方を睨んでいたので取り敢えずとどめを刺す事にした。
「其処までだ」
ベルナドットが何やら満足そうな顔でやって来たので、取り敢えず、男を撃ち殺しておく。何満足してんのさ?敵はやる気だ。
「テメェ!?」
殺し屋を撃ち殺すとベルナドットが腰の剣を抜こうとしたので、残る2発で、剣を吊るす金具を撃ち壊し、柄を撃って飛ばす。
何だ何だ?
「何ですかいきなり。
暗殺者生け捕りにしたかったんですか?」
そうならそうと言ってくれなきゃ。輪胴を抜いて新しい輪胴を入れる。
倒れた暗殺者を足でひっくり返して、息の根が止まっているのをしっかりと確認。周りを見ればアリスは銃を構えてマリー共にエマを庇う様に立っていた。
そして、周囲にはコチラに銃を向ける傭兵団の皆々様。
「んー?どういう状況?」
「テメェが今撃ち殺したは、私の弟分だ」
それは聞き捨て成らない。ホルスターに仕舞った銃を引き抜き、ベルナドットに向ける。
「それは、些か聞き捨て成らない。
事と次第に拠ってはここで貴女達全員、ベルナドット傭兵団を皆殺しにしなくちゃいけない。
よく考えろ」
全方位に殺気を飛ばし、ベルナドットを睨む。
ベルナドットは冷や汗を流しつつ、彼方此方に視線を飛ばしていた。なので、視線を飛ばしていた方にもう一個の銃口を向ける。
「この馬鹿騒ぎはこいつの単独か?」
「……そうだ」
「コイツは金に困っていたか?」
「いや、違う。
コイツは、シェリフに憧れていた」
つまり私念か。馬鹿じゃん。
「成程、概ね理解した。
この中で他に僕と殺し合いしたい者は?」
誰も前に出て来ない。
「ふむ。悪いけど、僕を試すのは構わない。
だが、剣や銃を僕に向けた時点で、君達はその命を賭して戦って貰う。君等が命乞いしようが、何しようが関係無い。
僕等の扱う武器は玩具じゃない。人を殺せる道具だ。
人を殺す覚悟があるからそれを持っているんだろう?殺される覚悟あるから武器を抜くんだろ?
もう一度言うぞ?
死にたい奴は前に出ろ
僕はシェリフ程優しく無いぞ?」
眼の前で怒りの眼差しを向けているベルナドットに最大限の殺気を飛ばす。
ベルナドットは薄く笑う。異様に発達した犬歯が顔を覗かせる。その直後、脇から何かが飛び出してきた。姿が消えるが、獰猛な殺気は消えない。
殺気の源に弾を撃ち込みつつ脇に飛ぶ。ギャギャンと2発撃った弾は弾かれる。左手のリボルバーも抜いて怒涛の10連射。
それ等総てが弾かれ、躱され、落とされた。
「何のつもりだ、撫で斬り?」
「殺し合いをしたい者は前に出ろ、そう言ったのはお前じゃて」
楽しそうに笑う同居人は、刀を肩に載せた。
「しっかり見て居れよ、馬鹿弟子!
これが本当の鬼退治ってやつ故に!」
言うと同時に同居人は姿を消す。しかし、その殺気は消えていない。寧ろ、増している。完全に遊ばれているな。
腹が立つ。
弾が切れているのでリロードする為に攻撃を躱す必要がある。刀の悪い所は攻撃の殆どが効果抜群な所だ。
つまり、斬られると結構すっぱり切れるのである。しかも、同居人の扱う剣だ。簡単に重傷に繋がるだろう。
「僕は君みたいな馬鹿は本当に嫌いだよ」
周囲を見ると同居人の弟子が刀を片手に提げてこちらを見ていた。
「コリャ!余所見するでない!」
横薙ぎ一閃を躱すと、同居人は不満そうに叫ぶ。
「何が鬼退治だ。
鬼はお前だろうに」
取り敢えず、後ろに倒れる反動を使って同居人の顎を蹴り上げる。しかし、同居人はそれを難無く躱しながら、返す刀で僕の足を斬ろうとした。やれやれ。
後方回転受け身、と言えばカッコいいが正直変則的な後転をして奴の攻撃を更に躱す。
起き上がりながら、リロード。
「クハハ!
良いことを教えてやろう。鬼退治は武士の仕事じゃて!」
「お前が武士なら世も末だ!」
リロードした直後に再び撃つ。死に腐れ。
「死に腐れ!」
「ぬぉ!?
口径がデカいと、受けるのも大変よな!」
ハッハッハ!と笑う同居人は左手で小太刀を抜いた。そして両手を広げて構える。
「宮本武蔵は鬼退治したって話は無い!
あれが退治しに行ったのは刑部姫だろうが!」
「ッチ、変なところで知識がある奴じゃて。
ならば、お前が刑部姫じゃて!」
同居人は此方に出ようとしたので銃撃を加えてけん制する。此奴を近づけると絶対負ける。
「僕は生憎お前の尻に興味ないね」
「キモイ事を言う出ない!
ワシだってお前の尻に興味なぞ無い!」
リロードをしながら後方に下がって間合いを開けていく。
「たった12発。されど12発。
お主の12発は余計に重い」
「銃弾に重いも糞もあるか」
リロードをして、拳銃をホルスターに納める。
「立てよ、男の子だろう?」
同居人も抜いた刀を鞘に納めると左手で鞘を抜き、右手を逆手で握る。まるで切腹する様な持ち方だが、アレは奴が開発した居合だろうな。
「ふっー……」
どうするかな?どう来るかな?
取り敢えず、やってみるか。
「そこまでよ!
何やってるのよアンタ達!」
あと一息遅かったら銃を抜くタイミングでアリスが飛び出て来た。
「何って……」
「見ての通り」
「「殺し合い」」
そろって答えてしまったのが腹が立つ。見れば向こうがベロベロバーとしていたので、一発撃つと、躱されアリスに怒鳴られた。
「まぁまぁ、ちょっとした余興じゃないか。
君の護衛はしっかりやるよ、勿論。トゥワイスとも契約したからね。でも、まずは僕の身に降りかかる火の粉を払っておかないと、君に飛び火したらトゥワイスに合わせる顔がない」
チラリと周囲に睨みを利かせる。
「アンタに喧嘩を売るのがどれほど高くつくのかよく分かった。
今後、うちの団からアンタに喧嘩を売る奴は出ないよ」
ベルナドットが武器を下ろせと叫ぶと、全員が構えていた銃や剣を下げた。その顔は実に敵意に満ちてはいたがね。
だが向こうは矛を収めた。ならば僕も銃を収めるのが礼儀だろう。シリンダーから空薬莢を一本抜き弾を入れる。
「食事に来な。
各小隊長幕僚も来な!」
ベルナドットが脇に転がる剣を広いあげて肩に担ぐ。バカの剣だ。そのバカは他の仲間に拾い上げられて丁重に運ばれていく。ふむ。まぁ、良いか。脳幹も破戒した。蘇生も義体化も無理だな。
ああいう手合いは本当に参るよ。困るよ。
「アンタ、あれだけ44口径撃って腕大丈夫?」
エマがマリーの後ろから抱き着きながら呆れたように尋ねる。
「うん、特に問題は無いよ」
ガンスピンを披露し、ホルスターに収める。
「でも、44口径は重たいね。
それと、あの糞ホモ野郎の剣をへし折れる弾丸ある?」
「刃に合わせたら50口径の重機関銃弾で7発まで耐えるのよ?
側面を撃てるならその銃どころか36口径でも十分よ」
む、暗に腕不足よと言われてしまった。うーむ、エマめ。マリーを見ると狙撃銃の他にサブマシンガンも用意していて、それを背負っていた。重装備過ぎやしませんかねエマさん?確かに、今回はマリーの管轄をエマに一任してるけどね。
「成程ねぇ……
お師匠にもう一度教えを請いたいものだね」
ホルスターにリボルバーを収め、ホルスターを被り直す。そして、ベルナドットの入って行ったデカいテントに入る。
中はデカい長テーブルが置かれ、一番奥にベルナドット、そこからベルナドット団の各参謀と小隊長が座わる形になっていた。僕等は一番手前だ。ふぅん。




