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【07】エルフに会いました


「パリパリパリ……なるほど、この世界には魔物という危険な存在はいないのですね」


「そうなのですマリア嬢。パリパリパリ森の中には野獣というのがいますね。

人間の言葉を理解しないので危害をくわえてきたりします。

子供や女性では襲われたら危険ですので絶対に近づかないでくださいね。パリパリパリ

野獣は狩りの対象となり、食料になったり加工品となったりしますね。

あ、獣人族はあれらと一緒にされると非常に怒りますので、彼らの前でけして一緒にしてはいけないのであります。パリパリパリ」


「わかりました。それ以外は平和なようで何よりです。パリパリパリ」


「いえいえいえ、それがそうとも言えないところがなんとも。パリパリパリ」


「パリパリパリまぁそうでしょう。異なる種族が一緒に住むということは何かしらの軋轢や衝突はあるに違いありません」


「ご明察――ところでマリア嬢、この『ポテチ』というのは非常に美味でございますね。パリパリパリ」


「そうでしょう、パリパリパリ 特にこの『サワークリームオニオン味』はこってりとしていながら爽やかであとを引くのです。あと『ピザチーズ味』もおすすめですよ」


「『ぴざちーずあじ』ですか? ほほう、今度はぜひそちらを食したいものです。パリパリパリ」


――真理愛まりあは記憶にない、この世界の一般常識を学ぶべき、講師を招いて勉強しているはずだった、が


どうしてこうなった――


ミーシェラは紅茶のおかわりを淹れながらコッソリと息を吐いた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



セルラ家に滞在中、真理愛は少しでもこの世界に慣れようと努力した。


まぁ、その過程で奥方のハリエットローズと長女シュテファーニアに捕獲され

イジられ、連れまわされ、ヘトヘトになったりもしたが。


今日もシュテファーニアの部屋に呼ばれ、

待ち構えていたお針子たちに、クルクルとまわされるようにあちこちを採寸され、

色々な布やレースやアクセサリーをあてがわれる。

それを見て『なんて可愛らしいの!!』と抱きしめられたりするまではまだよかった。


『一緒にお昼寝をしましょう』とベッドに連れ込まれ、

彼女の細い指があらぬ動きをはじめそうになって、

『さすがにそれはちょっとヤバいです、お姉様』とうの体で逃げ出してきて、

部屋でぐったりとしていると、



「マリア、紹介したい人がいるんだが」

と、セルラ家の長男バルナルバーシュがある人物を連れてきた。



「はじめまして、僕はステファルノ・アンジュロスと申します。

お会いできて光栄です」



「ショタエルフキターーーーッ!!」



「……しょた?」


バルナルバーシュが不思議そうにつぶやいたその後ろで、

ステファルノと名乗ったエルフの少年はプフッと噴き出した。


(うおお!!本物だぁ! 本物のエルフだぁ! しかも少女じゃなく少年! レアじゃね? これめっちゃレアじゃね? ホントに耳とんがってるぅ~かわいいなぁ。7~8歳くらいかな? 銀髪キラッキラのサラサラで目の色が緑だ。さすが森の民エルフ! 環境にやさしい瞳だね)


「クク……ク……環境にやさしい瞳って……プ……アハハハハ」


少年はもう我慢しきれないとばかりに、笑い出した。


「え? ステファルノ様?」


バルナルバーシュは突然笑い出した彼に驚いて後ろを振り向いた。


(エ?もしかして声に出しちゃった?)


真理愛が焦ってると、彼は表情を戻した。


「……いえ、大変失礼しました。

マリア様がとてもキラキラした瞳で僕を見つめてくださったので、

つい心がはしゃいでしまいました」


そう言って居住まいを正し、胸に手を当て礼をするステファルノの気品ある美しさに

一瞬呆けたがすぐに慌てる。


「コココ、コチラコソスイマセン、ゴアイサツモシマセンデ」


ペコンと飛び跳ねるようなお辞儀をして目を合わす。


「真理愛と申します。よろしくお願いします」


「うん、よろしくね。マリアって呼んでいいかな?」


ステファルノは輝くような笑顔を返した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


エルフ族の族長が、セルラ家を訪ねてくるということは

ミーシェラから知らされていた。


それを聞いて一度エルフに会ってみたいなとは思ったが、

自身も客人の立場ゆえ頼みづらい。

あきらめていたところに、エルフ登場である。


しかもショタエルフである。


ステファルノになぜここに来たのかと問えば、


「うん、マクスミリアン公爵閣下がね、年が一番近いから、遊んでもらうといいって」


(ナイスアシスト~~~!! グッジョブ! 閣下! ありがとう閣下!)


目の前に、満面の笑みのショタエルフ。


眼福である。


「そっかぁ~おじいちゃんに付いて来たんだね」


「そう、名目上はね」


「うん?」


(あれ? なんか子供にはあるまじき難しい単語が出てきたような気が……これが帝王教育の賜物たまものってやつか? い、いやもしかしてこれが噂に聞く『こう見えて僕、エルフなんで意外とトシくっちゃってま~す』パターン?)


「ふふ、半分当たって半分ハズレかな?」


「ひぁっ? また声に出してた?」


「ふふふ、マリアって本当におもしろいね」


(えええ?この子、心読めるの!? なんでなんで? そんなの反則じゃん! 個人情報保護法って異世界にはないの? あ、ヤバ! 異世界って言っちゃった! てててて天使族じゃないってバレちゃった! コレ連行されるルート確定? 種族詐称詐欺罪で収監されちゃう? でも詐欺ってないよっ! 騙ってもいないよっ! 周りが勝手に勘違いしてるだけだからね、コレ。

でもそんな言い訳通じるかなぁ。この子黙っててくれないかな。頼んだら聞いてくれるかな? 『エルフは心優しい森の民』だから大丈夫だよね、きっと)


「フ、ハハハハハ! 詐欺って! ハハハハ! 

大丈夫、連行もしないし収監もしないよ。それに誰にも言わない。

『エルフは心優しい森の民』だからね。ハハハハハ」


そこまで子供に大笑いされると馬鹿にされてるような感じがして、

さすがにちょっとカチンときた。


(ひどい……真剣に焦ったのに、なんかムカつく)


「ごめんね、悪気はないんだ。ただギャップっていうか……

異世界人ってみんなこうなのかな?」


「……!?」


今のセリフ、聞かれてたらヤバい。

この部屋にはミーシェラとか護衛の人たちがいる。

真理愛の顔がこわばった。


「ああ、それなら心配しないで。

彼らは今、幻影を見てるはず。

君と僕が普通に仲良くしている様をね」


(ふわぁ~なんでもありなんですか、そうですか)


ジト目で睨む。


「ステファルノって……年いくつ?」


「え? 年齢?う~ん……いくつだったっけ。

500を超えてから、数えるのやめちゃった」


「……スーさん」


「スーさん?ステファルノって名乗ったよね? 僕」


「言いにくい! スーさんって呼ぶ。

私のことはハマちゃんって呼んでいいから」


「え? 何言ってるの?」


「……私にあやまってください」


「ええ? なんでぇ?」


「だまれショタジジィ」


「ジ、ジジィ?」


「そうだ、ロリババァならぬショタジジィだ!

私のエルフに対する夢とロマンを返せ!!」


ビシィッと指差して言い切る真理愛を呆然と見上げるステファルノ。


「……はぁ?」


「だって! だって! だって!


ショタエルフに『お姉ちゃん』って、呼んでもらいたかったのにぃ!!」




「……君は……また、すごく残念な子だね」


ステファルノは頭を振りながらハァ~と息を吐いた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……なるほどぉ、天使族ってエルフの亜種だったんですか」


「まぁ……ざっくり言うとね。

あまり大っぴらにしていい話じゃないけど」


(ふ~む、UMAみたいなものかな?)


「ゆーま? なんだいそれ」


「スーさんは、なぜ私が異世界から来たって思ったんですか?」


「……これはまた、いきなりな質問だね。

僕としてはもう少し、色々たわいのないことをお喋りして

もっと仲良くなってから、この話題にいきたかったな」


7歳くらいの子供にあきれられたように、

苦笑いされるのは、なかなか心をえぐられる。


「まぁ、君が天使らしくない……っていうのが一番の理由? 

あと、あまりにも言動があやしいし」


「ぐ……」


(ううう、反論できない……的確すぎてつらい)


「じゃ、じゃあなんで異世界に来ちゃったのかわかります?」


「う~ん……多分ね……」


「たぶん?」


「やっぱり、知らない」



「…………」



「……え? なに、ちょっと! なんで拳にぎってるの? 

魔法! 魔法漏れてるから! やめてっ! ここでは発動させないでっ!」



「……オシエテ、モラエマスカ?」


「…………ハイ」



んん、と軽く喉をならして、ステファルノは居住まいを正した。



「まず、今回のこの事件は何者かによって引き起こされたということ。

これはあきらかに犯罪であり、現在調査中でもある」


「…………」


「そして、マリアがここに来た原因。それは転移魔法だと思う」


「転移?召喚魔法じゃなくて?」


「そう。多分だけど、君を呼んだのは犯人じゃない」


「え?」


「転移魔法を発動させて、犯人は天使を森の中へ飛ばした。

だから天使が森の中にいた」


「…………」


「けど、なぜが魂が入れ替わっていた」


「入れ替わった原因は・・・・?」


「……ごめん、それは僕にもわからない」


「そうなんですか……

結局、なんでこうなったかっていうのはスーさんにもわかんないんですね」


「うん、そうだね……」


紅茶はもう、冷めていた。

おかわりがほしいと思ったら、その瞬間カップがあたたかい紅茶で満たされた。


驚いてステファルノを見ると、いたずらっこのような笑顔でウインクをした。


「……ありがとう、です」


「ふふ」


「それで、スーさんは私を迎えに来たんですね? 私……が、天使族だから」


「う~~~ん、こっちはそうしたいんだけどね。ちょっと困ってるんだよね」


「困ってる?あ、中身が違うから引き取れないとかそういうことですか?」


「プ、クク……いくらなんでもそれはないよ。

中身が違うなんて誰も知らないでしょう?」


(あ、それもそっかぁ)


「……でも、里についたらすぐにバレちゃうかもね」


「あ!!」


真理愛のわかりやすいリアクションに、クスクスと笑うステファルノ。


「ねぇマリア」


「ハイ」


「中立国アルドラにボーディングスクールがあるんだけど、入学してみない?」


「ボーリングスクール?」


「違う違う、ボーディングスクール……全寮制の寄宿学校のことだよ。

これからマリアの周辺が、ちょっとややこしくなってきそうなんだよね。


事情が事情だから里に連れていったら面倒なことになりそうだし……」


(あ、今面倒ってハッキリ言った!)


「アハ、ごめんね。それに何より犯人がまだ捕まってないからさ」


「あ……」


誰かが、天使をさらおうとした。

転移魔法を発動させて。


自分はその悪意に巻き込まれてしまった。


今も犯人は自分を探してるかもしれない。


今もきっと、どこかで。


(帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい)


「マリア」


気が付いたらステファルノに手を握られていた。



「――大丈夫、だから――」


ステファルノの真剣な顔。



「スーさんは、こんなことした犯人知ってるんですか?」


目をふせて、彼は答えた。


「……知らない」




(ホントにそう、なの?)



――真理愛の声が頭に響いた。


(……ずるいなぁ……私もスーさんの心が読めたらいいのに)



ステファルノの顔がゆがむ。


「あ、やだなぁスーさんそんな顔しないでくださいよ」


真理愛はニヘラっと笑った。


「…………」


「美少年にそんな顔させるなんて、私もまだまだですねぇ」


ステファルノはキュ、と唇を噛んだ。


「……学校、ですか。

そうですね、いつまでもアースさんの所に居候っていうわけにもいきませんしね」


(自分で自分を守れるくらいにならないと……そういう意味では学校でちゃんと学ぶのっていいことだよね……いろいろこの世界のことも知りたいし、ていうか不登校こじらせた私が異世界で学校生活って何の冗談だよって感じだけど、断ったら行くとこないし……やだなーなじめるかなーぼっちは嫌だなー……)


「ボッチ?」


「あ、ひとりぼっちって意味です」


「あぁ、なら大丈夫、そこの寮は侍女や護衛を連れていくことができるから。

ひとりぼっちにはならないと思うよ」


(ほぅ! ミーシェラが一緒ならアリかも)


「よかった、じゃあ手続きを進めるね」


「あの、奨学金って出ますか?」


「ショウガクキン?」


「えっと、学費とか生活費とか、一旦、借りておいてあとで働いて返すってやつです

……多分」


「ああ……それなら心配ない。返す必要もないよ。エルフ族が支援させてもらう」


(えー? いいの? あ、でもこの身体はエルフ族だから別にいいの、かな?

んーでもなんか申し訳ない……)


「気にしなくていいよ。それより、学校には図書館や研究室もある。

……もしかしたら、元の世界に帰る方法がみつかるかもしれないよ」


「……!? そうかっ! そうですよね」


「うん」


(……本当に、君に心が読まれてなくてよかったと思うよ)


先ほどまでの気遣うような無理やり作った笑顔ではなく、

無邪気な笑顔を浮かべて紅茶を飲んでいる真理愛を見て、

紅茶のカップを口に寄せ、気づかれないように


ステファルノはため息をついた。



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