【06】夢か現実か
――あなたの肉体を奪ってごめんなさい
――あなたの運命を奪ってごめんなさい
――あなたの家族を奪ってごめんなさい
変わりに祝福が与えられるでしょう。
その力が、あなたの役に立ちますように……
夢を、見ていた。
そこにいたのは
昔の私
私が一生懸命祈りを捧げている。
そこにいるのは私なのに私じゃない。
ここにいるのは私じゃないのに私。
貴方は誰?
なぜ天使と呼ばれているの?
なぜ私を奪ったの?
なぜ自分を手放したの?
なぜ?
(――やっと見つけた)
「え……?」
声がしたような気がした。
閉めていた窓が開いている。
カーテンがふわりふわりと風を含んで揺れて、その側に誰かが立ってこっちを見ている。
あいまいな、現実と夢の境をさまよっていた意識が
一瞬で引き戻される。
「……やっ!」
組み敷かれてからその人が男だとようやく気づき、恥ずかしさと恐怖で混乱する。
息ができない、体が動かない。
黒い髪、褐色の肌が闇に溶け込んで赤い瞳だけが爛々(らんらん)と光っている。
「なんで、こなかったの?」
「へ……」
「呼んだのに、ねぇ呼んだの俺だよねぇ? なのになんで来なかったの? ねぇ?」
「ひ……ひぃ」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
「結界なんて大層なもん張ったって、そんなの、もうなぁんの意味もないんだよね。
お前たちはこれからどんどん、どんどん堕とされて汚されて、泣こうが喚こうがそんなのぜぇんぶ無視されて誰も助けになんかこないんだからさぁ」
男の顔がクシャリとゆがむ。
喜んでるような
悲しんでるような
「その髪と瞳……誰が変えたの? 小賢しい。えぐってやろうか?どうせ必要ないし。ああでも見えないと困るなぁ。こんなに悲惨なの、ちゃんと見てほしいしねぇ。片目だけえぐろうか?」
「い……いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
光と共に空気がはじけ、ころがるように男が落ちる。
「ぐ……はぁっ!」
うずくまって苦しそうに息を吐き続ける。
「なん……で、なんで魔法が使える?なんで魔力を失ってないんだ」
「あ……あ……」
来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで
身体の震えが止まらない。
「た、すけて」
――『消えろ』――
その声が暗闇に響くと、全てが消えた。
怖いものが全部なくなった。
「ふ……は……はぁ、ぁ、ぁ……」
よくわからない自分の声を聞いて、
やっと、助かったことを実感した。
――『いい? これは夢、全部夢』――
優しい、声。
(誰……?)
知らない、でもとてもあたたかくて安心できる声。
――『だから』――
こわばった力が抜ける。
心地いいまどろみが、真理愛を包み込む。
――『目が覚めたら、全部忘れているよ』――
(ああ、それは嬉しい……な)
――『おやすみ、マリア』――
…………
――『ごめん、ね』――




