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【05】アースさんの家族


「私がこのセルラ家の当主、

マクスミリアン公ハロルド・フォン・セルラだ。

息子から話は聞いている。マイル団長からも頼まれている。

不安だろうとは思うが、自分の家だと思ってゆっくりと養生してくれたまえ」


「ハイ、アリガトウゴザイマス」


貴族の食卓というのは本当に無駄に細長くて、

シャンデリアが大きくて、ろうそく立てがあちこちにあって、

中央に生花が飾られ、銀食器にフルーツが山盛りされているんだなと

真理愛まりあは思った。


――『今夜の夕食の席で家族を紹介させてもらう』

そうアースフィアレストが言ったので、

『わかりました』と気軽に応じたのが甘かった。


(アースさんのスペックなめてたわ~……いい所の坊ちゃんだとは思っていたけどレベルが違うっていうか、身分が違うっていうか、貴族こわい)


ちなみに、今の真理愛は魔法で髪と瞳の色を茶色く変えている。

茶髪にカラコン、と思えば現代日本人の今どきの若い娘とそう変わらない、と思ったからだ。 


まぁそれでも美少女であることには変わりはないのだが。


「私の事はハリエットローズと呼んでね、マリア。

アースフィアレストがこんなに可愛いお嬢さんをつれてくるなんて、驚いたわ」


「イエ、ソンナ」


芝居がかった喋り方が洋画の吹替えみたいだなと思いつつ、

さすがに貴族の奥様は凛としてて綺麗だと感心した。

アースフィアレストは母親に似たんだな、と視線を送ると彼は気づかうように微笑んでくれた。



「本当にこんなことは初めてね……すごく興味深いわ。

マリア、色々聞きたいからこのあと私の部屋で、食後のお茶を飲まない?」


「……姉上、マリアは疲れているんだ。ゆっくり休ませたい」


「へえ、そうなの。じゃあまた機会があったらね。うふふ」


「ハイ」


セルラ家長女のシュテファーニア。

人当たりのよさそうな笑顔、優しい声、そしてやはりセルラ家のDNAがいい仕事をしたようで母親のハリエットローズをもっとソフトにしたようなふんわり系の美女だ。

だが、


(ヤバい、アース姉……捕食者オーラがダダ漏れなんですけど)


弱者ゆえに発達した真理愛の危機察知レーダーが、シュテファーニアに対してヤバいと反応している。

彼女には近づかないようにしよう、とこっそり誓った。


その後も、人見知りをいかんなく発揮させ「イエ」と「ハイ」だけで会話を乗り切り、

待機していた侍女ミーシェラの、生暖かい視線を多少感じたような気がしないでもないが、晩餐は和やかにつつがなく終了した。



(……ふぅ~やりきったよっ!! ……てか、ここの人たち名前ながっ!)


真理愛の長い一日がようやく終わった。


眠りにつくには早い時間だが、疲れたので休みたい。


お姫様みたいな天蓋付きのベッド、何もかも、どこもかしこも自分のいた所とは違う。


急に、怖くなった。


(もう……帰れないのかな)


そう考えたら泣きたくなった。


色々な思い出がぐるぐる回って、くるしくなって


家族の顔が浮かんで、思ってた以上に悲しくなって


のどの奥がきゅうっと痛くなった。





(眠ったら、朝が来て、




――みんな忘れてしまえたらいいのに)




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



アースフィアレストが、父の執務室に出向くと、

そこには姉のシュテファーニアと、

先ほど城から戻ってきたばかりの長男バルナルバーシュが

ソファーに腰かけてワインを飲んでいた。


「あら、アースフィアレスト。あのはもう寝たの?」


「……多分」


「多分? 子守歌を歌ってあげなかったのかしら? うふふ」


「……からかうのはよさないかシュテファーニア」


マクスミリアン公爵は、娘の軽口を諫めた。


「それにしても……天使を拾ってくるとは」


父に似た面立ちの長男のバルナルバーシュは、

眼鏡を押し上げながらため息をついた。


「……兄上、お手を煩わせて申し訳ありません」


アースフィアレストが頭を下げると、気にするなというように手で制した。


「バルナルバーシュ、陛下は何とおっしゃっていた?」


「父上の言う通り報告しましたが」


「うむ」


「……世話をまかせる、と」


「…………」


公爵はその言葉を聞き、

腕を組み目を閉じてしばし考えにふける。


「まったく……陛下といい、マイル団長といい、みな私に押し付けおって」


「そうねぇ、ちょうどいい年頃の王子がいればいいんでしょうけど」


アースフィアレストの方を見ながら喋ってるのはワザとだろう。


「陛下はいいお歳ですし、王太子殿下でも歳が離れすぎているわ。

それにお后様と仲睦まじい様子ですし、天使様が側室というのも、ねぇ……

一番上の王子はまだ8歳でしたっけ?」


「ああ、そうだな」

バルナルバーシュが答えた。


「だったら、しばらくはいいんじゃない? 

記憶も失くしてるってことだし、ウチで面倒みてあげたら? 

ねぇアースフィアレスト」


「…………」


実家に迷惑がかかるかもしれない為、強くは言えないが、

そうしてほしいとアースフィアレストは思う。


「あと、父上」


「む? なんだ」


「陛下が、魔族にだけは渡さないように、と」



「…………」



バルナルバーシュの告げた言葉に、しばしの沈黙が落ち、

それぞれが考えを巡らしていたようだが、

やがてアースフィアレストがしびれを切らしたように口を開いた。


「それは、どういう意味ですか?兄上」


「お前は知らないか……父上、話しても?」


「むう……いいだろう」


「じゃあ、アースフィアレストお前……天使はどこに住んでると思っている?」


「それは……天空に住み天空を護っている、と子供の頃から……」


言い淀むと、周りから暖かな苦笑がもれる。


「そうだな、この国ではそう言い伝えられている。

だから架空の民族だと思っている人も多いだろう。

私も……そうだった、事実を知らされるまではね」


バルナルバーシュは残りのワインを一気に飲み干すと、

アースフィアレストの瞳を見据えた。


「天使族は、天空には住んでいない。地上に住んでいる」


「え?」


「もともとは、ある民族から派生したもの者……それが『天使』だ」


「ある民族……?」


「エルフ族だ」


「……!」



エルフ族はとても閉鎖的な種族と言われている。


数ほど魔族、獣人族、人族にはおよばないが、その分寿命も長く、安定した勢力を保っている。

皆一様に美しく、中性的で銀の髪と緑の瞳、とがった耳が特徴的だ。


同じように魔法を使うので、魔族の一種と思われがちだがエルフ族はそう思っていない。


魔族とは距離をとり、森の多い大陸でいくつかの里を作り生活している。

そしてめったに外に出てこないし、他族とも交流しない。

その為、生態などもあまりよく知られていない民族である。




――エルフ族から天使が生まれた。




「エルフ族が、今までずっと隠していたってこと、ですか?」


「まぁ、結果的にそう思われても仕方ないだろうが……わからなくはないな。

エルフ族と魔族の仲は良くない。

今だって強い魔力を持つエルフを取り込もうとしているのを、

エルフ族はかたくなに拒んでいるからな」


「魔族って高い魔力に魅入られてしまう種族だってきくわ。

彼らは欲望に忠実ですものね、エルフが欲しくってしょうがないんでしょう。うふふ」


シュテファーニアが言うと別の意味に聞こえてしまう。

バルナルバーシュがコホンとたしなめるように咳をした。


「天使はエルフ族にとって信仰の対象とすら言える存在だ。

そんな存在である天使が魔族の手に渡ったらどうなると思う?」


「…………」


「そういうわけだ。

まぁ私としては、すみやかにエルフの里にお帰りいただきたいところだが、そう簡単にいかないのが実情だ」


「……陛下は政治の道具に使うおつもりか?」


「さぁ、それはなんとも」


公爵の問いかけに肩をすくめてみせる。


その場に重苦しい空気が満ちた。




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