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【03】王都につきました


真理愛まりあが馬上で記憶喪失のフリをしてごまかしていた時、

アースフィアレストの予想通り第三騎士団がふたりを見つけ合流してきた。


ケガをした団員の搬送と後始末のため馬車を伴っていたのでそれに乗せてもらい、

事情が事情のためとりあえず王都にある騎士団詰所へと連れていかれることになってしまったが、

連行というよりも保護という形だそうなので真理愛はおとなしく従った。


その道中、ここはカメリアという世界で、ヒューベラン大陸のカスタード王国ということを教えてもらう。


世界にはさまざまな人種がおり『人族』『獣人族』『魔族』が代表的で、

ここカスタード王国は人族の王が統べている。


もちろん国が違えば統べる王も獣人だったり魔人だったりする。

人種間の交流も盛んな国もあれば閉鎖的な国もある。


テンプレどおりだなと思いながら魔法を使い、

ケガをした団員を次々と治していく真理愛。


最初のほうこそ『我が願いに応え此の者を癒したまえっヒール!』とやってはいたが

段々と舌がまわらなくなり、

最後の方には『わぎゃねがいにこたえ、こにょ者を……』というあまりにも噛み噛みな読誦に、周りにいた団員たちがほっこりとしていたことを彼女は知らない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「なるほど……それは困ったな」


見た目熊のようだ……とはよくある陳腐な表現だが、大きく立派な体躯に茶色い短髪、立派なもみあげから続くあごひげ、黒い瞳は意外とつぶらで……とくればやっぱり熊のようだ、としか表現できない。


(……てか、これが熊じゃなかったら何が熊なんだ。熊が騎士の格好をして何が悪い。いや悪いのか?しかし目の前にいるのはまさしく熊……)


「お嬢さんも大変だったろう」


現実逃避していた真理愛は話しかけられるとはっと我に返り、胸元で両の手のひらを相手に向けブンブンと小刻みに振った。


「イエ、ソンナコトハゴザイマセン」



――ここは第三騎士団詰所内の団長室。


向かい合う形の二つのソファー、目の前にいるのは熊……じゃなく

シューベルバッハヘルム・フォン・マイル団長で、

真理愛は今までのいきさつを彼に話していた。

たどたどしい話し方にもかかわらず、突っ込みもせずわらいもせず、

彼は真剣に話を聞いてくれた。

いい人だ。

でも、異世界から来たことは言えなかった。


「ふ~~む、記憶がないか……」


顎をさするように考え込むマイル団長、

これから何を言われるのかわからないのが怖くて、

真理愛はついうつむいてしまう。


コンコンコン


ノックが響き、マイル団長の『入れ』という言葉に『失礼します』と応じ、

部屋に入ってきたのは着替えを済ませてきたアースフィアレストだった。


マイル団長の隣に座ると、彼は心配そうに真理愛を見つめた。


(面倒見のいい人なんだなぁ。アースさん)


もしかしたらもうこのまま会えないのかな、と思っていたので単純に嬉しかった。

初めてこの世界で会った人だし、これでさよならというのはちょっとさみしい。

そう思うのは彼がいい人だからだ。

けしてイケメンだからではない、きっと。


「アースフィアレスト、どうしたらいいと思う?」


「そうですね……」


アースフィアレストも思案顔だ、真剣に考えてくれてるんだろう。

そんな表情を見るとなんだか自分が困らせているようで、ちくんと胸が傷んだ。


「お嬢さん……そのフードなんだがな、取ってもらうことはできないか?」


ビクゥッ!


マイル団長の言葉にそれはもうわかりやすく身を震わせた。


アースフィアレストは痛ましそうに真理愛を見た。


「団長、理由があって見せられないのかもしれません。あまり無理強いは……」


「むう、すまないな……しかしワシには責任がある。

一応顔かたちを確認せねばならん。たとえ傷があったとしても誰にも他言はせぬ。

男だけが嫌ならだれか女性の騎士を呼ぼう。

なんだったらアースフィアレストにも席を外してもらおう

……それで了承してもらえんか?」


(ヤバ……普通に景色とか見えてたからフードかぶってるの忘れてた……)


「あ、いえ、そのそんな……傷とか別に、ない、ですよ?」


あわててフードを外すと視界の端に金の髪がサラリと揺れた。


(あ、そういえば私金髪になってたんだっけ。

うわぁ日本人の平たい顔に金髪ってちょっと痛いなぁ

見られるの恥ずかしいなぁ……って……え?)


目の前の二人を見ると、ものすごく驚いた顔をして固まっている。


「あの」


「…………」


「あの」


「…………」


「えっと、」


「天使……」


「は?」


「……天使、ですよね」


「あ……ああ、まさかしかし実在していたとは……信じられん」


(ナニヲイッテルノカナ?)


嫌な予感しかしない。


とりあえず


真理愛はフードを再び目深まぶかにかぶった。


「…………」


「…………」


「…………」


どれくらい時間が過ぎたろうか。


(ううう……沈黙が痛いよぉ)


もうこの際、異世界から来たことを言ってしまおうか。

そう思った時アースフィアレストが口を開いた。


「とりあえず……」


真剣な眼差しで真理愛を見つめている。


「彼女は、私の家で預かりましょう」


(ええええええ?)


「むう、しかしだな……いや、その方がいいか。セルラ家の元におれば安全だろう」


(ええ? 団長さん止めないの? 

てか安全? って何それ、そうじゃなきゃ危険ってこと?)


「そういうことだから、マリア……君の記憶のこともあるし、しばらく私の家で過ごしてもらうことになるが、かまわないか?」


「アースさん……」


元の世界で、手を差し伸べられた記憶はあまりない。


手を伸ばしても、誰にも届かなかった。


そのうち手を伸ばすのが怖くなった。


自分を守るように生きてきた、自分の世界に閉じこもっていた。


でも、放り出された。


――ここ、異世界で。



この世界ではじめて会ったアースフィアレストは手を差し伸べてくれた。



彼を、信じてみようと思った。



不束者ふつつかものですが、よろしくお願いしましゅ」


……噛んだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



――ところかわって、同時刻、


マーレット大陸 ガラム王国。


代々、魔族の王が統治し、ここマーレット大陸で一番の広さと繁栄を誇る。


この国は圧倒的な魔力の量で王が決まる。

魔王と呼ばれてはいるがそれは魔族を統べる王という意味でしかなく、

人類の脅威という存在ではない。


現在ガラム王国を統治しているガルフォルノン・ド・ユーライカ王は27歳の若さでありながらその圧倒的な魔力量を持って先王を凌駕し、頂点についた。

外見の美しさは内包する魔力の量と比例し、その美貌をたたえるならば女を賛美するような言いまわしにすらなってしまうほどだが、鍛えぬかれたその均整の取れた肉体と野性味あふれる褐色の肌の色が彼を男性たらしめている。


――謁見の間、張り詰めた空気の中


「堕ちてきたようですよ、天使が」


と、まるで『雨が降ってきましたよ』とでも言うような気軽さで男は報告した。


「そうか」


玉座にもたれるように深く腰掛けているガルフォルノン王は、一瞬その赤い瞳を細めると薄く形のいい唇をわずかにほころばせた。


すると胸元まである長さの波打つような美しい黒髪が、うねるようにふくらみ

一瞬にして凄まじい魔力が放出され、周りにいる側近や兵士たちはその威圧に身を固くし、冷や汗を流した。


王の前にひざまずいている男ひとりをのぞいて。


「つれてこい」


「……御意」


男がこうべを垂れるとぼさぼさの黒髪が顔にかかり、表情が見えなくなる。


そのせいで――不気味なほどにニヤついた笑顔にも、

黒ぶちの眼鏡の奥で妖しく光った赤い瞳にも、

気付いたものは誰もいなかった。



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