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『王位なんていりません! 追放された元王子は、最強の聖女(笑)?と苦労人賢者と気ままな旅を満喫します!!』  作者: 伊佐波瑞樹


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第110話 草原の朝に確かめる水の残りと、三人が選ぶ今日の道



 木立の向こうから差し込んだ朝の光が、馬車の窓に掛けられた青い風魚の布を静かに照らしていた。


 昨夜から吹き続けていた風は、夜明けを迎えて少し穏やかになっている。枝先の葉が擦れ合う音に混じって、遠くから小さな鳥の声が聞こえ、草原には新しい一日がゆっくりと始まろうとしていた。


 ルシルは寝台の上で目を開けると、しばらく窓の外を眺めていた。


 昨日の夕方、三人で相談して選んだ野営場所は、朝になっても変わらず穏やかな雰囲気に包まれている。木々の間から見える空は淡い青色で、草の葉には夜の間に生まれた露が小さな光を宿していた。


(昨日は、ちゃんと三人で今夜の場所を決められたんだよね。こうして朝まで落ち着いて過ごせると、あのときの判断が間違っていなかったんだって思えるな)


 もちろん、一晩問題がなかったからといって、これから先も同じように過ごせるとは限らない。それでも、昨日の経験はルシルにとって小さな自信になっていた。


 王宮で暮らしていた頃は、眠る場所も食事の時間も、ほとんどがあらかじめ決められていた。誰かが整えてくれた環境の中で過ごすことが当たり前だったからこそ、今は自分たちで選んだ場所で朝を迎えることが、何よりも新鮮に感じられる。


 ルシルが静かに上体を起こすと、向かい側の寝台から小さな声が聞こえた。


「……もう朝なの……?」


 毛布を肩まで引き上げたモモが、眠そうな顔でこちらを見ていた。


 桃金色の髪は枕の上に広がり、頬の近くには細い髪が一房かかっている。まだ完全には目が覚めていないらしく、彼女は窓から入る光を眺めながら、ゆっくりと瞬きを繰り返していた。


「おはよう、モモ。うん、もう朝だよ。でも、まだ急いで起きなくても大丈夫だと思う」


「おはよう、ルシル君……。そっか、今日は昨日の木のところから出発するんだったね」


 モモはそう言いながら、毛布の中で小さく伸びをした。


「昨日は夕焼けがきれいだったから、朝も楽しみにしてたんだ。もう少ししたら、外に出てみようかな」


「そうだね。僕も外の様子を見たいと思ってたところだよ」


 ルシルが答えると、近くで衣擦れの音がした。


 シモンはすでに起きており、寝台の脇で身支度を整えていた。黒縁の眼鏡を掛け直すと、二人へ穏やかに会釈する。


「おはようございます、ルシル様、モモ嬢。昨夜はお二人ともよくお休みになれましたか」


「うん。風の音は聞こえていたけど、ぐっすり眠れたよ」


「わたしも! 途中で一回だけ目が覚めた気がするけど、すぐにまた寝ちゃった。木の葉っぱが揺れる音って、なんだか落ち着くんだよね」


「それは何よりです。昨夜は大きく天候が崩れることもありませんでしたし、馬たちも落ち着いていました」


 シモンはそう答えながら、窓の外へ目を向けた。


 朝の光に照らされた木立は、昨日の夕方とはまた違う表情を見せている。葉の間からこぼれる光が草の上へ細かな模様を作り、風が吹くたびにその形がゆっくり変わっていた。


「ただし、今日は出発前に確認しておきたいことがあります」


 シモンがそう続けると、ルシルは顔を上げた。


「昨日話していた、水のことかな?」


「はい。昨夜の時点で今朝に必要な分は確保できていましたが、この先も野営を続けるのであれば、早めに補給先を見つける必要があります。今日は道の状態だけでなく、水を確保できる場所についても意識して進みたいと思います」


 ルシルは頷き、昨日の夕方に交わした会話を思い出した。


 リーヴェルを出る前に用意した水は、これまでの移動と二度の野営で少しずつ使っている。無駄遣いはしていないものの、馬二頭と三人が旅を続ける以上、残量を気にせず進めるわけにはいかなかった。


「分かった。まずは今ある水をちゃんと確かめて、それから今日の進み方を考えよう」


「ええ。私もそのつもりです」


 シモンが穏やかに頷くと、毛布の中からモモが手を上げた。


「わたしも手伝う! 昨日、ちゃんと水を大事に使うって約束したもんね」


「ありがとうございます、モモ嬢。ただし、必要な分まで我慢する必要はありません。大切なのは、残量を把握したうえで適切に使うことです」


「うん。そこはちゃんと分かってるよ」


 モモは真剣な顔で頷いたあと、少しだけ首を傾げた。


「でも、その前に朝ご飯を食べてもいい?」


 ルシルは思わず笑ってしまった。


「もちろん。馬たちの様子を確かめてから、みんなで食べよう」


「やった! じゃあ、早く起きなきゃね」


 モモは嬉しそうに毛布を畳み始めた。


 その様子を見ていたシモンは、眼鏡の位置を直しながら小さく息を漏らす。


「モモ嬢は、食事が関係すると身支度が早くなりますね」


「シモン君、それは褒めてる?」


「行動の特徴を申し上げただけです」


「じゃあ、褒め言葉ってことにしておくね!」


 モモが楽しそうに笑うと、馬車の中に穏やかな空気が広がった。


 三人は身支度を整え、朝の草原へ出た。


 扉を開けた途端、ひんやりとした空気が頬を撫でた。


 夜の間に冷えた地面にはまだ露が残っていたが、陽の当たる場所では少しずつ温もりが戻り始めている。木立の向こうには広い草原が続き、遠くの丘は朝日に照らされて淡い緑色に見えた。


「わあ……。昨日の夕方とは全然違うね」


 モモは馬車のそばで立ち止まり、目を輝かせながら周囲を見回した。


「昨日は木の影が長く伸びてたけど、今は草がきらきらしてる。あっ、あの葉っぱ、露がいっぱいついてるよ!」


 モモが指さした先では、細い草の葉に小さな水滴が並んでいた。


 朝日を受けた水滴は、風に揺れるたびに光の向きを変え、まるで小さな宝石のように輝いている。


「本当だね。昨日は気づかなかったけど、朝になるとこんな景色も見られるんだ」


 ルシルがそう答えると、モモは嬉しそうに頷いた。


「やっぱり、同じ場所でも朝と夕方で全然違うんだね。昨日ここを選んでよかったなあ」


「ええ。落ち着いて夜を過ごせたことも含めて、悪くない選択だったと思います」


 シモンはそう言いながら、馬たちの方へ歩いていった。


 トルクは人の気配に気づくと耳を動かし、栗色の首をゆっくり持ち上げた。ベルクも落ち着いた様子で顔を上げ、近づいてくる三人を静かに見つめている。


「おはよう、トルク。ベルクも、よく眠れた?」


 ルシルが声をかけると、トルクは鼻先を寄せてきた。


 その仕草に笑いながら首筋を撫でると、トルクは満足そうに鼻を鳴らした。


「今日も元気そうだね」


「見たところ大きな問題はなさそうですが、念のため確認しましょう。昨日は午後も移動しましたから、脚や背の状態を確かめておきたいところです」


 シモンは二頭を落ち着かせながら、順番に状態を確認していった。


 ルシルも反対側へ回り、教わったとおりに毛並みや脚の様子を見ていく。モモは少し離れた場所で待ちながら、二人の作業を興味深そうに眺めていた。


 トルクの脚に目立つ腫れはなく、ベルクも落ち着いた様子で立っている。昨日の移動で無理をさせた様子は見られず、二頭とも朝から穏やかな反応を返していた。


「問題なさそうですね。今日も無理のない速度で進めば、大丈夫でしょう」


 シモンがそう告げると、ルシルは安心したように頷いた。


「よかった。昨日は野営場所を探しながら進んだから、いつもより周りをよく見ていたけど、二頭のこともちゃんと考えないとね」


「ええ。馬車の旅では、馬たちの状態が何より大切ですから」


 モモもベルクの首元へそっと手を伸ばした。


「ベルク君、今日もよろしくね。トルク君も、無理しないで歩こうね」


 二頭は落ち着いた様子で立っており、朝の風が毛並みをゆっくり揺らしていた。


 馬たちの確認を終えたあと、三人は水の残量を調べることにした。


 シモンは馬車の収納から水を入れた容器を取り出し、用途ごとに分けてある分を順番に確かめた。


 人が飲むための水と、馬たちに与える水では必要な量が違う。さらに、調理や手洗いなどにも水を使うため、単純に容器の数だけを見て安心するわけにはいかなかった。


 ルシルはシモンの隣に立ち、確認した内容を一緒に整理していった。


「思っていたより減ってるんだね」


「そうですね。ただ、これは予定外に大量に使ったということではありません。三人と馬二頭が二度の野営を挟んで移動しているのですから、必要な消費です」


「そっか。ちゃんと使っているから減っているんだよね」


「はい。重要なのは、減ったことを問題にするのではなく、次の補給までに必要な量を見積もることです」


 シモンはそう説明しながら、残量を手帳へ記録した。


 ルシルはその様子を眺め、以前なら水の量をここまで意識することはなかっただろうと思った。


 王宮では、喉が渇けば飲み物が用意され、食事のための水が足りなくなることを心配する必要もなかった。けれど今は、目の前にある水がどれだけ大切なのかを、自分の手で確かめられる。


(誰かが準備してくれていたものを、僕は当たり前みたいに使っていたんだね。今になって、あの暮らしがどれだけ多くの人に支えられていたのか、少しずつ分かってきた気がする)


 その考えが胸に浮かんだとき、ルシルは懐かしさよりも、静かな感謝を覚えた。


 王宮での暮らしを取り戻したいとは思わない。


 それでも、あの場所で自分を支えてくれていた人々の仕事まで、否定したいわけではなかった。


「ルシル様?」


 シモンに声をかけられ、ルシルは顔を上げた。


「あ、ごめん。ちょっと考え事をしてたんだ」


「何か気になることがありましたか」


「ううん。昔は、こういうことを自分で確かめる機会がなかったなって思って。今は水がどれだけ残っているかを知るだけでも、旅をしているんだって感じるよ」


 ルシルがそう答えると、シモンは少しだけ表情を和らげた。


「そうですね。以前とは生活の形が大きく変わりましたから」


「でも、僕は今の暮らしが好きだよ。分からないことも多いけど、こうして一つずつ覚えていけるから」


 シモンは静かに頷いた。


「私も、ルシル様がご自身で確かめようとなさることは、よい変化だと思っています」


 その言葉を聞いて、ルシルは嬉しそうに笑った。


 少し離れた場所では、モモが二人の話を聞きながら頷いていた。


「わたしも、前より水のことを考えるようになったよ。町にいるときは、飲み水があるのが普通だと思ってたけど、草原だとそうじゃないもんね」


「ええ。水場が見つかったとしても、必ずしもそのまま飲めるとは限りません。以前にも確認しましたが、見た目が澄んでいることだけでは安全とは判断できませんから」


「うん。勝手に飲んだりしないよ」


 モモは真剣に頷いたあと、少し考えるように首を傾げた。


「じゃあ、今日は水を補給できる場所を探すのが、一番大事なことになるのかな?」


「そうですね。ただし、見つからないからといって無理に道を外れることは避けたいところです。まずは街道沿いを進み、利用できる場所がないか確認しましょう」


「分かった。わたしも気をつけて見るね」


 モモの返事に、ルシルは頷いた。


 三人は確認を終えると、朝の世話と食事の準備を進めた。


 馬たちには必要な水と餌を与え、落ち着いて食べられるようにする。ルシルはトルクの様子を見ながら、ベルクにも十分な時間を取って休んでもらえるように気を配った。


 そのあと、三人は木陰に折り畳みの卓を出し、簡単な朝食を並べた。


 持っているパンと保存の利く食べ物を分け、飲み水も必要な量を確保する。朝の風はまだ少し冷たかったが、陽の当たる場所では心地よい温かさが感じられた。


 モモはパンを手に取り、嬉しそうに目を細めた。


「草原で食べる朝ご飯って、やっぱりいいね。昨日とは違う木の下なのに、ちゃんと朝ご飯の時間が来るのが不思議な感じ」


「場所が変わっても、お腹は空くからね」


 ルシルが笑うと、モモも楽しそうに頷いた。


「そうなんだよね。だから、どこへ行っても朝ご飯は大事!」


「その点については、私も同意します。朝食を抜いて移動するのは、体調管理の面からも望ましくありません」


「ほら、シモン君もそう言ってる!」


「ただし、モモ嬢が毎朝楽しみにしておられる理由とは、少々異なるかもしれません」


「ええっ、同じだと思ったのに!」


 モモが笑いながら抗議すると、シモンも口元を緩めた。


 ルシルは二人のやり取りを聞きながら、パンをゆっくり食べた。


 朝食の途中、モモはふと木々の間へ視線を向けた。


 そこには小さな鳥が一羽とまり、枝の上で何かを探すように首を動かしていた。やがて鳥は別の枝へ飛び移り、短く鳴いてから草原の方へ飛んでいった。


「あの鳥、何をしてたんだろう」


「食べ物を探していたのかもしれないね」


「そっか。鳥も朝ご飯の時間なのかな」


 モモはそう言いながら、少しだけ笑った。


「わたしたちだけじゃなくて、ここにいる生き物も、みんなそれぞれ朝を迎えてるんだね」


 ルシルはその言葉を聞き、鳥が飛んでいった方角を眺めた。


 草原には人の姿が見えない。


 けれど、鳥や小さな虫、風に揺れる草木があり、そこには確かに暮らしがある。


 自分たちが通り過ぎるだけの場所にも、昨日から今日へ続く時間が流れているのだと思うと、目の前の景色が少し違って見えた。


「そうだね。僕たちが知らないだけで、ここにもいろんな毎日があるんだろうね」


「うん。だから、昨日ここを選んだときも、ちゃんと片づけて帰らなきゃって思ったんだ」


「ええ。それは大切なことです。旅人が休んだ場所を荒らしてしまえば、次に利用する人にも影響しますから」


 シモンの言葉に、モモは頷いた。


 朝食を終えた三人は、野営場所の片づけを始めた。


 卓を畳み、食器を整理し、使った道具を所定の場所へ戻していく。ルシルは車輪の周囲を確認し、地面に落ちているものがないかを確かめた。


 モモは旅帳面を抱えて木立を振り返り、昨日描いた夕焼けの絵と、今朝見た景色を見比べていた。


「ねえ、ルシル君。昨日の絵と今日の景色、同じ木なのに全然違うんだよ」


 モモは帳面を開き、描いた絵を見せた。


 夕方の木立は長い影を伸ばし、空には淡い橙色が広がっている。一方、今朝の木々は明るい光に包まれ、草の上には小さな露が描き加えられていた。


「本当だね。昨日の絵は静かな感じがするけど、今朝の方は明るくて、これから一日が始まるって感じがするよ」


「でしょ! だから、同じ場所でも朝と夕方の両方を描いてよかったなって思ったんだ」


 モモは嬉しそうに笑い、帳面を閉じた。


「いつか読み返したときに、ここで二回も違う景色を見たことを思い出せるといいな」


「きっと思い出せるよ。僕も、昨日の夕焼けと今朝の露のことは忘れないと思う」


 ルシルがそう答えると、モモは満足そうに頷いた。


 シモンは二人の様子を眺めながら、馬具の最終確認を終えた。


 トルクとベルクは落ち着いており、出発の準備は整っている。車輪の固定を外し、馬車の周囲に障害物がないことを確かめると、シモンはルシルへ声をかけた。


「ルシル様、こちらの準備は整いました。いつでも出発できます」


「ありがとう、シモン。モモも準備は大丈夫?」


「うん! 旅帳面もしまったし、忘れ物もないよ」


 ルシルは二人の返事を聞き、最後に木立を振り返った。


 昨日の夕方、三人で見つけた小さな居場所。


 今はもう、そこに馬車を置いていた痕跡もほとんど残っていない。


 けれど、ここで過ごした時間は、三人の中に確かに残っている。


(昨日も今日も、いい場所で休めたね。次もまた、こうして落ち着ける場所を見つけられるといいな)


 ルシルは穏やかに笑い、御者台へ上がった。


 モモとシモンも馬車へ乗り込み、三人の準備が整う。


「それじゃあ、行こうか。今日は水のことも考えながら、無理せず進もう」


「うん! 新しい景色も楽しみだね!」


「ええ。道の状態を確認しながら、慎重に進みましょう」


 ルシルが声をかけると、トルクとベルクはゆっくり歩き始めた。


 馬車は木立を離れ、草原の道へ戻っていく。


 朝の光を受けた草は、風に合わせて静かに揺れていた。


 昨日の午後に通った道とは違い、今朝の草原には少しだけ冷たい空気が残っている。遠くの丘の輪郭は淡く、空には薄い雲がゆっくり流れていた。


 ルシルは手綱を握りながら、道の先へ目を向けた。


 今のところ、道は緩やかに続いている。


 大きな分岐は見当たらず、左右には低い草地が広がっていた。


 モモは窓際に座り、周囲の景色を眺めながら、ときどき気づいたことを二人へ伝えていた。


「ねえ、あっちの丘、昨日より少し低く見えるね」


「そうだね。道の高さが変わったからかな」


「可能性はあります。遠くの地形は、見る位置によって印象が変わりますから」


 シモンはそう説明しながら、前方の道を確認した。


 草原は一見すると同じような景色が続いているが、実際には小さな起伏がいくつもある。道の端には浅い窪みがあり、ところどころに小石が顔を出していた。


 ルシルはそれらを避けながら、馬たちの歩調を一定に保って進んだ。


 しばらくすると、道の右側に少し草の色が濃い場所が見えてきた。


 モモが最初に気づき、窓の外を指さした。


「あっ、あそこだけ草が濃い緑色だね。ほかの場所と何か違うのかな」


 ルシルも目を向けた。


 確かに、周囲よりも草の色が濃く見える一角がある。


 ただし、そこに水があるのか、土の状態が違うのか、遠くからでは判断できなかった。


「もしかしたら、地面が湿っているのかもしれないね」


「その可能性はありますが、断定はできません。草の種類や日当たりの違いでも、色は変わりますから」


 シモンは慎重に答えた。


「水場を探していると、こうした場所が気になるものですが、見た目だけで判断して道を外れるのは避けましょう」


「うん。ちゃんと分かったよ」


 モモは頷き、草の色が濃い場所をもう一度眺めた。


「でも、こういう違いに気づくのは大事なんだよね?」


「ええ。気づいたことを共有していただけるのは助かります。そのうえで、実際に確かめる必要があるかどうかを考えればよいのです」


 シモンの返事に、モモは嬉しそうに笑った。


「そっか。じゃあ、これからも気づいたことはちゃんと話すね」


「頼りにしていますよ、モモ嬢」


 ルシルは二人のやり取りを聞きながら、穏やかに頷いた。


 三人で旅をしていると、同じ景色を見ていても、それぞれ違うものに気づく。


 モモは草の色や花の形に目を向け、シモンは地面の状態や道の安全を確かめる。ルシル自身も、馬たちの歩調や車輪の動き、進行方向を意識するようになっていた。


 誰か一人がすべてを見つける必要はない。


 それぞれが気づいたことを持ち寄れば、より多くのことを知ることができる。


(こういうところも、三人で旅をしていてよかったと思う理由の一つなんだろうな)


 ルシルはそんなことを考えながら、道の先へ目を向けた。


 午前中の草原には、穏やかな時間が流れていた。


 遠くで鳥が鳴き、風が草を揺らす。


 馬車の車輪が土の上を転がる音と、トルクとベルクの蹄の音が、静かな景色の中へ規則正しく響いていた。


 モモはしばらく窓の外を眺めていたが、やがて小さく首を傾げた。


「ねえ、ルシル君。今日は水を探してるけど、もし途中で町が見つかったら、そこで補給できるのかな?」


「そうだね。町なら、水を分けてもらえる場所があるかもしれない」


「ただし、利用できるかどうかは確認が必要です。井戸や水場があっても、誰でも自由に使えるとは限りませんから」


 シモンはそう答えた。


「もし町や集落に着いたら、まずは利用方法を尋ねましょう。必要なら代金を支払うことも考えなければなりません」


「うん。勝手に使わないようにするね」


 モモは真剣に頷いた。


 リーヴェルでも、町の水場を見かけたことがあった。


 けれど、その水が飲用に適しているかどうかまでは確認していない。見つけたからといって、何も考えずに使えるわけではないことを、三人は旅の中で学んでいた。


「それに、今日は必ず町へ着くって決まってるわけじゃないんだよね」


「ええ。次の集落までの距離は分かっていません。だからこそ、今ある水を大切にしながら進む必要があります」


 シモンの言葉に、ルシルは頷いた。


「無理に遠くまで行こうとしないで、途中で休める場所も探しながら進もう」


「はい。その方がよいでしょう」


 モモも嬉しそうに頷いた。


「じゃあ、今日も三人で相談しながら進む日だね!」


「そうだね。昨日みたいに、いい場所が見つかるといいな」


 三人は穏やかに笑い合い、馬車は草原の道を進んでいった。


 やがて、道の先に小さな起伏が見えてきた。


 低い丘が左右に続き、その間を道が緩やかに曲がっている。


 丘の斜面には短い草が広がり、ところどころに白い花が咲いていた。


 モモはその景色を見つけると、思わず声を上げた。


「わあ、あの花、きれいだね!」


 ルシルも目を向けた。


 白い花は草の間に点々と咲き、風が吹くたびに小さく揺れている。


「本当だね。昨日見た花と似ている気もするけど、少し違うのかな」


「遠くからでは判断できませんね。形や葉の付き方まで確認しなければ、同じ種類かどうかは分からないでしょう」


 シモンの説明に、モモは頷いた。


「じゃあ、今日は『白い花がいっぱい咲いてた』って書いておこうかな。名前が分からなくても、きれいだったことは覚えておきたいし」


「それがよいと思います。無理に名前を決める必要はありませんから」


 モモは旅帳面を開き、丘の形と白い花の位置を簡単に描き始めた。


 馬車の揺れに合わせて線が少し曲がったが、彼女は気にせず楽しそうに描いている。


 ルシルはその様子を横目で見ながら、穏やかに笑った。


 草原の旅は、特別な出来事がなくても楽しい。


 風の音や花の色、丘の形が少し変わるだけで、新しい発見がある。


 その一つ一つを大切にできることが、今の旅のよさなのだろう。


 丘の間を抜けると、道は再び広い草地へ出た。


 そこには、先ほどまでよりも背の低い草が広がり、遠くには木が数本立っていた。


 ルシルは周囲を見渡し、休憩できそうな場所がないかを探した。


「シモン、あの木の近くなら少し休めそうかな」


 シモンは前方を確かめた。


 木の周囲には平坦な場所があり、道からも大きく離れていないように見える。


「近づいて確認してみましょう。午前中の移動としても、そろそろ一度休む頃合いです」


「うん。トルクとベルクにも休んでもらおう」


 ルシルは馬たちへ穏やかに声をかけ、ゆっくりと木の近くへ向かった。


 道の脇には草の短い場所があり、馬車を寄せられそうだった。


 シモンが先に降りて地面の状態を確認し、問題がなさそうだと判断してから、ルシルは慎重に馬車を止めた。


 モモも後から降り、周囲の景色を見回した。


「ここもいい場所だね。昨日のお昼に休んだところとは違うけど、木陰が気持ちよさそう」


「そうだね。少し風も弱いみたいだ」


 ルシルはそう答えながら、馬たちの様子を確認した。


 トルクとベルクは落ち着いており、歩き方にも大きな変化は見られない。


 シモンは二頭の状態を確かめてから、ルシルへ頷いた。


「問題ありません。ここで少し休ませましょう」


「うん。僕たちも休もうか」


 三人は木陰に腰を下ろし、持ってきた水を必要な分だけ飲んだ。


 朝から移動していたため、冷たすぎない水が喉を潤す感覚が心地よかった。


 モモは水筒を大切そうに持ちながら、少しだけ目を細めた。


「こうして飲むと、水って本当においしいね」


「そうだね。町にいるときは、あまり意識しなかったけど」


「ええ。必要なときに適切な量を飲むことは大切です。節約を意識するあまり、水分を取らないのはよくありませんから」


 シモンの言葉に、モモは頷いた。


「うん。ちゃんと飲んで、元気に旅を続けるのが一番だもんね」


 ルシルも水筒をしまい、木陰から見える草原へ目を向けた。


 遠くの丘は午前の光に照らされ、淡い緑色に見える。


 道はその間を緩やかに曲がりながら続いていた。


「ねえ、シモン。もし今日、水を補給できる場所が見つからなかったら、明日はどうするのがいいと思う?」


 ルシルが尋ねると、シモンは少し考えてから答えた。


「まず、今日の終わりに残量を再確認する必要があります。そのうえで、明日の移動に必要な量を確保できるか判断しましょう。もし余裕が少ないようなら、無理に進むのではなく、補給先を探すことを優先する必要があります」


「そっか。今のうちに全部決めるんじゃなくて、今日分かったことを見てから考えるんだね」


「はい。状況が変われば、判断も変わりますから」


 シモンは穏やかに頷いた。


 ルシルはその言葉を聞き、少しだけ安心した。


 旅をしていると、先のことが分からない場面は多い。


 次の町までの距離も、道の状態も、天候も、すべてをあらかじめ知ることはできない。


 けれど、分からないからといって不安になるだけではなく、今分かっていることを確かめ、必要なときに考え直せばよいのだ。


(全部を最初から決めなくてもいいんだね。今できることを一つずつやっていけば、きっと次の道も選べる)


 ルシルはそう考えながら、木陰の外へ目を向けた。


 モモは二人の話を聞き、少し考えてから口を開いた。


「じゃあ、わたしも今日の終わりに、見つけた場所をちゃんと覚えておくね。水がありそうだったところとか、道の様子とか」


「ありがとうございます、モモ嬢。ただし、見た目だけで水場と判断しないようにしてくださいね」


「うん。『水がありそうに見えた場所』って書くようにする」


 モモはそう答え、旅帳面を開いた。


 午前中に見た草の色が濃い場所や、白い花の咲く丘を簡単に描き、その横へ短い言葉を添えていく。


 ルシルはその様子を眺めながら、ふと笑った。


「モモの旅帳面、どんどん詳しくなっていくね」


「そうなんだよ! 最初は見たものを描くだけだったけど、最近はそのとき思ったことも書きたくなるんだ」


「いいことだと思うよ。あとで読み返したら、きっとそのときの気持ちまで思い出せるから」


 モモは嬉しそうに頷いた。


「うん。いつか三人で最初から読み返してみたいな。きっと、忘れてたこともいっぱい思い出せると思うんだ」


「それは楽しそうですね」


 シモンも穏やかに答えた。


「私の記録には移動や物資のことが多く書かれていますが、モモ嬢の帳面と合わせれば、より詳しく旅を振り返れそうです」


「じゃあ、いつか二冊を並べて読もうよ!」


 モモが目を輝かせると、ルシルも笑顔で頷いた。


「うん。きっと楽しいと思う」


 三人はしばらく、これまでの旅で印象に残っている景色について話した。


 青波で見た海の色。


 潮凪村で聞いた波の音。


 リーヴェルの市場に並んでいた品物や、町の裏道で見かけた人々の暮らし。


 どれも特別な事件ではなかったが、三人にとっては大切な思い出だった。


 モモは話しながら、ときどき旅帳面を開いて絵を見せた。


 ルシルはそのたびに懐かしそうに笑い、シモンも記録していたことを思い出しながら言葉を添えた。


 やがて、木陰に差し込む光が少し変わり始めた。


 ルシルは空を見上げ、そろそろ出発する頃合いだと感じた。


「そろそろ行こうか。午前中のうちに、もう少し先まで進んでみたいし」


「そうですね。馬たちも十分に休めたようですし、出発してよいでしょう」


「うん! わたしも準備するね」


 三人は休憩の道具を片づけ、馬車へ戻った。


 ルシルはトルクとベルクの様子をもう一度確認し、シモンと一緒に馬具を整えた。


 モモは旅帳面を棚へしまい、窓際の席へ座った。


 準備が整うと、馬車は再び草原の道を進み始めた。


 午前の終わりが近づくにつれて、陽の光は少し強くなっていた。


 草原の色は朝よりも鮮やかになり、遠くの丘には薄い雲の影が落ちている。


 ルシルは道の先を見ながら、ゆっくりと馬車を進めた。


 しばらくすると、前方の景色に小さな変化が見えてきた。


 道の左側に、低い石がいくつか並んでいる。


 自然に転がってきたものなのか、人の手で置かれたものなのかは、遠くからでは分からない。


 モモがそれに気づき、窓の外を指さした。


「ねえ、あそこに石が並んでるよ。何かの目印なのかな?」


 ルシルも目を向けた。


 確かに、道の脇には似た大きさの石がいくつか見える。


 ただし、文字や印が刻まれているかどうかまでは分からなかった。


「どうだろう。前に見た道標みたいなものかもしれないけど、今は分からないね」


「ええ。意味を決めつけるのは避けましょう。道の境界を示している可能性もありますし、単に石が集まっているだけかもしれません」


 シモンは慎重に答えた。


「ただ、道の近くにあるものですから、馬車を寄せすぎないようにしましょう」


「分かった」


 ルシルは石から十分に距離を取り、道の中央を進んだ。


 モモは窓から石の並びを眺め、少し考えるように首を傾げた。


「旅をしてると、意味が分からないものもいっぱいあるね」


「そうだね。でも、分からないまま覚えておくのも悪くないと思うよ」


「うん。いつか誰かに教えてもらえるかもしれないしね」


 モモはそう答え、旅帳面の端へ石の形を簡単に記した。


 ルシルはその様子を見て、穏やかに笑った。


 以前なら、分からないことがあると、すぐに答えを知りたくなっていたかもしれない。


 けれど今は、答えが分からないまま先へ進むことにも、少しずつ慣れてきた。


 旅には、すぐに解決しなくてもよい疑問がある。


 それを覚えておき、いつか別の場所で思い出すことも、きっと旅の楽しみの一つなのだろう。


 石の並ぶ場所を過ぎると、道は緩やかな下り坂になった。


 ルシルは馬たちの歩調を落とし、慎重に進んだ。


 坂の先には広い草地が続き、遠くに小さな木々が見えている。


 そのさらに向こうには、地面の色が少し違う場所があった。


 モモは窓の外を眺めながら、目を細めた。


「ねえ、あの先、ちょっと景色が変わってない?」


 ルシルも前方へ目を向けた。


 確かに、遠くの草原には色の違う帯のようなものが見える。


 ただし、距離があるため、それが何なのかは分からなかった。


「そうだね。草の種類が違うのかな」


「可能性はありますが、地面の状態が変わっているのかもしれません。近づいてから確認しましょう」


 シモンはそう答え、道の先を注意深く見つめた。


 ルシルは頷き、馬車をゆっくり進めた。


 やがて、色の違う場所が少しずつ近づいてきた。


 そこには、周囲よりも背の低い草が広がり、地面には細かな石が混じっていた。


 道の脇には浅い窪みがあり、その周囲だけ草の色が濃くなっている。


 モモは興味深そうに眺めたが、すぐにシモンへ尋ねた。


「ここも、水があるかもしれない場所なのかな?」


「湿り気がある可能性はあります。ただし、今見える範囲では水面は確認できません。草の色だけで判断するのは難しいですね」


「そっか。じゃあ、ここも覚えておくくらいにしよう」


 モモは頷き、旅帳面へ簡単に記録した。


 ルシルは道の状態を確かめながら、慎重に馬車を進めた。


 浅い窪みは道から少し離れており、馬車の通行には影響しないようだった。


 それでも、周囲の地面が柔らかくなっている可能性を考え、必要以上に端へ寄らないようにする。


 しばらく進むと、道の先に少し広い場所が見えてきた。


 そこには低い木が二本立ち、周囲の草は短く、地面も比較的平らに見える。


 シモンは前方を確認し、ルシルへ声をかけた。


「ルシル様、あの場所で昼食を取りましょう。午前中の移動としては十分ですし、午後の進み方を相談するのにもよいと思います」


「うん。僕もちょうど休みたいと思ってたところだよ」


 ルシルは頷き、馬たちの歩調を落とした。


 木の近くまで進むと、道から少し離れた場所に平坦な地面が広がっていた。


 シモンが先に降りて確認し、問題がなさそうだと判断してから、ルシルは馬車を慎重に止めた。


 モモも後から降り、周囲を見回した。


「ここもいい場所だね。今日は木陰が見つかってよかったなあ」


「そうだね。午前中に二回も落ち着いて休める場所があったのは助かったよ」


「ええ。ただし、午後も同じように見つかるとは限りません。今のうちに休んでおきましょう」


 シモンはそう答え、馬たちの状態を確認した。


 トルクとベルクは落ち着いており、歩き方にも大きな問題は見られない。


 三人は二頭を休ませたあと、木陰に卓を出して昼食の準備を始めた。


 モモは食べ物を並べながら、少し嬉しそうに笑った。


「今日は朝から水のことを考えてたけど、こうしてお昼ご飯を食べられると、ちょっと安心するね」


「そうだね。必要なことを確かめながら進めているし、今のところ無理もしていないからね」


「ええ。だからこそ、午後も焦らず判断していきましょう」


 シモンの言葉に、二人は頷いた。


 三人は木陰で昼食を取りながら、午前中に見た景色や道の様子について話した。


 モモは旅帳面を開き、草の色が濃かった場所や石の並びを見せる。


 ルシルは道の曲がり方を思い出し、シモンは必要な情報を手帳へ記録していった。


 それぞれの記録は少しずつ違っていたが、三人で話し合うことで、午前中に見たものがよりはっきりと思い出せるようになった。


「こうして話してると、同じ道を通ってても、見てるものが違うんだね」


 モモが楽しそうに言った。


「わたしは花とか草の色ばっかり見てたけど、ルシル君は道の形を覚えてるし、シモン君は地面の状態をちゃんと見てるんだもん」


「モモが気づいたことも大事だと思うよ。僕だけだったら、草の色が変わっていたことに気づかなかったかもしれない」


「ええ。周囲の変化に気づくことは、旅を安全に続けるうえでも役立ちます」


 シモンがそう答えると、モモは嬉しそうに笑った。


「じゃあ、午後も頑張って見るね!」


「ただし、無理に何かを見つけようとする必要はありませんよ」


「分かってるよ。楽しみながら見るんだよね」


 モモの返事に、ルシルも笑顔で頷いた。


 昼食を終えたあと、三人は木陰で少し長めに休んだ。


 陽は高くなっていたが、木々の下には涼しい風が通り、草原の向こうから鳥の声が聞こえてくる。


 ルシルは木陰に腰を下ろし、道の先を眺めていた。


 午前中は水場を探しながら進んだものの、確実に利用できる場所は見つからなかった。


 それでも、道の状態を確かめ、馬たちを無理なく休ませながら進めたことは、よい経験になったと思う。


(今日の午後も、焦らず進もう。水が見つからなかったからって、慌てて道を外れる必要はないんだ)


 ルシルはそう考えながら、隣に座るシモンへ目を向けた。


「シモン、午後はどう進むのがいいと思う?」


 シモンは手帳を閉じ、少し考えてから答えた。


「まずは街道を進み、利用できる水場や集落がないか確認しましょう。ただし、日が傾く前には野営場所を探し始める必要があります。水の補給を優先するあまり、夜になってから休む場所を探すことは避けたいですね」


「うん。じゃあ、今日も夕方になる前に休める場所を決めよう」


「はい。今ある水の残量を考えれば、今日一日を無理なく過ごすことはできます。ただし、明日以降については、今日の終わりに改めて判断しましょう」


 ルシルは頷いた。


 モモも二人の話を聞きながら、真剣な顔で頷いていた。


「じゃあ、午後は水場と野営場所の両方を探すんだね」


「そういうことになります。ただし、どちらも見つからない可能性を考え、無理な行動は避けましょう」


「うん。わたしもちゃんと覚えておくね」


 三人は顔を見合わせ、穏やかに頷いた。


 木陰を抜ける風が、草の葉を静かに揺らしている。


 遠くの丘の向こうには、まだ見知らぬ道が続いていた。


 ルシルはその景色を眺めながら、少しだけ微笑んだ。


 次に何が見つかるのかは分からない。


 水場があるのかもしれないし、また別の草原が続くのかもしれない。


 けれど、三人で相談しながら進めば、きっと今できる最善の道を選べる。


 ルシルは立ち上がり、草の上に置いていた荷物を持ち上げた。


「それじゃあ、そろそろ出発しようか」


「うん! 午後もよろしくね、ルシル君、シモン君!」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 三人は休憩場所を片づけ、馬車へ戻った。


 トルクとベルクの状態を確認し、必要な道具を整える。


 ルシルが御者台へ上がると、モモは窓際の席へ座り、シモンも前方の道を確かめた。


 準備が整い、馬車はゆっくりと動き始めた。


 午後の草原には、柔らかな風が吹いている。


 道の先には低い丘が続き、その向こうにはまだ見えない景色が広がっていた。


 三人は今日の目的を確かめながら、急がず、無理をせず、次の道へ進んでいく。


 ルシルは手綱を握り、穏やかな気持ちで前を見つめた。


 水の残量も、これからの道も、まだ分からないことは多い。


 それでも、今は三人で考えながら旅を続けられることが、何よりも心強かった。


 馬車は草原の道をゆっくり進み、午後の光の中へと走っていった。


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