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第3話 共同生活の始まり



「なあ、せめて寝るときだけはどっか行ってくれないか?」


 委員そっくりの美少女と同じ屋根の下で寝るなんて、寝不足まっしぐらだ。


『むり』

「こっちの身にもなってくれ」

『実はちゃんとした理由があるんだよ』


 なんだよ理由って。


『さっきも言ったように、あたしは歴史修正で訪れてるワケ。あんまり1人の時間を増やしちゃうと遊んでると思われちゃう』

「……思われるとマズイのか?」

『引き戻されちゃうんだよ。だから夜とはいえそんなに長い時間あんたから離れるワケにはいかないんだよ』


 ミレイは結構真面目な顔をして言っている。

 うーん、かといって流石に……。


 俺はしばし悩んだ末、ひとつ妥協案を提示した。


「そこで寝てくれ」

『そこって……押し入れじゃん!』


 俺が指さした先には、何十年と張替えをしていない襖がある。そこを開ければ人ひとりぐらいは十分に入れるスペースがある。


「大丈夫だ。女の子ひとりぐらいは寝っ転がれる」

『ドラえもんじゃないんだから』

「未来から来てんだからドラえもんみたいなもんだろ」

『……ううっ』


 ミレイは悔しそうに頬を膨らませた。

 だが俺はもう折れるつもりはない。


「居候させてやるだけ有難く思ってくれ。嫌なら出てってもらって構わない」

『なんでそんな酷いこと言うのさ』

「君が未来で逮捕されようが俺には関係ない。勝手に改変した自分が悪いんだろ」


 ミレイは黙って畳を睨みつける。


「文句を言うなら出て行ってもらうからな。分かった?」


 ミレイは無言で押し入れに上がって、ピシャンと襖を閉めた。まだ全然寝る時間じゃないのに。

 でも、これでいいんだ。線引きは必要だ。


 そもそも俺は、委員との結婚なんて頼んでない。

 俺は自分の身の丈くらい分かってる。現実的にあり得ないことを、今日出会ったばかりの金髪ギャルに期待するほどメルヘンじゃないんだ。


 それから夜になり、布団に入る頃、俺は押し入れのなかで一切物音を立てないミレイがさすがに気になって声をかけた。


「あのさ」


 返事がない。

 だからもう一度。


「ミ……ミレイ」


 少し間をおいて、襖の向こうから声が聞こえた。


『寝ようとしてんだから邪魔すんなよ』


 気にかけて損をした気分になった。俺は布団を顔まで被って、瞼を閉じる。

 しばらくして襖の奥から、静かな寝息が聞こえてきた。


 暗闇のなか、襖を隔てた向こうで女の子が寝ている。しかもその子は再会を果たした初恋の相手そっくりなのだ。


 そんな猛烈におかしいシチュエーションのなかで、眠気なんて訪れる気がしなかった。





*********





 夢を見ていた。

 スキー旅行で、ひとり和室で布団に入って寝ている。雪がしんしん降る、音のない静寂な夜。


 誰かが素足でぴたぴたこちらに近付いてきて、しゃがんで、そして布団をめくった。

 瞼を開けると、そこには委員がいて、首を傾げてこちらを見下ろして――。


『オイ朝だぞ』

「……委員?」


 ……金髪?


「う……うわああああ!」

『だー、うるせえなあ嫌がり過ぎだよ! 委員じゃねえよ』

「はあ、はあ、夢か……ふう……」


 ミレイは機嫌悪そうに『洗面所かりるぞ』といって部屋を出て行った。裸足だった。まるで家かのようだ。


 まだ心臓がばくばくと高鳴っている。


「初日でこれか……」


 これから続くであろう、ミレイとの同居生活を思うと先が思いやられた。





*********





「……それで、やっぱり付いてくるのか」

『ミッションのためだから勘違いすんな』

  

 なんだか昨日出会った時よりも更にキツくなってる気がする。押し入れの件での言い合いを根に持ってるのか。


「あのさ」

『なに?』

「学校まで来るつもりか?」

『当たり前じゃん』


 それはマズい。

 金髪ギャルだぞ。いきなり学校に連れていって、俺はなんて周囲に説明したらいいんだ。


「それはマズいんじゃね?」

『何がマズイんだ』

「ほら、俺が女の子連れて学校に来たら、例えば委員との結婚? に悪影響与えたり……」

『あーそれなら問題ない』

「問題ない?」


 ミレイは景色を見ながら『ないない』と空返事をする。

 駅に辿りついてから電車に乗るまでの間、ミレイはずっときょろきょろと落ち着きなくあたりを見渡していた。


「物珍しいのか?」

『……うん』


 つり革を掴むミレイは、俺のほうを向いて小さく笑った。


『あたし、この時代が好きなんだよ』

「ふうん、なんで」

『科学と自然のバランス? が最も優れてる。駅もお店も役所なんかも、どこにいっても人が居る。温かみのあるいい時代なんだよ』

「現代っ子の俺には分からない感覚だな」


 前の座席に座っているサラリーマン風の男が不審そうにこちらを見上げていた。俺は口を噤んで、再び車窓に視線を戻す。


 やがて最寄り駅について、学校に向かう。その途中だった。


 肩を優しく叩かれた。


「なんだよ」


 振り返る。

 亜麻色の髪が揺れていた。

 心臓が止まりそうになる。


「うわ、いっ、委員?」

「あはは……久しぶりだね、北山くん」



 委員はあの頃のままの笑顔で、俺の隣りに肩を並べた。ずいぶん、背が小さくなったような気がした。




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