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第2話 家に帰ったら未来少女がいた



 帰りのホームルームが終わると、途端教室は狂ったように騒がしくなった。


 委員のもとに多くの生徒が駆け寄っていた。やっぱり高校生になっても、彼女のスペックは変わらない。


 誰からも人気がある、それが学級委員の彼女だった。

 恐らくこの高校でも、彼女の立ち位置はそういったところなんだろう。


 一瞬、委員がこちらを見た気がする。俺は咄嗟に目線を外して、教室から出ていった。


 外に出ると、雲ひとつない青空が広がっていて、まだ4月だとは思えないぐらい空気が生温かい。


 バス通りを一本外れて裏通りを歩く。柵の向こうの緩やかな小川を眺めながらため息をつく。

 

 窓際に座っていた委員。

 風を浴びて、心地よさそうに瞼を閉じて、そしてこちらを見て笑みなんか浮かべて……。


 彼女は俺のことを覚えてるんだろう。そう思った。十中八九覚えている反応だったから。


 ――北山くん。


 俺を呼んだあの声を思い出す。


 再会してたった数時間なのに、既に頭のなかが委員でいっぱいになってしまっている自分が可笑しくて仕方がなかった。

 俺は自分の頬を軽く叩いて前を見る。小川沿いの歩道を力強く踏みしめて歩いた。





*********





「ただいま……」

 

 誰もいない家に呟いた。


 母親は再婚相手と暮らしていて、年の離れた姉も結婚しているため、俺はこの一軒家でひとり暮らしをしている。


 2階に上がって、あくびをしながら無感情に自室のドアを開ける。


『やっと帰ってきたか』


 一瞬、家に帰って昼寝をした俺が見ている夢なんだろうと思った。


 だって、そこに委員が居るはずないんだから。


『ナニ固まってんだよ?』

「いっ……委員!?」


 髪を金色に染めた委員が目の前にいる。激しく脈を打ちだす心臓が、それを現実だと知らせてくれる。


『あたしはミレイ。委員じゃないよ』


 ほら見なさいと言わんばかりに、少女は髪の毛を指に巻き付けている。


 確かに委員は金髪じゃない。でも目の前の少女は、委員が金髪のかつらを被ったかのように瓜二つだ。


「だ、だ、誰だ!」

『だからミレイって言ってんだろ。単刀直入にいう。あたしは未来から来た』

「未来だと?」

『目的はあんたと“委員”ちゃんを結婚させること。以上』

「俺と委員が結婚? 何言ってんだ?」

『なんで分かんねえんだよ』

「いきなり結婚とか言われても意味わかんないだろ。しかも何勝手に人んちに上がり込んでんだよ。ミレイって誰だよ」


 ミレイは、はあーっとわざとらしくため息を吐いて、やれやれと言いたげに首を大きく振る。


 胸の膨らみが無邪気に揺れていて、どうやらプロポーションは本物の委員よりも豊満らしいようだ。


『うん、そうは簡単にいかないよね』

「出てってくれ。さもないと警察呼ぶぞ」

『あたしは2××××年からきたんだ。警察なんか呼んだところで捕まえられないよ』

「2しか分からないじゃないか。余計怪しいぞ」

『詳しくは言えないんだよ。とにかくっ、あたしは未来から来たんだ。歴史修正のために。んでその歴史っつうのが、あんたと委員ちゃんの結婚ってこと。わかったか?』


 未来から来た……

 歴史修正……

 委員との結婚……????


 理解しようと頑張ってみるが、やっぱり“委員との結婚”のところで理解が全て吹っ飛んでいく。


 最高に意味が分からない。俺はきっと人生これまで生きてきて最も訳が分からない場面に今遭遇している。


「悪いんだが何度聞いても意味が分からない」

『はあ……じゃあ詳しめに説明すっから、ちゃんと聞いとけよ』


 ミレイは頭を掻きながら投げやりにそう言った。


 そして彼女は理解の悪い俺に対し、ここに至るまでの経緯を時系列に沿ってゆっくり説明してくれた。


 結果、2周目あたりでようやく俺は話をなんとなく掴んでくる。……それでもなんとなくだけど。


 つまり、今ミレイが俺の部屋にいる理由はこうだ。


 彼女は遠い未来に住む10代の女の子。家族とともに出かけた時空旅行で、先祖である委員のところを訪れていた。


 その時にどうやら現実世界に干渉、歴史を改変してしまう。そしてその改変した歴史というのが“俺と委員の結婚”なのだと。


 それで、俺と委員が同じクラスになるこの時を狙って、歴史修正に訪れたのだという。修正できなければ彼女は時空警察に逮捕、金輪際時空への立ち入りを禁止されるのだとか。


 正直、理解なんてできやしない。


 ミレイが未来人である確率よりも、奇想天外な言い訳を用意してきた空き巣犯である確率のほうがずっと高いと思っている。


「これで信じる人間がいるなら逆にそいつが頭おかしいレベルだと思う」

『あんたも用心深いねえ。あたしは疲れたよもう』

「いきなり家に上がり込んできて未来から来たって言われても信じないだろ」

『どうしたら信じてくれるのさ』

「身分証はないのか?」

『ないよそんなもの』


 はあ。俺はため息をこぼす。

 何ひとつ証明できないじゃないか。


『……あ、そしたらさ。あんたしか知らないこと知ってたら信じる?』

「……例えば?」


 聞いた手前、後悔の念が過る。

 嫌な予感がしたからだ。


『あんたと委員ちゃんが仲良くなったきっかけは小5の時のスキー旅行でしょ?』

「……そうだ」

『当時のあんたはいじめられっ子で友達が居なかった』

「今も殆どいないけどな」

『それから事あるごとに委員ちゃんはあんたを救いにくる。それでふたりは親しい仲になったんだけど、彼女が私立の中学に行くことに』

「そうだな」

『それから今日に至るまであんたと委員ちゃんは会ってない。どう? 合ってるでしょ?』


 ミレイは胸を張って俺を見た。

 確かに、彼女の言ったことは概ね当たっていた。


「でも……そんなこと調べれば、例えば俺の同級生だった奴に聞いたりすれば分かることばかりだろ」

『他にもあるよ?』


 ミレイは鼻をさらに高くして不敵に笑う。


『ある日あんたは、悔しさのあまり委員の膝に泣き――』

「あーわかったわかった! わかったってば! もういい!」

『ふふ……これで信じた?』

「……なんでだ」


 何故そのことを知ってる。

 俺は自分の顔が真っ赤になっているのが分かった。


「……本当に未来から来たのか」

『だから何回も言ってるじゃんかよ。あたしはあんたの好きな、委員の子孫なんだって。ちょっとは協力してよ』

「……わかったよ」


 交渉成立ね、とミレイは腕を組んで歯を見せて笑った。

 お人形みたいに凛々しく、透き通るような肌で、笑うと目が線のように細くなる。


 ……やはり改めて見ると本当に委員そっくりだった。

 委員よりは……体つきが肉感的だけど。


『何見てんだよ』

「べ、別に」


 性格だけは似てないらしいが、良かったかもしれない。ミレイのことまで好きになってしまったら目も当てられない。


「……もう分かったから、今日のところは帰ってくれ」

『帰る?』

「もう色々あって疲れたんだ。一人にしてくれ」

『帰る家なんてないよ。だって未来だもん』


 首を傾げるミレイ。嫌な予感に胸がざわめく。


「……おい、まさか」

『今日からしばらく、この家に泊まるからよろしく!』


 ミレイは悪戯っぽく笑った。


「嘘だああああああああ」

『そんな嫌がらなくてもいいじゃん』

 

 こうして不覚にも、初恋の相手とうり二つの美少女、ミレイとの共同生活が始まってしまった。


 めっちゃラッキーじゃんとか、願ってもない展開とか、誰かなら思うのかもしれない。


 だが、これをラッキーだと捉えられない性格だから、俺はこれまで日陰者にしかなれなかったのだろう。




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