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赤松天翔物語 ~転生したら最弱の戦国大名だった!?~  作者: 姫笠
第一章 示された道

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第六話 浦上決戦⑦

「……ようやく来たか」

官兵衛は腕を組み、敵の宇喜多隊の動きをじっと見つめると、静かに命じた。

「合図をする。狼煙を挙げよ」

兵たちが慌ただしく動き、空に向けて真っ赤な狼煙が立ち上る。

その狼煙は、敵味方を問わず、戦場の者たちの視線を奪った。

戦場全体がざわつく。


「なんだ?狼煙?」

「赤松軍から狼煙が上がっているぞ?」


両軍の兵が、手を止め狼煙を見上げる。

その狼煙を見上げた敵将―宇喜多直家の口元が、ゆっくりと歪んだ。

「……官兵衛からの合図か。」

細めた眼に冷たい光を宿し、直家は馬腹を蹴って軍勢の最前へと進み出る。

「聞けい! 皆の者!!」

彼の声は大地を揺るがすほどの大音声となり、五千の兵に響き渡った。

「これよりわが宇喜多家は、赤松家にお味方いたす! 敵は浦上軍ぞ! かかれえッ!!」

その宣言は稲妻のように戦場を切り裂いた。

次の瞬間、宇喜多軍が一斉に鬨の声をあげ、前方の浦上軍へと雪崩のごとく襲いかかる。

「な!なんで宇喜多隊が襲ってくるんだ!」

「俺たちは味方だ!やめろ!」

浦上兵たちは混乱のあまり、武器を構える間もなく斬り伏せられていく。

仲間のはずの刃が、容赦なく自分たちの喉笛を裂いた。


赤松家本陣前―

浦上軍最前線にいた浦上家重臣―後藤勝元の元へも、味方後方の混乱が波のように伝わる。

「なんだ、後方がさわがしいぞ」

勝元が後方に目をやったその時―


「神よ、哀れな魂を救いたまえ――」


突如響いた祈りの声に、勝元はぎょっとして振り返った。

その瞬間、視界に鮮烈な閃光が走る。


ブシュウッ!


鋭い刃が肉を裂き、血飛沫が宙を舞った。

勝元の身体が仰け反り、驚愕に見開かれた瞳のまま、馬上から無残に崩れ落ちる。

その背後に立っていたのは、日ノ本では見慣れぬ異国の戦士のような姿をした少女。

太陽の光を受け、異国の甲冑が白銀のごとくぎらりと反射していた。

異様な存在感に、周囲の兵たちは息を呑み、足を止める。


北部前線。

「ぜえ……ぜえ……」

土埃にまみれ、汗と血で顔を濡らした友信が必死に大槍を構えていた。

その周囲を取り囲むのは、なおも牙を剥く複数の人型の妖怪。

鋭い爪が地を削り、低いうなり声がじりじりと迫る

だが――


ブシュッ プシュッ


次の瞬間、妖怪たちの背中に異様な短剣が突き立った。

刃が肉を裂き、異国の鋼が妖怪の血を吸い込む。


「グオオオオオッ!」

「ウウウウウウウッ!」


苦悶の唸りをあげ、巨体の妖怪たちは地響きを立てて崩れ落ちていく。

その刃はただの短剣ではなかった。

この国では見られぬ造り、湾曲した形に黒ずんだ刃。

そこから立ちのぼる甘い香のような異臭が、友信の鼻をついた。


「……毒?」

友信がかすかに呟いたそのとき、死骸となった妖怪たちの傍らに、足音がゆっくりと響く。

「さすが、宇喜多はんが調合した毒や。でかい妖怪でも、いちころやで」

土煙の向こうから、軽装の異国の防具を着た人影が歩み出てきた。

影が陽光に照らされるにつれ、少年の姿がはっきりと浮かび上がる。


後方で異変に気づいた浦上軍総大将―浦上宗景は、憤怒に顔を歪める。

「おのれぇ……! 裏切りおったか、宇喜多直家ッ!!」

血走った目で直家の軍勢を睨みつけ、刀を振り上げた。

「ええい! 裏切者の宇喜多隊は後方部隊に抑えさせよ!」

だが、時すでに遅し。

背後からの急襲により浦上軍の隊列は乱れ、兵たちの心は恐慌に駆られていた。

武将達の声も届かず、秩序は崩壊し、次々と宇喜多軍に切り崩されていく。

その混乱のさなか、赤松軍の諸将はついに状況を悟った。

「敵が仲間割れを起こしておる!」

政秀が声を張り上げ、血に染まった刀を掲げる。

「今こそ好機ぞ! 押し返せえ!」

「オオーーッ!!」

赤松軍の鬨の声が戦場を揺るがし、士気は炎のように燃え上がった。

一時は崩壊の危機に追い込まれていた彼らが、いまや怒涛のごとき勢いで浦上軍へ押し寄せる。

浦上軍は前後から挟まれ、まるで大地にすり潰されるかのように戦線を崩していった。

兵たちの叫び、斬り結ぶ金属音、そして血煙が空を覆い尽くす。

「ぐぬぬぬ……この借りは……必ず返すぞ……!」

浦上宗景は奥歯を噛み砕かんばかりに歯を食いしばり、馬上から怒声を張り上げた。

「全軍撤退じゃッ! 引けえ! 引けえい!!」

その叫びが、敗走の合図となった。

戦場に響く怒号と悲鳴の中、浦上軍は乱れながら退き始める――。

遠ざかる敵軍の姿を見送りながら、桜は大きく息をついた。

緊張が解け、全身の力が抜ける。

桜はへたへたとその場に座り込んだ。


やがて、追撃を切り上げた政秀が戻ってくる。

桜に歩み寄り、隣にどかっと座り込んだ。まだ息が荒い。

全身、返り血で赤くない部分がほとんどなかった。

「殿……!立ち回り、ご立派でございましたぞ!」

政秀はそういうとにかっと笑ってみせた。

「うん……ありがとう、本当に……政秀。」

ろれつがまわらず、力なく笑う。

そこへ官兵衛が後ろから近づいてきて、馬を降りた。

政秀は官兵衛に視線を移す。

「……宇喜多直家を調略しておったのだな。」

官兵衛は視線を逸らさず、淡々と続けた。

「周囲に間者が潜んでいては策が破綻する故、政秀殿にも伏せておりました。」

「ふんっ……」

政秀がぎゅっと腕を組み、唇を尖らせながら鼻を鳴らす。

官兵衛は静かに桜の傍らへと歩み寄り、微笑む。

「殿、よくぞ耐えてくれました。」

「うん……!政秀が、助けてくれたから。」

官兵衛はだまって頷く。そして続けた。

「殿、此度の戦の協力者へ会いに行きます。今後重要な人物ですので、御同席ください。」

「うん、わかった!」


官兵衛は桜を連れ、戦場に漂う血の匂いを感じながら、ゆっくりと馬を進める。

「殿、あの男が浦上家を離反し、我らに味方してくれた者です。彼なくしてこたびの戦、勝利は難しかったでしょう。」

桜は前方より馬で向かってくる男を見る。

その男の目は、感情という霧を一切交えず、氷のように冷たかった。

鋭利な眼差しは常に何かを測り、誰かの裏を読むことに注がれており、人の心すら盤上の駒として見ているかのようだ。

官兵衛は宇喜多直家の前に立ち、恭しく頭を下げた。

「こたびの寝返りの件、感謝いたします。」

直家は唇の端を歪め、微かに笑った。

「礼などよい。それより、下剋上へ協力の件、お忘れなきよう」

その声には、静かな威圧が滲んでいる。

官兵衛もまた、微笑を返した。

「無論です。これよりわれらは盟友同士、助け合っていきましょう」

直家は満足げに頷くと、背後の部下に目配せをした。

「ゆくぞ行長(ゆきなが)全登(てるずみ)

直家は低く呟き、背後の二人へすっと視線を落とす。


一人は返り血を浴び、異国風の軽装に身を包んだ、行長と呼ばれた少年。

フード付きのジャケットの影から覗くのは、短く刈り込んだ緑の髪。両側を鋭く反り込みにしており、どこか無造作で粗野な風体。

だが、その瞳は戦場の喧噪すら損得で量るような冷ややかな計算高さを宿していた。


もう一人は対照的に、ひときわ重厚な西洋甲冑を身にまとう少女―全登。

腰まである長い茶色がかった髪。

分厚い鉄板の隙間からは白いロングスカートが覗き、場違いなほどに清らかさを漂わせる。

その身にも返り血が飛び散っていたが、どこか憂いを帯びた優しげな瞳は、血に染まった姿との強烈な落差を生み出していた。


挿絵(By みてみん)


「此度の勝利、おめでとうございます。――エイメン。」

少女、明石全登が柔らかな声で言い、胸元で静かに十字を切る。

「お互い、ええ取引やったな! ほな!」

少年、小西行長が唇の端を吊り上げ、鋭い声音を残すと、二人は直家に従って歩み去った。

その背中を見送りながら、桜がぽつりと呟く。

「あの二人……なんだか、癖が強そうな家臣たちだね。」

官兵衛は目を細め、短くうなずいた。

「……そのようですな。」


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