第6章 飛翔〜9〜
第6章 〜9〜
本作最後にお届けするライブ。
激熱サウンドが観衆を魅了!
※字数が多くなっています。
※デリケートな内容が含まれます。
狂気的なまでの緊張感が、観衆の胸を抉るように響く。
今までにないダークなフレーズの単音リフが、繰り返し奏でられる。
彰人のドラムスがフィルイン。剛のベースは激しいスラップで入って来る。
莉玖はハモンドオルガンを、Amのルート音をキープしつつ音を下げていく。
ジャーーーーーン!!!
全身にぶつかって来るような豪快なコードストローク。ここから颯希のヴォーカルが入る。綺麗な女声的ハイトーンではなく、かつてなかった、ドスの効いた声。
「♪世界はいつも不条理に動いている。逆らえば君も叩き潰される。誰も私達の声を聞かない。だけど私達は叫び続ける。それは奴らにとってノイズでしかない。罵るなら勝手にすればいい。今、クレイジーになれ! ♪」
それはグランジ・メタルとでも呼ぼうか。ヘヴィなバックトラックに、反逆的リリックが重なる。
イントロの単音リフから、既に観衆は呑み込まれっ放しだ。
ヤバい。実にヤバいサウンドだ。
2コーラス終えると間奏に入る。
ハモンドオルガンのソロだ。バックトラックでギターがリフを繰り返し、ベースがスラップを繰り返す。
莉玖は、颯希の思いを音で表現するため、必死で練習した。その成果は、渡された譜面の4連符に対し、アドリブの6連符を聴かせるに至った。
練習量で言えば、もう初級者ではない。凄腕にはまだ遠くても、Nick Shock ! の音楽の1パートを担うには文句なしの腕前を身に付けている。
間奏に続いて、ドラムスとベースが休符。ギターはアルペジオ、ハモンドオルガンが重厚感を醸し出す。
颯希の声が、女声の如く透き通った。
「♪ 人は多数派に流れるもの
だけど少数派だって 必死で生きている
人の数だけ心がある
強く! 強く叫ぶのよ! ♪」
そうだ。ここに居るみんなだって、自身への跳ね返りを恐れて声を出せなかっただけだ。そんな世の中なんだ。
だけど今、会場はかつてない程の一体感に包まれている。
ヴォーカルの旋律は、3コーラス。そのエンドでは、ロングトーンからパワフルなシャウトだ。
「♪ Be Crazy Now ! ♪」
「Hey !」
しかしこの曲は、これで終わらない。
ここからが見せ場だ。
イントロと同じリフに、ドラムスがフィルイン。フルトラックになると、バスドラムがリズムキープし、ベースとハモンドオルガンがAmをキープ。これに乗って、ギターソロとなる。
颯希の特技・テンションコードのみならず、リズムからも外し、完全フリーソロであるかのようなプレイが繰り広げられる。
これは、人の心の歪みを表現しているのだ。
さらに、そこからドラムスがフィル。タムが、シンバルが、息つく暇もなく連打される。
激しいまでの緊張感が、観衆の胸に打ちつける。
まさに嵐。吹き付ける嵐のようだ。
「バスドラムだけを聴いて、自分の頭の中でリズムキープしろ。他の音に惑わされるな」
莉玖は、そう言われた。
今れた事には忠実に…このあり得ない程の緊張感の中で、一切ブレる事なく自身のパートに集中する。
やがて嵐は収まり、歪みは修正され、通常のリズムに乗って、ギターはエフェクトをかけたクリーントーンのカッティングとなる。
そして、何事もなかったかのように曲は終わった。
これにはDay Lightのメンバー達も、度肝を抜かれた。
凄い。凄すぎる。
闇から這い上がり、全てを振り切った者は、ここまでの表現力を見せるのだ。
腹の底から熱いものを感じる。
南条達も、我慢出来ずにステージへ飛び出した。
「Nick Shock ! Nick Shock ! 」
会場から溢れんばかりの観衆も、そのバンド名を連呼した。
―わあああああああああ!!!
鳴り止まぬ拍手の渦の中心から湧き上がるように、MCの声が飛び出してくる。
少なくとも、今ここに居る殆どの人の心を掴んだ。颯希はそう確信した。
「ありがとうございます! あと1曲、どうしても皆さんに聴いて欲しい曲があります」
さっきのカミングアウトで多くの時間を費やした。しかし、南条からの指示により、これだけは時間オーバーでも構わないから演る。
「これから聴いていただく曲は、始めは思うままに綴ったつもりの詞でした。しかし、Nick Shock ! が行き詰まった時、再起への勇気をもたらしました。とても大切にしてきた曲…」
しばし言葉が途切れた。颯希の胸に、莉玖の胸に、かつてない程の熱いものが込み上げてきた。
「その後、気付いたんです。これは、バンドに宛てたものであり、また、私自身に宛てたものだったんだって。そしてこれからは、今の私達の想いを皆さんに伝えるため、歌い続けていこうと思います」
大きな拍手を浴びながら、颯希はアコースティックギターを手にした。
♪Believe♪
Ah 午後の街を 今日も歩いてきた
河原の道ひとり ふと足を止めた
Ah どうして人は 人生の中で
進んでは立ち止まり 悩み続けるの
夏の日差しに焼けた
肌はもう色褪せて
佇む僕の背中を 秋風が撫でる
あれからどれくらいの 年月を超えたのだろう
ここから歩んでく道は 遥か続いてく
Ah 過ぎ去った日々の 記憶を辿れば
心に残るのは 過ちや後悔
Ah 振り返る事が 足を止めるのなら
つまらない過去の記憶は 捨ててしまえばいい
Oh oh…
Oh oh…
頬を赤く染めた
夕陽が西に落ちて
夜空に 眩く光る 星が生まれる時
いつしか忘れかけた 想いがまたこみ上げる
開いた両眼で未来を しっかり見据えて生きたい
あれからどれくらいの 年月を超えたのだろう
ここから歩んでく道は 遥か続いてく
Lalalala lalalalala…
(Believe in my self)
想いを両手に抱えて
ここから歩んでく道は
(Believe in my self)
遥か Ah 続いてく
美しいコード進行に乗って、優しい男声がメロディを奏でる。
間奏の途中で、颯希はアコースティックギターからレスポールに持ち替えた。
間奏からのBメロは、ギターのアルペジオとリードヴォーカルのみが優しく観衆に囁きかける。
そして、サビへのアプローチでフルトラックになり、滑らかなバッキングギターとヴォーカルに力強さが加わる。
ラストのサビに入る直前にエレクトリックピアノのグリッサンド。そしてポリシンセサイザーに切り替わり、間奏と同様のフレーズを奏でる。
さらにそこには、バックコーラスが重なる。
キーボードが加わった事で広がりが生まれ、この楽曲は格段に美しく仕上がった。
バックコーラスは、聴き手の胸に強く優しく入り込んだ。
涙が溢れた。
様々な想いを乗せて、ここから新たな一歩を踏み出す。
掴むもの、そして失うもの。
何かを掴む代わりに、大切なものさえ失う事もある。
捨てるものではなく、失うもの。それは、必ず自分にとってプラスになる何かを残してくれている。
淋しくない訳がない。悲しくない訳がない。だけど、涙の後に輝くためのヒントを、その人は残してくれているのだ。
少数派だけを持ち上げるのではない。多数派との共存を謳っていきたい。そこには、全ての人が尊重され、生きやすく感じる事を最終目標とし、皆が同じ方向を向いて進んでいく事が求められる。
微力なのは致し方のない事だけど、1人でも多くの人が声を上げなければ何も始まらない。何も変わらない。
今ここから歩んでいく道は、まだゴールなんて見えない遥か長い道のり。
だけど、足を止めてはいけない。
そう決めたのだから、突き進むのみだ。
Nick Shock ! のステージは、大盛況となった。
莉玖が居た。
剛が居た。
彰人が居た。
南条が居た。
礼も居た。
穂花、詩織。
聡太も、CO-CO-ROのメンバーも居た。
そして会場に足を運んだ殆どの人達が、心打たれた。
全ての曲を終えると、颯希は客席に向かって深く頭を下げた。
莉玖、剛、彰人も、颯希と一緒に頭を下げた。
颯希の目から、大粒の涙が溢れた。
ひときわ大きく響く拍手に包まれ、4人はステージを去った。
楽屋に戻った4人に深く頭を下げる男性。ハルが、泉涌寺病院から駆けつけていた。
颯希と莉玖の胸の奥底から、一気に想いがこみ上げ、全身が震えた。
「福本さん…福本さぁあああん!!」
抑える事の出来ない悲しみが、2人の、そして、南条やハルの体中から溢れ出た。
泣き崩れた。
もう、立ってなんかいられない程に力が抜け、涙ばかりが溢れて止まらなかった。
「福本さんは、きっとこの会場に立ち寄ってくれたはずよ。颯希ちゃん達のライブ見なきゃ、安心して旅立てないって…」
見届けてくれたのだろうか。ハルの言葉が温かかった。
自分達は、今日やるべき事をやり切った。
深い悲しみの中でも、それだけは胸を張って言える。そんな気がしていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
強いメッセージを、この2曲に込めました。
観衆が反応を躊躇った理由、そこにも日本の世相の在り方を問うメッセージを込めています。
『Believe』は、私こと日多喜瑠璃が制作したのもずいぶん前の話。
漠然と「前に進もう」という想いを綴ったものなのですが、ここに来て颯希の想いと同調する事に気付いたので、急遽歌詞を全て載せる事にしたんです。
本編、残すところあと1話となりました。
物語を締め括る1話、皆様からの反応がどうなるのか? ドキドキです。




