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第6章 飛翔〜8〜

第6章 〜8〜


メンバー紹介。

いよいよその時が!


※字数が多くなっています。

※デリケートな内容が含まれます。

 ―頑張れ! 莉玖。

「ステージの真ん中で、綺麗な歌声と熱いギターを奏でる…ギター…」

 ―言うてしもたら楽になるから!

「ギター女子さつきちゃんこと、日向颯希!」


 ―は?


 会場は沈黙した。莉玖は血の気が引くような感覚を覚えた。


 ―ヤバい!


 颯希がすぐにマイクを取った。


「皆さん。M チューブっていう音楽動画サイト、観られた方も多いかと思います」


 観客席のそこかしこで、顔を見合わせると小さく手を上げる者の姿が見られる。


「結構居てはりますね。そのM チューブで、『鴨川美化運動ライブ』っていうタイトルの動画が、少し前に話題になったそうです」


 観衆がどよめく。どこからともなく「あのギター女子さつきちゃんか!」という声が聞こえてくる。


「その、ギター女子さつきちゃんというネーミングをいただいたのが、この私、日向颯希です。でも、私の体は女子ではありません。そして心は男子ではなく、どちらかというと女子に近いのかもしれません。私は男性の体に生まれ、しかしそこに違和感を感じ、女性の体に近付きたいと思い、ホルモン治療を施す事でこのような女性的な体に作り変えました」


 観衆達は、戸惑った。

 MUSE LAB時代から応援してきたファン達は、颯希は男子であると認識している。

 男子であるはずなのに、男子ではない。

 どう受け止めたらいいと言うのか?


「この世の中には、人口の約9%のセクシュアルマイノリティの方が居ると聞きます。計算すると、この会場にも40人ほどのマイノリティさんが居られる事になります」


 観衆はどよめき、皆、周りを見渡す。


「私如きが公表して、何が変わるのか? ご存知の方も多いと思うのですが、Day Lightの南条さんは、LGBTQの支援者です。私は、子供の頃から“女男”などと揶揄われ、誹謗中傷を浴びせられ、生きづらさを感じながらもがいてきました。南条さんは、そんな私に、いいえ、それだけじゃなくて、多くのマイノリティの方に手を差し伸べてこられました。今ここに来られている皆さんにも、支援などとは言いませんが、LGBTQを知ってもらいたい。そんな思いで詞を、曲を書いています」


 最早どよめきすらなくなる。

 言わなければ良かったのか?

 会場からは、ひそひそと話す様子が窺え、さらに不安を煽る。

 マイクを颯希に振った莉玖は、血の気も凍りつく思いだ。


「ある方は、私と似たマイノリティとして生きてこられました。およそ40年、ずっとずっと生きづらさを抱え、それでも周りの人を否定せず、1人ひとりの心に寄り添ってこられました。相手がマイノリティでも、マジョリティでも、そんなのは無関係に温かく接してこられたんです。でも、何でマイノリティ…少数派は支援を受けなければ生きづらいんでしょう。それは…」


 ふと颯希の脳裏に浮かんだ福本の笑顔。

 体中が震えた。しかし、全身に力を込め、必死の思いで声を上げる。


 莉玖が寄り添った。

 剛と彰人も、颯希の傍に寄り添った。


「海外では、LGBTQ該当者も普通に受け入れられる国が多い。それは南条さんの受け売りだけど、日本人の気質は多数派に流される事が多いようです。そしてまた、多数派同士仲間意識が強く、時に少数派を排除しようとする事もあります。少数派を見下し、差別や誹謗中傷の言葉を浴びせたり…それは明治維新以来、富国強兵政策を取ってきた日本の歴史が深く関わっていると考えられているんです」


 そんな時代、女性であれば、多数派であっても差別の対象とされた。ましてや性的少数派ともなれば、更に受け入れ難いものであったとされる。

 こんな歴史を言葉にすると、颯希のその表情は歪む。


「それでも、少数派だって普通に“人”なんです。男性の体を持つ女性。女性の体を持つ男性。そのどちらにも当てはまらないと自認する方。私のように、男性の体を持ちながら女性、でも時に男性の心になっている人…みんな、人として生まれてきた。だから、普通に生きる権利がある。なのに世の中には、そんな私達を否定する風潮が今も残っています」


 颯希は少し言葉を溜めた。

 目頭が熱くなる。


「そんな風潮の中、もし生まれ変わったらどっちの体を持つ事になるんやろう? まともな人になれるんやろか? なんて疑問を持ち、私は気が付いたら手首を切っていました。人がこんな気持ちになる…皆さんはどう感じますか!?」


 涙が溢れる。もう堪えきれない。

 唇が震える。言葉になるかどうか、ギリギリのラインで颯希は、声を張り上げた。


「心が男性であれ、女性であれ、どちらでもなくたって…同性を好きになるのも! 異性を好きになるのも! 恋愛に性別は無関係な人も! みんな人であって、人として生きる権利があるんです!! 私達Nick Shock ! は音楽を通じて、全ての人が生きやすい日本に変わっていくために、声を上げていきます!!!」


 パラパラと拍手が起こる。おそらくは、CO-CO-ROのメンバーや穂花、詩織達だろう。

 その数は、期待とは裏腹にとてもまばらだ。

 会場のドアが開き、数人が退出したように見えた。


 ―受け入れろなんて無理なのか?

 剛は思わず颯希の傍に寄り、肩を組んだ。



 その時―。

 観客席から堪らず声援を送った男。


「颯希ーっ! 頑張れ!! お前はお前や! 自信持てぇーっ!!」

 ―礼!?


 剛が声を上げた。


「上がって来いや! 礼」


 剛は気付いていた。観客席に居る、ロン毛の長身男の存在に。

 そして、そう促された礼が、ゆっくりとステージに上がった。


「辞めた俺が言うのも何やけど…」


 そう言って礼は、マイクを取り、ステージから観客席に向かって叫んだ。


「まず俺が何者か…俺は、元Nick Shock ! のメンバーで、今は精神科・ジェンダークリニック専攻の医大生や。医療の観点からLGBTQ+を支援する者や」


 観衆の反応に、かなり苛ついていたのだろう。礼の口調は荒かった。


「みんな…黙ってるみんなは、男の体してる女の子とか、女の子の体してる男子とか、同性愛者とか、まるで変人扱いしたりしてんのちゃうか!? 颯希も言うた。普通に“人”なんや。マイノリティはなぁ、おかしいモノとちゃう。その人の個性や! 光る部分なんや! だからもっと光るように、俺らが磨きをかけていこうとしてんねや!!」


 そう言うと礼は、颯希を、剛を、莉玖を、彰人をチラリと見て、再び観客席に目を向けた。


「みんな、コイツらのロック聴きに来たんやろ!? ロックバンドなんてなぁ、人と違う“ぶっ飛んだ”奴が居った方がオモロイやん!!」


 観衆が、また顔を見合わす。

 まだ反応を躊躇う観衆を煽ろうと、礼はさらに声を上げた。


「男でもない、女でもない、なぁ颯希、お前何者や!? お前! 最高にカッケーやんけえっ!!!」

 ―なぁ! みんな!!


 またCO-CO-ROのメンバーだろう。パラパラと拍手が起こり、その中から声が聞こえてくる。


 ―おおーーーーーっ!!


 ひろきが、小百合が、宇宙が、真琴が、礼の声に反応して声を上げた。

 聡太が、詩織が、穂花がそれに続いた。

 脇谷が、伊川がさらに続いた。

 剛は、堪らず声を上げて観衆を煽った。


「もっと来い! もっと!」

 ―おおー!!


 彰人も煽った。


「足りひんねん! もっと!!!」

 ―おおおーーー!!

「もっともっとーー!!!」

 ―おおおおおーーー!!!


 観衆の声が、会場から溢れんばかりに響いた。

 礼は4人をチラリと見て、ステージを下りた。


「よっしゃ! じゃあ、Nick Shock ! の音楽、聴いてくれ!!」

 ―おおおおおーーーーー!!!


 礼は、会場を呑み込むほどの大声を上げた剛に対する観衆の反応を見ると、ステージ上の4人に向かい、大きく手を広げて合図した。


「誰も私達の声を聞かなくとも、私達は世界に向けて叫び続けるだろう。罵るなら勝手にすればいい。上等だ…」


 英語で綴った歌詞を日本語に訳し、颯希は次の曲紹介の声を放った。


「『Crazy Now』!!」


 ―わあああああああーーーーー!!!

読んでいただき、ありがとうございます。


いやぁ〜、もう…

どうやって収束しようかしら、この事態…

なんて、凄く悩んだ回です。


颯希が沢山喋りました。

それでも伝わらない。


今って過渡期なんでしょうね。

若い世代はマイノリティを受け入れようとする人が増加しているようですが、やはりそのお父さん世代やさらにその上の世代の人って、受け入れようとする人もいれば否定する人もいたり。


という事は、世の中は変わろうとしているんです。

でも、立ちはだかる問題ひとつひとつへの対応が追い付いていないのでしょう。


そしてライブ中でのこの事態…

ノッポ君に頼っちゃいました。

彼がいてよかった。

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