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第7話 『微生物シリーズ』の裏の顔

 朱鷺宮高校の才女、新嶋に連れられ生物研究部へ来た時崎は、新嶋から『微生物シリーズ』の悪用を阻止する国家プロジェクトへの参加を要請され、まだ現状を理解し切れていない時崎に対し、新嶋は『微生物シリーズ』の現状を教えるべく、校内に存在する筈のない地下室へと案内する。


 時崎がそこで見た光景は、俄かに信じられない学校という環境では有り得ない場所で、生物専攻をしている時崎は他の一般人と比べればある程度の生物知識がある方であったが、その部屋には時崎自身も見た事のない姿の生物などが多く存在し、その世界は不気味な空気を醸し出していた。


「先輩、これは一体・・・」

「これが、『微生物シリーズ』によって生み出された凶悪な生物『亜種』になります」

「『亜種』・・・ですか?」

「私達は『微生物シリーズ』の裏で融合された『亜種』を討伐する為に、国が密かに立ちあげたプロジェクトなのです。『亜種』は確かに凶暴な生物ですが、その全てが悪意ある者が作り出している訳でもない、それも現実なのです」

「・・・それは、つまり実験の失敗により生み出された物と言う事ですか?」

「さすが、察しがいいですわ。時崎さんがおっしゃる通り、『亜種』は微生物研究時に融合で失敗したキメラ(合成獣)と言う可能性もあるのです。例えば、私が提案した『δ細胞』と篠目さんが提案した『δ細胞』は、同じ微生物でも配合のアプローチが違います」

「はい、綾ちゃんが提案した『δ細胞』は、植物由来である『β細胞』が強く、先輩の提案は『α細胞』の方が強く出る配合になっているから、ですか?」

「・・・そう、植物由来である『β細胞』であればそれ程のリスクはありませんが、動物由来の『α細胞』が強い場合、それを融合させる段階で凶暴な未知の生物を作ってしまう可能性は大いにあります。・・・ですが、その細胞を使い悪事を冒す、そんな人間も存在するのも事実です」


 『微生物シリーズ』の真実は、実験の失敗により合成されたキメラや、悪意を持つ人物が作り上げる『亜種』がある事だと語る新嶋が檻に入る一匹のキメラの前に立ち止まると、後ろをついて歩いていた時崎へ振り向き話を続ける。


「『亜種』の討伐は危険を伴う仕事になります。ですので、それを時崎さんへお願いする事は筋違いだとは思っておりますが、参加されるからには何時危険に巻き込まれても最低限の護身が出来るように、ここで簡単な訓練を受けて頂きたいと思っております」


 話を終えた時崎が後ろに居るキメラの牢獄の扉に手を当てると、その扉は無防備に開き出し、牢獄の中に居た体の二倍はあろう翼を持つキメラが勢いよく飛び出し校内の1フロア分はある広大な地下フロアの空中を徘徊する。

 そのスピードは時崎の目では追いかけるのが精一杯な速度で、もしそのまま襲われていたら自身は何も出来ずキメラの持つ鋭い爪の餌食になっていたと考えると、瀧崎は恐怖のあまり足が竦む。


「・・・だ、駄目です。足が竦んで動けません・・・」

「始めてあれを見た人間は、大抵その反応を示すものですわ。私だって、最初は時崎さんと同じでしたわ」


 キメラと時崎の間に立ち時崎を見つめる新嶋は、先程までと変わらない優しい表情を見せ話しかけるが、その様子を見たキメラは獰猛な動きを見せながら新嶋目掛けて突進して来る。


 だが、新嶋はその突進にも表情一つ変えずキメラの方をゆっくりと振り向くと、襲い掛かるキメラの攻撃が既に分かっているかのように、キメラから繰り出される鋭い爪をかわすその動きは、同じ人間として有り得ない速度を見せる。


「時崎さん、このキメラは『α細胞』細胞を主体として出来る『亜種』『ランゲル』と呼ばれる合成獣で、鋭い爪と消化能力の高い唾液で攻撃する蚊の一種です」

「こんな巨大な蚊が、・・・ですか。先輩は怖くないのですか!?しかも、先輩の動きは、とても人間とは思えません!」

「私が去年研究発表会で公表した『β細胞による細胞の活性化』を用いて作った特殊な薬があれば、この動きは可能ですわ。この薬は人間の運動能力を高め、あの程度の動きであれば余裕で見極める事が出来ます。私達はこの薬を手にした事で『亜種』と対等以上に渡り合える事が出来ます!」


 人間離れした異常な動きをする新嶋を心配する時崎に、自身が発表した薬を使用する事で『亜種』と対等以上の動きを手に入れた事を、ランゲルの攻撃をかわしながら時崎へ指導するかのように敵の特性を説明した新嶋は、自身の攻撃タイミングを覗うかのように、それまで見せていた余裕の表情から鋭い視線をキメラへ送る真剣な表情へと変わり、先程までの流暢な会話を無くし黙り込み、交わし続けていたランゲルの連続攻撃が途切れた一瞬を逃さず一気にランゲルの胸元へ入り込むと、自身の右腕をブレザーの脇に入れ攻撃態勢へ入る。


 新嶋がブレザーの脇から抜いたのは、お嬢様のイメージからは想像も出来ない不格好でボクシーな形をした一丁の拳銃で、銃を抜いた新嶋は躊躇なくキメラの頭部目掛け引き金を引くと、甲高い轟音が響き渡ると同時にリンゲルの首は跡形もなく吹き飛び、残った胴体が静かに倒れる。


「・・・新嶋先輩、それは・・・」

「・・・そう、私が持つ特権は『亜種』を討伐する為の銃の所持許可と、その対応ですわ」


 火薬が爆発した硫黄臭い匂いと消煙を銃口から漂わせながら話す新嶋は、手に握られていた黒い不気味な拳銃を再びブレザーの中へしまう。


「突然の出来事で驚いているかもしれませんが、これが私の話していた『亜種』によって生成されたキメラです。なぜキメラが出没し始めたのかは未だに謎に包まれたままですが、通常の銃弾ではキメラを殺す事は出来ません。そこで、父が開発した対生物用に作られた特殊な弾丸を使う事で今のようにキメラを倒す事が出来ます」

「・・・に、新嶋先輩は、どうして、こんな危険な事を引き受けたのですか?そんな事は大人に任せておけばいいじゃないですか!?」

「・・・そうですわね。対生物用の弾丸は人気にとってはペイント弾程度の威力しかありませんが、扱っているのは実弾と変わりはありませんし、普通に考えれば子供が足を踏み入れる世界にしては危険だと思いますわ。・・・ですが、私にも譲れない『決意』がありますので、こうしてキメラに戦いを挑んでいるのです・・・」


 その弾丸が例え生物専用であったとしても、不法に持つ事が許されない拳銃を持ち危険なキメラと命を掛けて戦う新嶋の話を聞いた時崎は、その姿に恐怖を感じ怯えながらも新嶋へ説得に近い質問をすると、今まで穏やかだった新嶋の表情は悲しげな表情へ変わる。


「・・・私には年の離れた姉が居ました。姉は父と同様に『微生物シリーズ』を研究する為に、朱鷺宮高校から生物専門の大学へ進学し研究所におりました。ですが、今から5年前に『亜種』を発見した姉は、父が作った討伐部隊へ自ら志願し入隊し、姉は『微生物シリーズ』から生まれた『亜種』によって殺されました。当時まだ対生物用の武器が無かった為、『亜種』に対して手探り状態であったとは言え、姉を殺した『亜種』は今でも最強に近い実力を持っていると私は思っておりますが、今でも探し続けている姉を殺めた『亜種』を見つける事が出来ていません。・・・私には、あの『亜種』を探し出す使命があるのです。それに、『亜種』の発生原因を突き止めなければ、近い将来一般人を巻き込み、私と同じ悲劇を味わう方が現れる事は間違いありません。ですから私は『亜種』が無くなるまで戦い続けます」


 新嶋には姉がいて、自ら発見した『亜種』を倒す為に父親と討伐部隊を立ち上げた人物だったが、その『亜種』によって殺された事を目の前に倒れるキメラを見ながら話す新嶋は、先ほどまでの悲壮感漂う表情とは違い覚悟を感じる険しい表情に変わっていて、才女と呼ばれた彼女の意外な一面を目の辺りにした時崎は、新嶋の覚悟に触れた事で彼女に尊敬の念を抱いていた。


 これまで上流から下流へ流れる川を激流や障害物など一切なく緩やかに流れるような人生を送った時崎は、朱鷺宮高校へ来たのも母親が研究員であったのと親友の篠目と一緒に居たかった程度で選んでいた為、そのまま母の研究室へ派遣として紹介される程度の人生しか想定していなかった。


 だが、突然現れた留学生ミストの存在により己の潜在能力を開花させ、その能力に目を付けた新嶋に『微生物シリーズ』の『亜種』と言われるキメラの討伐の話を聞いた時崎は、今までの自分は特に何かを考え懸命に生きていただろうと考え始める。

 確かに、二十歳にも成らない若者がこれからの人生を考えているかと言えば過半数はそうでは無い事は時崎も知っていたが、新嶋の話を聞き、まがいながらも生物研究の世界へ片足を踏み入れている自分が『微生物シリーズ』を悪用する人物に対し僅かであるが憤りを感じている事も確かであった。


 私の考える覚悟なんて、自身の妹よりも無いのかも知れない。


 そう考えながら、目の前に倒れるキメラに怯え立つ事すらままならなかった自分に何が出来るか不安が残る時崎だったが、その震える拳を強く握り締め直すと、目の前で時崎の言葉を待つ新嶋へ顔を向ける。


「・・・私、今は何も出来ないとは思いますが、せ、先輩の力に、少しでもお役に立てればと思っています!私も『亜種』の討伐をお手伝いさせて下さい!」

「時崎さん・・・」

「今回の発表会で、私も『微生物シリーズ』の可能性や面白さがようやく分かって来た所でした。・・・今まで朱鷺宮へ来たのも大した理由ではありませんでしたが、私も生物研究者の端くれとして先輩のお手伝いを出来ればと思っています」

「・・・ありがとう時崎さん。この事が公になれば世界は混乱しますので、これ以上国を動かす事が出来ないのですが誰にでも出来るお願いでもありませんので、時崎さんが協力して頂けるのは心強いですわ」

「あ、はい!」


 震える声で己の気持ちを一生懸命話し新嶋に協力する事を話した時崎に、瞳を僅かに潤ませながら優しい表情で新嶋は時崎に礼を言うと、再び真剣な表情へ戻り話を続ける。


「・・・ですが、これは命を危険に晒す事になるのは間違いありません。ですので、まずは銃の扱いに慣れて頂く事が第一優先になりますので、この地下にある射撃場で銃の扱いに慣れて頂く訓練と基礎体力向上の訓練をして頂きますわ」

「け、拳銃・・・ですか」

「いくらキメラの為に作った対生物弾とは言え、それを放つのに使用するのは実弾拳銃になりますので、その反動に慣れるのは結構な時間が掛かると思いますし、私の薬もある程度の体力も必要になりますし、同時にキメラの動きを読み交わす訓練も行う必要があります。訓練は私が直接つけさせて頂きますので、時間の許す限り訓練をして下さい」

「分かりました」

「・・・それでは、時崎さんは私の推薦として生物研究部への入部を許可する事に致しますので」

「わ、わ、私が生物研究部ですか!?」

「あの発表会の実力からその実力は十分だと思いますし、私は元々あの発表を見てから貴方を生物研究部へ誘うつもりでいました。こちらに関しては貴方の考え次第だと考えておりましたが、貴方の決意を聞かせて頂きましたので、命を預かる以上、貴方に最高のおもてなしをする必要がございます」


 命を預かる立場として時崎に最高のもてなしをと真剣な表情で話す新島に、その言葉に慌てながらも嬉しさ溢れる表情の時崎を見て優しい笑みを見せると、時崎はまだ動揺が取れない震えた口調で話す。


「あ、あ、ありがとうございます。微力ながら生物研究部でもお役にたてればと思います!」

「こちらこそ。時崎さん、よろしくお願いしますわ」


 こうして時崎は生物研究部の一員となり、放課後は部室へ訪れ新嶋と共に訓練の日々を送り空いた時間で『γ細胞』の研究を行う毎日を送る。


 生物研究部に在籍する事になった時崎は自身の研究室へ行く事が減り、ミストと会う機会も少なくなっていたある日、ミストは目の前に立つ広大な研究所の前に立っていた。


 そこは、日本が世界に誇る研究所『西村研究所』であった。


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