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団長の器は伊達じゃない

再度、レイシアのいる部屋に繋がる窓枠に立つケヴィン。


「きゃっ、貴方また…」

「そんな怖がるなよ。あんたの意志は大事だが、こっちは命を受けて来てるんだよ。大人しく言う通りにしてくれねぇか?」


突如、目の前に現れたケヴィンに後退りするレイシアが怖がっているように見えたケヴィンは、少し憂い顔を見せてレイシアの白く細い腕に手を伸ばした。


「さ、触らないで!」


ケヴィンの迫り来る手を叩いて、レイシアは眉を吊り上げる。


「何を言っているのか分からない、私はここから出たいなんて思ったことないわ!」


か弱い身体からそんな大声が出せるとは、と驚きながらケヴィンは口角をあげた。


「おいおい、俺は言った筈だぞ?あんたの意志を尊重する気はない。『強制的に』出すってな」


腕を簡単に取られ嘲笑いを見せるケヴィンにレイシアは強行手段をとった。


腕を掴んでいるケヴィンの手に一撃食らわし、掴んでいた手が緩まったことをいいことに、レイシアの長く細く力強い右足が、ケヴィンの左脇腹を蹴り上げようとした瞬間、いとも容易くレイシアの右足はケヴィンの右手により囚われた。


「凄いな、なんて言う格闘術なんだ?だが、まだまだなってねぇよ。」


ケヴィンが前髪を掻き上げ、笑う。

鋭い白緑の瞳にレイシアを映すと目の端に水色の妖精が見えた。


《その薄汚い手を早くどけた方がいい。死にたくなければな》


鮮やかな青が射殺すようにケヴィンを睨みつける。その形相にケヴィンは及ばず、ただただ水の妖精アーシュを見据えるだけだった。


「悪いな、こっちは仕事なんだ」


そう言ったケヴィンが勢いよくレイシアの腕を引っ張り、自分の胸に引き寄せる。

レイシアは急にひっぱられたせいで足が(もつ)れて、大人しくケヴィンの胸に凭れる形となった。

そんな光景をアーシュが許す筈もなく、塔の周りには水の渦が固められた。まるで、逃がさない。連れて行かせないとでもいうように。


「これは参ったな。でも、俺はこれでも団長を任されてんだよ」


ケヴィンは腰に刺していた長剣を抜き、水の渦に刃を向けた。


「ちょっと、何する気!?アーシュ?」


ケヴィンの腕の中でもがきながら怒りに狂いそうなアーシュを見るレイシアは半ばパニックを起こしている。


(もう、なんでこんな事態に…)


目を瞑り立っていることしか出来ないレイシアは次の瞬間、チッとする舌打ちとカシャンと剣が床に落ちる音がして浮遊した。

目の前のアーシュに気を取られ、油断したケヴィンはリーフの風によって剣だけではなく、レイシアまでもが自分の手から離れたのだ。

レイシアは足をいくらバタつかせても、あるはずの地面が足の先に当たらなくて不安と焦りが込み上げてくる。


「え?え、えぇ!?」

《シアちゃんは渡したくないなぁ~》

「え、リーフ!?」


空中に浮かんでいる自分に驚いている中、語尾を伸ばしたリーフの声が聞こえ、レイシアはリーフの風に包まれていつの間にか窓の外で浮いていると理解した。

外から見たら、窓だけは一時的に水の渦を消しているようで、見える景色は小さい存在ながら、怒りを露わにしている水の妖精の姿。


《リーフ!邪魔しないでくれるかな、僕がこいつを殺すんだから》


殺気をしまっていないアーシュの瞳が鋭くリーフを睨むと、このままでは仲間割れになりうる恐れがあるため、人型に変身したルイスがアーシュを気絶させた。

トスッとした音が聞こえ、リーフはゆらゆらと落ちてくるアーシュを支える。


「ったく…」


ルイスはふぅ…と息を吐いて、ケヴィンの方に眼光を向かせた。負けじとケヴィンはその眼光に目を逸らさない。


「あんたか、さっき邪魔をしてくれたのは。」


苦笑いを貼り付けた顔でルイスを見やると、ルイスは親指を下にして笑って見せた。


「悪かったな、無理やり連れていかれるわけにはいかないんだ」


ケヴィンは炎を纏わり付かせているルイスを見て、すぐに先程レイシアを連れて行こうとした際に手に火を灯し、邪魔した奴だと分かる。

目の前に悠々と立つルイスは燃えるような赤髪に隠れる黄色の双眼をケヴィンに見せる。

黄色の双眼はまるで蛇のような、全身を舐め回すと言ったら言い方が悪いが、ケヴィンの背中を強張らすぐらいの迫力があった。

だが、ケヴィンは冷静だ。例え、敵わなそうな相手に出くわしても、その場で的確な判断が出来る男。

そんな男が緊張感がなくなるようなにへら顔をする。


「なら、無理やりでは無かったらいいと?」


白緑の瞳を向け、ルイスの言葉に疑問を感じての問いかけなのだろう。

確かに、ルイスの先程の言葉は何だったのだろうか『無理やり連れて行かれるわけにはいかない』…なら、無理やりでは無かったらいいと。そういう結論に至ってもおかしくはない。


ルイスは苦笑いを浮かべて、白緑の瞳を見つめる。


「こいつは外に出たことがない。それ以前に出ようとしないインドア派なんだよ。こいつが塔の外に出たいと言えば、俺達は何の見返りもなく手を貸したさ、今のリーフみたいに、あぁやって外へ出すのなんて簡単なんだから。」


そう言い、横目で空中に浮かんでいる自分に慌てふためくレイシアを見て、くすりと笑った。


「どうやったら渡してくれる?」


冷や汗を垂らしながら、じりじりと落ちた剣を拾おうと手を伸ばす。

もう少しで取れそうな位置まで来たところ、勢いある水の水圧でもっと遠くに剣は飛ばされた。

ケヴィンは薄らと笑うアーシュを見て、片眉を引きつらせたがすぐにルイスに目を向ける。


「簡単だ。護衛代わりに俺も連れて行くだけでいい。」

「ちょっと!私はごめんよ!この森から離れるなんて…絶対にあ…」


空中で喚き散らすレイシアをリーフはごめん。とした顔で気絶させた。

リーフの行動に未だ意識がはっきりしないアーシュは起き上がろうとする。さっきよりも激しい殺意の篭った青の瞳を鋭くさせて。


「悪い…」


口早く言ったルイスの言葉を最後にアーシュは床に力無く倒れた。


「交渉は?」


アーシュの倒れる姿を見て、淡々とした声音で聞くルイス。


「…成立だ」


ケヴィンは剣を拾い上げ、レイシアを横抱きにし、地面へと降りた。


「ただいま」


にへらとした笑顔を見せ、黒髪の女性を抱く団長に皆が歓声をあげた。

ロムだけは、今回出番がなく歩いただけだという点で不機嫌になっていたのは顔で分かった。帰って酒でも与えればコロッと機嫌を直すのだからそこまで問題ではない。


こうして、無事に神の送り人(火の妖精ルイス付き)を連れ帰ることに成功したケヴィンはまた名が上がった。


(いささ)か乱暴な手段で行くことを決意したルイスの真意はリーフだけが、秘かに知っていたという…



レイシアが最後に喚いた言葉『ちょっと!私はごめんよ!この森から離れるなんて…絶対にあ…』の最後に続く言葉はありえないです。

分かりにくく申し訳ありません。

リーフは最初からルイスがレイシアと共に行くことを知っていました。

さり気なく援護していたんですよ。

ジェミーは残念ながらオロオロと見守るしかありませんでしたが、次回は少しだけ出番があります。


長々と失礼いたしました。

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