姉の遺した手紙
あたしの手元には、美桜が20歳になったら渡してほしいと、姉が亡くなる前に、あたしに託した手紙がある。それにはすべてが書かれてあった。美桜の20歳の誕生日に家族3人でお祝いした夕食の後、その手紙を美桜に手渡した。美桜の実父の消息や、姉が未婚の母になった理由、それに美桜とあたしたちが家族になった訳も書かれている。その手紙は古い便箋に書かれていて、姉の文字は昔から少し丸くて、可愛いい。由紀子はそんな姉の優しい文字に何となく懐かしさを覚える。
実母の手紙を見せられた美桜はかなり驚いた様子だったが、すぐに冷静さを取り戻して、意外なほどの落ち着きを見せた。
「お母さん、あたしね、何となく分かっていたの。お母さんも、お父さんもほんとうの親じゃないなって…」
美桜はわずかに微笑んで二人を見た。
「えっ!」
「ほんとうか?」
二人が逆に驚かされた。
「なぜ?いつから知ってたんだ?」
由紀子と隆也はお互いを見合ってから美桜に振り向いた。
「うーん…、いつからってことはないんだけど、そうね、やっぱ、高校に入った頃かな…」
由紀子と隆也はまた顔を見合わせて、二人とも同じように首を傾げた。
「ほら、あの頃って、自分の生い立ちとか、両親はどうやって結婚したのかとか、家系とか、祖先のこととか、どんな人がいたんだろうなんて、いろいろ知りたくなる時期でしょ?とくにうちなんかさあ、あたしが産まれる前の話なんか、全然訊いたことなかったしね」
美桜は黙ってしまった二人に微笑み掛けながら続けた。
「だからね、あたし調べたんだよ。そんで、戸籍謄本とか取りにいったの。そしたら役所の人が親切でね、昔のことが知りたければ、原戸籍の謄本を取得したほうがいいよって教えてくれて…」
「そっか…。原戸籍までな。そこまでしてたのか…」
隆也は薄笑いを浮かべて、由紀子に振り向いた。由紀子も頷きながら微笑んだ。
「じゃあ、今更ってとこだな」
「うん、でもよかった。産んでくれたお母さんのことも分かったし。今まで育ててくれたお母さんにも、お父さんにも、ありがとうって思ってるよ」
美桜は少し照れたような顔をした。
《美桜へ 》
あなたがこれを読む頃、私はもうこの世にいません。でも、どうか悲しまないで。あなたはあたしの宝物でした。そして由紀子の宝物でもあります。
美桜、あなたは私の娘です。今まであなたを育ててくれた由紀子は、私の妹です。ですから由紀子はあなたの叔母さんに当たりますが、母として生きてくれています。だから由紀子叔母さんを責めないでください。
それはまさに出生の真実を美桜に伝えるための手紙だったが、それだけではなかった。手紙の後半には姉の予感のようなものが書かれてあった。
《ユッコへ》
あなたは美桜をきっと優しい子に育ててくれていることでしょう。でも、その優しさゆえに傷つくこともあるかもしれません。どうか、美桜を守ってやってください。隆也君にも重ねてお願いします。ユッコならできるし、ユッコにしかできないかもしれないから。
取調室の由紀子は静かに目を閉じてから、まっすぐ石原を見た。
「あたしは姉の願いを守ると決めました。どんなことがあっても、美桜を守ると」
由紀子は一息ついて続けた。
「だからあたしはここに来たんです。美桜を守るために」




