↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/148

第6章 ② 

数年が過ぎた。


鴉樽は今日も賑やかだった。


ヴィクは四歳になっていた。


よく食べる。よく遊ぶ。よく笑う。


そして。


よく歩く。


「ログー。」


朝から。


ログの後ろを付いて歩いていた。


「……何だ。」


「いく。」


「どこへ。」


「おしごと。」


ログは帽子を被る。


煙草を一本。


くわえた。


「遊びじゃねぇぞ。」


ヴィクは大きく頷く。


「うん!」


分かっていない返事だった。


レオが笑う。


「また連れてくのか?」


「勝手に付いてくる。」


「止めろよ。」


「止まらん。」


ヴィクは得意そうだった。


「いく!」


ログはため息をつく。


「好きにしろ。」


「やった!」


ヴィクは飛び跳ねた。


店中が笑う。


主は煙草を吸う。


「見て覚える。」


短い一言。


ログは小さく頷いた。


「そうだな。」


二人は店を出る。


ヴィクは小さな足で。


一生懸命付いていく。


途中。


石につまずいた。


転ぶ。


レオが慌てる。


「ヴィク!」


だが。


ヴィクは泣かない。


自分で立ち上がる。


服についた土を払う。


また歩く。


ログは振り返る。


少しだけ笑った。


「遅い。」


ヴィクは走る。


「まってー!」


その小さな声が。


地下街へ響いた。


遠くから常連が手を振る。


「おっ。」


「親子だ。」


ログは眉をひそめる。


「違う。」


ヴィクは満面の笑みで叫んだ。


「ぱぱー!」


店の中から。


腹を抱えた笑い声が聞こえた。


昼を過ぎた頃だった。


鴉樽の扉が開く。


「戻った」


レオだった。


その後ろには。


白衣の男。


「久しぶりだな。」


ログが帽子を上げる。


「生きてたか。」


白衣は苦笑した。


「何とか。」


ヴィクは白衣を見る。


首を傾げる。


「だれ?」


ミナが笑う。


「覚えてないよね。」


「赤ちゃんだったもん。」


白衣も少し笑った。


「大きくなったな。」


ヴィクは照れ臭そうにミナの後ろへ隠れる。


店の空気は穏やかだった。


主だけは煙草を吸っている。


白衣は主の前へ座った。


「少し。」


「気になる事がある。」


店が静かになる。


白衣はゆっくりと袖をまくった。


腕が見える。


そこには。


薄くなった赤い線があった。


レオが目を細める。


「……消えてる。」


「少しだけ。」


白衣は頷いた。


「黒帳が潰れてからだ。」


「少しずつ。」


「日に日に薄くなっている。」


ログが腕を見る。


「何でだ。」


白衣は首を横へ振る。


「分からない。」


「ただ。」


「時期が一致している。」


主は煙草を一口吸った。


「繋がりが切れた。」


白衣は主を見る。


「……やはり。」


「そう思いますか。」


主は答えない。


煙だけが静かに揺れる。


レオが腕を組む。


「黒帳だけじゃなかった。」


白衣は頷いた。


「黒帳は。」


「道具だった。」


「俺達を縛っていたのは。」


「もっと上だ。」


店の空気が変わる。


ログが帽子を被り直す。


「上か。」


白衣は静かに頷く。


「軍ではない。」


「その一つ下。」


「軍の諜報部隊。」


「黒帳が消えた。」


「だから。」


「向こうも動き始める。」


店が静まり返る。


誰も口を開かない。


主だけが煙草を灰皿へ押し付けた。


「知ってる」


短い一言だった。


白衣は静かに頷く。


「ああ。」


「もう。」


「既に来ている。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。