閑話 まま!?
鴉樽は今日も賑やかだった。
昼下がり。
ヴィクは床へ座って遊んでいる。
木の積み木。
一つ。
二つ。
三つ。
積んでは。
崩す。
積んでは。
崩す。
その様子を。
ミナが嬉しそうに見ていた。
「大きくなったね」
乳母も頷く。
「今日は『ママ』の練習ですよ」
ミナが身を乗り出す。
「ヴィク」
「ま・ま」
ヴィクは首を傾げた。
「……ま」
「そう!」
乳母も笑う。
「ま・ま」
ヴィクは二人を見た。
それから。
くるり。
反対を向く。
尻尾が見えた。
犬だった。
今日も気持ちよさそうに昼寝をしている。
ヴィクはよちよち歩いていく。
ミナが微笑む。
「ほら」
「今度はこっちだよ」
ヴィクは止まらない。
犬の前まで行く。
しゃがむ。
ぎゅっ。
犬へ抱きついた。
「ままぁ!」
店の中が静まり返る。
犬が目を開ける。
「わふ?」
尻尾をぶんぶん振った。
ヴィクは満面の笑みだった。
「ままぁ!」
犬は嬉しそうに顔を舐める。
ぺろっ。
ヴィクは声を上げて笑った。
「きゃはは!」
ミナが固まる。
乳母も固まる。
レオが口を開く。
「……犬?」
ログは犬を見る。
「犬だな」
「そこじゃない!」
レオが叫ぶ。
「何で犬なんだよ!」
主は煙草を一口吸う。
「母親らしい」
「認めるんですか!?」
乳母はその場へ崩れ落ちた。
「私……」
「犬に負けました……」
常連達は腹を抱えて笑う。
「おめでとう」
「昇格したな」
「地下街初」
「犬のお母さん」
犬は何も分かっていない。
ただ。
ヴィクが嬉しそうだから。
嬉しそうに尻尾を振る。
「わふ!」
ヴィクはもう一度抱きついた。
「ままぁ!」
その日から。
地下街では。
犬のことを。
誰ともなく。
「ヴィクのお母さん」
そう呼ぶ者が増えた。
もちろん。
本人だけは。
最後まで意味が分かっていなかった。
「わふ?」




