第5章 ⑧
地下道の奥。
重い扉が一つ。
ログは止まらない。
勢いよく蹴り飛ばした。
轟音が響く。
埃が舞う。
部屋の中央。
一人の男が立っていた。
歳は四十代ほど。
無駄のない体。
腰には一本の剣。
男は静かにログを見た。
「……来たか。」
ログは一歩踏み出す。
「黒帳。」
男は肩を竦めた。
「そう呼ばれているな。」
レオが周囲を見る。
逃げ道は一つ。
奥の通路だけだった。
「もう終わりだ。」
男は小さく笑う。
「そうか?」
ログが踏み込む。
拳を振り抜く。
男は避けない。
腕で受ける。
鈍い音が響いた。
「重い拳だ。」
「だが。」
「真っ直ぐ過ぎる。」
その瞬間。
男の拳が動いた。
ドゴッ!
ログの身体が吹き飛ぶ。
壁へ叩きつけられる。
レオが叫ぶ。
「ログ!」
男は構えを崩さない。
「若いな。」
「力はある。」
「だが経験が足りん。」
ログは立ち上がる。
口元の血を拭う。
帽子を拾い。
深く被り直した。
少しだけ笑う。
「やっと。」
「強いのが出てきた。」
レオが呆れたように叫ぶ。
「笑ってる場合か!」
ログは答えない。
再び踏み込む。
拳と拳がぶつかる。
地下道へ衝撃が響く。
一撃。
また一撃。
互いに一歩も引かない。
男は小さく笑った。
「なるほど。」
「噂通りだ。」
その瞬間だった。
男が後ろへ飛ぶ。
奥の通路へ身を躍らせた。
「逃がすか!」
ログが追う。
レオも続く。
地下道を駆け抜ける。
逃げる男。
追う二人。
やがて。
男の足が止まった。
曲がり角。
煙草の煙が静かに揺れていた。
壁にもたれ。
一人の男が立っている。
主だった。
頭領の表情が変わる。
「……鴉樽。」
主は煙草を一口吸う。
「遅かったな。」
地下道が。
静まり返った。




