第5章 ⑥
第5章⑥ おまけ
鴉樽の扉が勢いよく開いた。
「主ー!」
常連が満面の笑みで入ってくる。
肩には男が一人。
ドサッ。
床へ転がした。
「ご注文二名、お届けしました!」
その直後。
また扉が開く。
「こっちは一名!」
ドサッ。
さらに。
後ろから小柄な男を押し出した。
縄でぐるぐる巻きだった。
「それと!」
「オモチャ付きです!」
店が静まり返る。
レオが頭を抱えた。
「だから何なんだ、その分類は!」
店中に笑いが広がる。
男は涙目だった。
「お、俺は黒帳じゃねぇ!」
「伝令だ!」
主の目が細くなる。
「……伝令。」
男は何度も頷く。
「命令書を運ぶだけなんだ!」
「俺は何も知らねぇ!」
医者が眼鏡を押し上げる。
「案外。」
「当たりかもしれんな。」
常連達が顔を見合わせた。
「え?」
「当たりだったの?」
「知らん。」
「何となく捕まえた。」
レオが思わず叫ぶ。
「何となくで伝令拾うな!」
また笑いが起きた。
主は男を見る。
「どこへ運んだ。」
男は震える声で答える。
「こ、この倉庫。」
主は紙を広げる。
一本。
線を引く。
「その次は。」
「東区の隠れ家。」
また一本。
「その次。」
「西区。」
さらに一本。
「最後は。」
男は首を振る。
「知らねぇ!」
「俺はそこまでだ!」
主は紙を見つめた。
煙草の煙だけが静かに揺れる。
店の中が静まり返った。
やがて。
主が小さく呟く。
「なるほど。」
レオが紙を覗き込む。
「何が分かった。」
主は一本の線を指でなぞる。
「逆だ。」
「……え?」
「命令は最後から流れてくる。」
「伝令は逆へ戻る。」
レオは紙を見つめたまま固まる。
「……そうか。」
「これは命令が流れた順じゃない。」
「命令を出した奴へ戻る道か。」
主は短く答えた。
「ああ。」
ログも紙を見る。
主は紙を軽く叩いた。
「この順番の。」
「逆から行け。」
ログは頷く。
「分かった。」
帽子を深く被る。
「行ってくる。」
主は何も言わない。
煙草を一口吸う。
それだけで十分だった。
ログは踵を返す。
レオも慌てて後を追う。
「待て!」
「一人で行くな!」
「俺も行く!」
二人が店を出る。
扉が閉まる。
静かになった店で。
常連の一人がぽつりと言った。
「……ところで。」
「酒代勝負。」
「まだ有効か?」
古参が吹き出す。
「当たり前だ。」
店中に笑い声が響いた。




