第5章 ⑤
第5章⑤ 反撃
男の悲鳴が消える。
静かな店。
主は新しい煙草へ火をつけた。
一口吸う。
そして。
「黒帳だ」
それだけだった。
店の空気が止まる。
数秒。
静寂。
その後だった。
一人の常連が立ち上がる。
「久しぶりだな。」
隣の男が笑う。
「負けた奴。」
「今日の酒代な。」
「あ?」
「望むところだ。」
「あのな。」
レオが口を挟む。
「これから喧嘩だぞ?」
常連達は顔を見合わせる。
そして。
一斉に笑った。
「だからだろ。」
「酒が掛かってんだ。」
「今回は負けねぇ。」
「東区は俺が貰う!」
「西区は譲れ!」
「抜け駆けすんな!」
店が一気に騒がしくなる。
ログが帽子を被り直した。
「何やってんだ。」
古参が肩を竦める。
「いつものことだ。」
「酒代くらい賭けねぇと張り合いがねぇ。」
レオは頭を抱えた。
「命懸けだぞ?」
「酒も命懸けだ。」
「意味が分からん!」
笑い声が響く。
その時だった。
店の奥で座ったままだった古参の一人が立ち上がる。
「……騒ぐな。」
一言。
店が静まる。
「気付かれる。」
常連達は咳払いをした。
「おっと。」
「悪ぃ悪ぃ。」
「じゃあ行くか。」
「おう。」
誰も慌てない。
武器を手に取る。
煙草を揉み消す。
それぞれ違う出口へ歩き始めた。
レオが呟く。
「今ので伝わるのか。」
ログは短く答えた。
「ああ。」
「地下街中に伝わる。」
店の扉が一つ。
また一つ。
静かに開いていく。
常連も。
古参も。
誰も振り返らない。
主だけは。
煙草を吸ったままだった。
「ログ。」
「何だ。」
「好きに暴れろ。」
短い一言。
ログは少し笑う。
「分かった。」
帽子を深く被る。
レオがため息をついた。
「嫌な予感しかしねぇ……。」
その時。
勢いよく扉が開いた。
「主ー!」
常連が笑顔で入ってくる。
肩には黒帳の男。
ドサッ。
床へ転がした。
「ご注文一名、お届けしました!」
店が静まり返る。
レオが叫ぶ。
「早いわ!!」
その直後。
また扉が開く。
「こっちは二名!」
ドサッ。
「サービスしときました!」
「サービスするな!」
ログは男達を見下ろく。
「……もう始まってたのか。」
古参が笑う。
「主が動いたからな。」
鴉樽の反撃は。
もう始まっていた。




