第5章 ④
第5章④ 尋問
幹部の男は。
椅子へ縛り付けられていた。
目を覚ます。
薄暗い店。
酒の匂い。
煙草の煙。
目の前には。
主が座っていた。
「……起きたか」
男は辺りを見回す。
逃げ道はない。
入口には常連達。
壁際にはログ。
レオも腕を組んで立っていた。
男は鼻で笑う。
「聞きたいことでもあるのか」
主は煙草を一口吸う。
「ああ」
「黒帳だ」
男は肩を竦めた。
「言うと思うか」
主は頷く。
「思わん」
男が少し眉を動かす。
「じゃあ何故聞く」
「確認だ」
短い沈黙。
男は目を細めた。
「……何を知ってる」
主は答えない。
代わりに聞く。
「女と子供を集めていたな」
「ああ」
「何のためだ」
「知らねぇ」
ログが眉をひそめる。
「またそれか」
男は吐き捨てる。
「本当に知らねぇんだ」
「俺達は集めるだけだ」
「名簿が来る」
「書いてある奴を連れて行く」
レオが聞く。
「誰が持って来る」
「知らねぇ」
「顔も見えねぇ」
「箱に入ってる」
「いつの間にか置いてある」
店が静まる。
主だけが煙草を吸っていた。
「黒帳の上は」
男は笑う。
「知らねぇ」
「俺達は会ったこともねぇ」
「じゃあ誰の命令で動く」
「命令書だ」
「逆らえば消える」
「従えば生きる」
「それだけだ」
主は静かに頷いた。
「そうか」
男は笑う。
「何も掴めなかったな」
その言葉に。
主は初めて男を見た。
「十分だ」
男の笑みが止まる。
「……何?」
「お前が知らんことが分かった」
煙草を灰皿へ押し付ける。
「下っ端だ」
医者が小さく頷く。
「なるほど」
「ここまでだな」
主は立ち上がる。
「流せ」
男の顔色が変わる。
「ま、待て!」
「俺は全部話した!」
主は振り返らない。
「知ってる」
「だから終わりだ」
常連が男の椅子を持ち上げた。
「へい」
「承知しました」
男の悲鳴が。
静かな鴉樽へ響いた。




