第4章 ②
第4章② 誘拐
朝から。
ログは走っていた。
「ログ!」
西区。
終わる。
「ログ!」
市場。
終わる。
「ログ!」
東区。
また走る。
息をつく暇もない。
その時だった。
「助けて!」
女の悲鳴が響く。
ログは振り返る。
細い路地。
黒い外套の男が。
若い女の腕を掴んでいた。
「離せ!」
ログは駆け出す。
男も気付く。
舌打ちした。
女を突き飛ばし。
そのまま路地の奥へ走る。
「待て!」
追う。
だが。
曲がり角を一つ抜けた時には。
もう姿は消えていた。
「くそ……!」
拳を壁へ叩き付ける。
後ろから女が駆け寄ってきた。
「ありがとうございます……」
腕には赤く指の跡が残っていた。
「顔は見たか」
女は首を振る。
「帽子を深く被ってて……」
「地下街の人じゃありません」
ログは奥歯を噛む。
その時だった。
また別の住人が走ってくる。
「ログ!」
「北区だ!」
「今度は連れて行かれた!」
ログの顔色が変わる。
「何だと」
走る。
全力で。
だが。
間に合わなかった。
現場には。
泣き崩れる家族だけが残っていた。
「娘が……」
「連れて行かれた……」
ログは立ち尽くす。
遅かった。
ほんの少し。
それだけだった。
地下街のあちこちから。
怒号が響く。
「見張りを増やせ!」
「若い女を一人で歩かせるな!」
「子供もだ!」
地下街は。
もう噂だけでは済まなくなっていた。
ログは帽子を深く被り直す。
拳を強く握る。
「……次は」
「絶対に間に合わせる」
その決意とは裏腹に。
地下街のどこかで。
また誰かの悲鳴が上がった。




