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第4章 ①

第4章① 噂


その頃。


地下街では、妙な噂が流れ始めていた。


「聞いたか?」


「西区で人さらいが出たらしい」


「違う」


「借金取りだ」


「いや、地上の連中だ」


噂は人から人へ広がる。


話すたびに形を変え。


いつしか地下街中を駆け巡っていた。


その結果。


揉め事が増えた。


「お前、今笑っただろ!」


「笑ってねぇ!」


「嘘つけ!」


「ログ!」


朝から呼び声が飛ぶ。


ログは駆け寄り、二人の間へ割って入った。


「やめろ」


「でもよ!」


「やめろ」


短く言う。


それだけで二人は黙った。


「……悪い」


喧嘩は収まる。


だが。


少し歩けば。


「ログ!」


また別の声。


市場だった。


今度は荷車同士がぶつかり、怒鳴り合いになっている。


仲裁する。


終わる。


「ログ!」


今度は水路。


「ログ!」


酒場。


「ログ!」


倉庫。


地下街中を走り回る。


ようやく一息ついた頃には、もう夕方だった。


ログは大きく息を吐く。


「今日は多いな」


近くにいた常連が苦笑する。


「みんな落ち着かねぇんだ」


「噂だけが先に歩いてる」


「誰も本当のことを知らねぇからな」


ログは黙って頷く。


その時だった。


一人の住人が駆け込んでくる。


「ログ!」


息を切らしながら叫ぶ。


「西区だ!」


「若い女が攫われそうになった!」


ログの表情が変わる。


「……何だと」


帽子を被り直す。


そして。


再び走り出した。

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