第2章 ➂
第2章③ 洗礼
翌日。
乳母探しは続いていた。
ログも。
地下街を走る。
昼過ぎ。
鴉樽へ戻る。
扉を開ける。
「戻った」
ミナが顔を上げる。
「おかえり」
主はいつもの椅子に座っていた。
腕の中にはヴィク。
今日も眠そうだった。
「抱いてみるか」
主がヴィクを差し出す。
「何でだ」
「慣れろ」
「嫌だ」
そう言いながら。
ログは受け取った。
一拍。
「おぎゃああああ!」
「またか」
ログは顔をしかめる。
ミナが受け取る。
「よしよし」
「大丈夫」
泣き止まない。
「主」
ミナが差し出す。
「はい」
「何で俺だ」
「いいから」
主は渋々受け取る。
ヴィクはすぐに静かになった。
「……」
「……」
ログがぼそりと呟く。
「納得いかんな」
その時だった。
ヴィクが。
主の腕の中でもぞもぞ動く。
赤い顔。
小さく力む。
医者がちらりと見る。
「来るぞ」
「何が」
主が古い布へ手を掛ける。
「替える」
ゆっくりと布を外した。
その瞬間だった。
「うわっ!」
ログが思わず顔を背ける。
「直撃した!」
主は動かない。
顔から。
一筋。
ぽたり。
何かが滴り落ちた。
「……」
部屋が静まり返る。
ミナが肩を震わせた。
「ぶふっ」
「笑うな」
「無理」
とうとう吹き出す。
医者は淡々と言った。
「男児にはよくあることだ」
「よくあることで済ますな」
主は無言で顔を拭く。
ヴィクは満足そうな顔をしていた。
ログは笑いを堪えながら呟く。
「……先制攻撃、成功したな」
主がゆっくり顔を向ける。
「殴るぞ」
部屋中が笑いに包まれた。




