第2章 ②
第2章② 寝不足
朝から呼ばれる。
「ログ!」
荷物を運ぶ。
終わる。
「ログ!」
市場へ走る。
終わる。
「ログ!」
喧嘩を止める。
終わる。
「ログ!」
水路。
「ログ!」
酒場。
「ログ!」
倉庫。
地下街中を走り回る。
昼だった。
まだ終わらない。
「主は?」
「寝てる。」
「じゃあログ!」
その一言で。
また走る。
気付けば。
夕方だった。
やっと。
鴉樽へ戻る。
扉を開ける。
ログの足が止まった。
店の中が。
静かだった。
いつもの喧騒がない。
「……」
嫌な予感がした。
「主」
返事がない。
「主!」
奥から声がした。
「静かにしろ」
小さく。
囁くような声だった。
ログは眉を寄せる。
そっと奥を覗く。
そこには。
主がいた。
赤ん坊を抱いたまま。
椅子にもたれ。
眠っていた。
ヴィクも。
主の腕の中で眠っている。
二人とも。
同じように穏やかな寝顔だった。
ログは立ち尽くす。
「……」
しばらく。
動けなかった。
ミナが後ろから顔を出す。
小声で言う。
「三時間前から」
「ずっとあのまま」
「一度も起きてないの」
ログも声を潜める。
「起こすか?」
「駄目」
ミナは首を振る。
「やっと寝たんだから」
「どっちが」
「両方」
その時。
主が薄目を開けた。
「……うるさい」
ログは呆れたように笑う。
「起きてるじゃないか」
「起きてない」
「目、開いてるぞ」
「気のせいだ」
赤ん坊が。
もぞりと動く。
すると。
主の腕も。
自然と揺れた。
あやすように。
無意識に。
ヴィクは安心したように身を寄せる。
再び眠った。
ログは黙って見つめる。
何も言えなかった。
ミナが小さく笑う。
「板についてきたわね」
主は目を閉じたまま答える。
「知らん」
静かな時間が流れる。
ログは帽子を脱ぎ。
椅子へ腰を下ろした。
「今日一日で」
「乳母を頼めそうな人」
「四人見つけた」
主が薄目を開ける。
「多いな」
「みんな協力的だった」
「街のガキだからな」
「誰かが育てる」
ログは静かに頷く。
「明日、会わせるか」
主はヴィクを見下ろす。
小さな寝顔。
しばらく見つめ。
ぽつりと言う。
「……明日でいい」
「今日はもう」
「動かすな」
その一言だけだった。
ログは何も言わず。
立ち上がる。
そっと扉を閉めた。
静かな夜は。
まだ終わりそうになかった。




