表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ログ外伝  作者: T.M
7/26

第1章 今日は勝つ!⑦

第1章 ⑦


《鴉樽》へ戻る頃には、地下街の夜はすっかり深くなっていた。


酒場の灯りだけが、 湿った通路へ橙色を落としている。


扉を開けた瞬間。


「おお、生きてた」


「若造戻ったぞ!」


「今度は何やらかした!」


笑い声が飛ぶ。


ログは顔をしかめた。


「うるせぇ……」


脇腹が痛い。


さっき殴られた場所が熱を持っていた。


主は何事も無かったみたいに席へ戻る。


ミナは入口で止まったまま動かない。


酒場の空気を見ていた。


酔っ払い。


怒鳴り声。


煙草草。


知らない大人達。


六歳の子供には、 安心出来る場所じゃない。


ログが振り返る。


「おい」


ミナは睨む。


「……何」


「突っ立ってると踏まれるぞ」


「踏まれない」


「いや普通に踏まれる」


その時。


酔っ払いが振り向きざま、 本当にミナへぶつかりそうになる。


ログが反射で腕を引いた。


「危ねぇって!」


ミナは少し黙る。


酒場では誰かが笑っていた。


「ガキ連れてきやがった!」


「お前の隠し子か!」


「殺すぞ」


ログが即答する。


酒場が爆笑した。


主は煙草を咥えたまま、 面倒臭そうに言う。


「おい店主」


「んー?」


「奥空けろ」


店主がミナをちらっと見る。


「あぁ、例の」


それだけだった。


地下街では、 余計な事を聞かない。


ミナはまだ入口から動かない。


ログは溜息を吐いた。


「……来いよ」


「嫌」


「何でだよ」


「胡散臭い」


「お前なぁ……」


主が酒を飲みながらぼそりと言う。


「疑うのは正しい」


ミナがそちらを見る。


主は視線も寄越さない。


「地下街で信用なんかするな」


静かな声だった。


酒場の騒ぎの中なのに、 妙に耳へ残る。


「でも」


主は煙を吐く。


「今日は死ぬな」


ミナは少しだけ黙った。


やがて、 ゆっくり《鴉樽》へ入る。


その横で、 ログが小さく笑った。


「頑固だな、お前」


「そっちが変」


「傷付くなぁ」


「事実」


ログが顔をしかめる。


酒場がまた笑った。


その時だった。


主が酒杯を置く。


「おい若造」


ログが振り返る。


「……あ?」


主は面倒臭そうに煙草を咥え直した。


「勝負しろ」


酒場が一瞬静まり、 次の瞬間、一気に湧いた。


「始まった!!」


「またやるのか!」


「今日は何秒だ!」


ログは一瞬だけ主を見る。


主は何も言わない。


でも、 その目で分かった。


“芝居だ”。


ログは小さく舌打ちした。


「……横暴過ぎんだろ」


それでも、 口元だけは笑う。


「まぁいい」


外套を翻す。


「今日は勝つ」


「毎回言ってんな」


酒場が笑う。


ミナだけが空気を読めず、 不安そうに二人を見ていた。


地下街の主が立ち上がる。


その瞬間。


空気が変わった。


ログも分かった。


今日はいつもと違う。


「ちょ――」


ドゴンッ!!


拳が腹へめり込む。


ログの身体が椅子ごと吹き飛んだ。


机が割れる。


酒瓶が転がる。


酒場がどよめいた。


「おい!?」


「やり過ぎだろ!」


ログは床へ叩き付けられ、 息を詰まらせる。


「っ……が……!」


立ち上がろうとした瞬間、 主の蹴りが飛ぶ。


また吹き飛ぶ。


今度は壁へ激突した。


ミナが息を呑む。


地下街の古株達だけが、 妙に静かだった。


主は煙草を咥え直し、 倒れたログを見下ろす。


「一週間じゃ足りんな」


ログが咳き込みながら睨む。


「……は?」


「一年下働きだ」


酒場大爆笑。


「長ぇ!!」


「終わったな若造!」


「一生雑用してろ!」


ログは床で顔をしかめた。


「理不尽だろ……!」


主は鼻を鳴らす。


「口が軽ぃ」


「聞こえたんだよ!!」


「あと弱ぇ」


「関係ある!?」


笑い声が響く。


いつもの《鴉樽》だった。


誰が見ても。


でも、 古株達だけは何も聞かなかった。


若造が潰された。


だからしばらく地下で働く。


それだけだ。


地下街では、 それ以上を聞かない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ