第1章 今日は勝つ!➅
第1章 ➅
地下街の通路を、ログとミナは全力で駆けた。
石畳。
水路。
狭い階段。
背後から怒声が追ってくる。
「そっちだ!」
「逃がすな!!」
ログは舌打ちした。
「クソ、数多ぇな……!」
ミナは小さいのに速かった。
地下街の道を身体で覚えている走り方だった。
だが、 相手も地下街の人間だ。
距離が縮まる。
「右!」
ミナが叫ぶ。
ログは反射で角を曲がった。
直後。
後ろの壁へナイフが突き刺さる。
「うおっ!?」
「止まるな!!」
今度はミナがログの手を引く。
ログは少し目を丸くした。
「お前、慣れてんな……!」
「地下街だから!」
その返答が妙に正しかった。
二人は細い階段を駆け下りる。
水路脇。
湿った空気。
暗いガス灯。
背後の足音が近い。
ログは走りながら周囲を見る。
逃げ道。
隠れ場所。
追手の位置。
今までなら、 真正面から突っ込んでいた。
でも今は違う。
ミナが居る。
ログは小さく舌打ちした。
「……面倒臭ぇ!」
「何!?」
「お前連れてると走りづれぇ!!」
「置いてけば!?」
「後で主に殺されるだろうが!!」
ミナが一瞬だけ吹き出した。
その時。
前方の通路に影が立つ。
男。
黒い外套。
搬入口で見た顔だった。
ミナの顔が青ざめる。
「っ……!」
男が低く言う。
「見つけた」
逃げ場が塞がれる。
背後からも足音。
挟まれた。
ログはミナを後ろへ押した。
「下がってろ」
「でも――」
「いいから」
ログは煙草を捨てる。
男が鼻で笑った。
「ガキ庇うのか」
「別に」
ログは口元を歪める。
「気に入らねぇだけだ」
次の瞬間。
男が踏み込む。
速い。
ログも反射で動く。
拳。
衝撃。
狭い通路へ鈍い音が響く。
ログは壁へ叩き付けられた。
「っぐ……!」
重い。
今まで酒場でやってた喧嘩と違う。
“殺す側”の動きだった。
男が再び踏み込む。
ミナの顔が強張る。
その瞬間。
――ドゴンッ!!
横から飛んできた酒瓶が男の頭へ直撃した。
男がよろめく。
通路の奥。
逆光の中に、 大きな影が立っていた。
低い声。
聞き慣れた声。
「うちの若造に何してやがる」
地下街の主だった。




