第1章 今日は勝つ!⑤
第1章 ⑤
ミナはしばらく動かなかった。
割れた瓶を握ったまま、 じっとログを見る。
地下街の子供特有の目だった。
人を見る目。
値踏みする目。
信用するかじゃない。
“危険かどうか”を測る目。
ログは溜息を吐いた。
「……何だその顔」
「嘘つきの顔してる」
「傷付くなぁ……」
「あと弱そう」
「お前さっきから失礼だな!?」
ミナは瓶を下ろさない。
でも、 逃げもしなかった。
ログは頭を掻く。
「とにかく来い。 主が呼んでる」
「主?」
「あー……《鴉樽》の」
その瞬間、 ミナの目が少し変わる。
知っている名前だった。
地下街で《鴉樽》を知らない子供はいない。
そして、 地下街の主を知らない人間も。
ミナは小さく眉を寄せた。
「……何で」
「お前放っとくと死ぬからだろ」
「私、何もしてない」
「見ただろ」
ミナは黙る。
ログも少し黙った。
やがて低く言う。
「地下街じゃな。 “見た”だけで死ぬ事あんだよ」
その言葉だけは、 妙に軽口が無かった。
水路の音が響く。
遠くで誰かが怒鳴っている。
地下街の日常。
でも、 ここだけ空気が冷たかった。
ミナはゆっくり瓶を下ろす。
それでもまだ警戒は消えない。
「……本当に助けるの」
「知らん」
「は?」
「俺も巻き込まれただけだ」
ログは面倒臭そうに煙草を咥え直した。
「でもまぁ」
煙を吐く。
「ガキ見捨てるほど腐っちゃいねぇよ」
ミナはじっとログを見る。
やがて、 小さく口を開いた。
「……変なの」
「お互い様だ」
その時だった。
――足音。
ログの顔から軽口が消える。
細路地の向こう。
複数。
ゆっくり近付いて来る。
ミナの顔が強張る。
「……来た」
ログは舌打ちした。
「チッ」
足音は止まらない。
低い声。
男達の気配。
ミナが一歩下がる。
ログは前へ出た。
「走れるか」
「え」
「走れっつってんだよ」
次の瞬間。
「いたぞ!!」
怒声が響いた。
ログはミナの腕を掴む。
「行くぞ!!」
地下街の夜へ、 二人は駆け出した。




