第1章 今日は勝つ!④
第1章 ④
地下街の細路地は、夜になると余計に迷路みたいだった。
湿った石畳。
頭上を走る古い配管。
狭い階段。
水路から流れてくる冷たい空気。
ログは苛立った顔で通路を歩く。
「……何で俺がガキ探しなんだよ」
返事は無い。
当然だった。
地下街の人間は、 余計な事に関わらない。
だから誰も、 六歳のガキが消えた程度では騒がない。
ログは煙草草を咥え直した。
「ったく……」
その時。
――カタン。
小さな音。
ログの足が止まる。
細い横路地。
壊れた木箱。
積まれた布袋。
その奥。
何かが動いた。
ログはゆっくり顔を向ける。
「……居んのか」
沈黙。
返事は無い。
ログは溜息を吐いた。
「別に取って食わねぇよ」
その瞬間。
ビュッ!!
石が飛んだ。
「っ!?」
ログの額へ直撃する。
「痛っ!?」
奥から小さな影が飛び出した。
逃げる。
速い。
「おい待て!!」
ログも反射で追う。
細路地。
水路脇。
狭い階段。
ガキのくせに、 妙に地下街の道に慣れていた。
「ちょ、待っ……!」
ログが角を曲がった瞬間。
また石が飛ぶ。
「ってぇ!?」
「来るな!!」
初めて声がした。
子供の声。
でも怯えているというより、 威嚇だった。
ログは顔をしかめる。
「助けに来たんだけど!?」
「嘘!!」
「傷付くなぁお前!」
その隙にまた逃げる。
ログは舌打ちした。
「クソ、速ぇな……!」
細い通路を抜け、 少女が水路脇へ飛び降りる。
そこでようやく止まった。
小さい。
痩せている。
ぼさぼさの髪。
鋭い目。
六歳にしては、 あまりにも警戒心が強かった。
少女――ミナは、 割れた瓶の先をログへ向ける。
「来るな」
ログは肩で息をしながら立ち止まった。
「だから助けに来たって」
「嘘」
「地下街のガキ、疑い深過ぎんだろ……」
ミナは瓶を下ろさない。
暗い目だった。
子供の目じゃない。
ログは少し黙り、 頭を掻いた。
「……お前、搬入口に居ただろ」
ミナの肩が僅かに揺れる。
図星だった。
「見たんだな」
沈黙。
水路の音だけが響く。
やがてミナが小さく言った。
「……あいつら、人殺した」
ログの顔から、 少しだけ軽口が消えた。
ミナは瓶を握ったまま続ける。
「見つかったら、私も殺される」
地下街の冷たい空気が流れる。
ログはしばらく黙っていた。
やがて、 小さく舌打ちする。
「……クソ」
そしてミナへ手を伸ばした。
「来い」
ミナは動かない。
「嫌」
「嫌じゃねぇ」
「信用しない」
「俺もお前みたいなガキ連れて歩きたくねぇよ」
「じゃあ放っといて」
ログは眉を寄せた。
そして、 面倒臭そうに言う。
「放っとくと死ぬだろ、お前」
ミナは初めて、 少しだけ黙った。




