第1章 ④
第1章 地下街育児戦争、開幕④
「替えろ」
医者の一言で。
部屋が静まり返った。
主が聞く。
「何を」
「おしめだ」
主。
「知らん」
ログ。
「知らんな」
ミナが頭を抱えた。
「知らんじゃない!」
「誰か替えて!」
全員が目を逸らす。
「主」
「断る」
「ログ」
「断る」
「医者!」
「医者だ」
「そうだった!」
赤ん坊が足をばたつかせる。
「おぎゃあ!」
「早く!」
ミナが布を掴む。
手が止まる。
「……どうやるの?」
部屋がまた静かになる。
主が聞く。
「知らんのか」
「知らないわよ!」
「私も初めてなんだから!」
ログが布を持ち上げる。
「巻けばいいんじゃないか」
「雑!」
医者がため息を吐く。
「貸せ」
赤ん坊を覗き込む。
「まず汚れを拭く」
「それから新しい布だ」
「強く締めるな」
「苦しい」
全員が真剣な顔で頷いた。
「なるほど」
「勉強になる」
「覚えた」
医者が顔を上げる。
「じゃあ、やれ」
「え?」
「え?」
「え?」
医者は一歩下がった。
「教えた」
「次はお前達だ」
主がログを見る。
ログが主を見る。
二人とも動かない。
ミナが叫んだ。
「何でそこで見つめ合うのよ!」
「手伝って!」
主は渋々赤ん坊を支える。
ログが布を持つ。
ミナが慌てて拭く。
三人がかりだった。
しばらくして。
「……終わった」
全員が大きく息を吐く。
赤ん坊は三人を見上げる。
そして。
「……あう」
小さく笑った。
部屋が静かになる。
ログがぼそりと呟く。
「笑ったな」
主も赤ん坊を見る。
「……らしいな」
その時だった。
勢いよく扉が開く。
「見つけたぞ!」
地下街の住人が息を切らして飛び込んでくる。
「乳母さん連れて来た!」
部屋中の視線が、一斉に入口へ向いた。




