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序章 ➂
鴉樽の扉が開く。
ログが女を抱えて入る。
「主」
奥から主が出てくる。
「何だ」
「東側水路だ」
「行き倒れ」
主は女を見る。
泥。
血。
傷。
そして。
胸に抱かれた赤ん坊。
主の眉が僅かに動く。
「……どこから来た」
ログは首を振る。
「分からん」
「東側水路で倒れてた」
「誰かに追われてたみたいだ」
主は傷を見下ろす。
新しい傷。
古い傷。
逃げ続けてきた跡だった。
「中へ運べ」
ログは頷く。
寝台へ女を寝かせる。
女の手は。
赤ん坊を強く抱き締めたままだった。
赤ん坊は腕の中。
離そうとしない。
いや。
離せないのだろう。
そこへ。
「何の騒ぎ?」
ミナが奥から顔を出す。
寝台を見る。
女を見る。
赤ん坊を見る。
目を丸くした。
「えっ……赤ちゃん?」
部屋の空気が静まり返る。
誰も、その先を口にしなかった。




