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ヴィク編 序章②
行き倒れ
ログは東側水路へ走る。
人だかり。
「どけ」
住人が道を開ける。
そこにいたのは、痩せた女。
服は泥と血で汚れている。
腕や足には新しい傷。
逃げ続けてきたのが分かる。
そして、その胸に抱かれた赤ん坊。
眠っているのか。
気を失っているのか。
泣いていない。
ログはしゃがみ込む。
息はある。
女も、赤ん坊も。
だが女は、何かに怯えるように何度も後ろを振り返る。
地下へ続く通路。
後ろを振り返る。
何度も。
誰かを探すように。
いや。
誰かを恐れるように。
言葉にならない声。
震える唇。
抱き締める腕だけは、最後まで離さない。
ログは短く言う。
「運ぶぞ」
野次馬がざわつく。
「どこへ?」
「鴉樽だ」
誰も反対しない。
地下街で判断に迷った時、最後は主のところへ持っていく。
迷っている時間はない。
主なら、何とかする。
それが暗黙の了解だった。
ログは赤ん坊を見下ろす。
小さい。
静かだ。
この時はまだ知らなかった。
その小さな命が、地下街の日常を大きく変えていくことを。




