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閑話 地下街の噂

閑話 地下街の噂


地下街では、噂が広がるのは早かった。


特に酒が入ると、話は盛られる。


《鴉樽》も例外ではない。


その夜も、酒場は騒がしかった。


「地下深部吹っ飛んだらしいな」


「赤灯り消えたってよ」


「最近ガキ攫い無いのそれか?」


常連達が好き勝手言っている。


酒瓶。


笑い声。


煙草の匂い。


いつもの地下街だった。


そして奥席。


地下街の主は、面倒臭そうに酒を飲んでいる。


その横。


ログは机へ突っ伏していた。


「だから俺じゃねぇって……」


「若造また何かやったのか」


「冤罪だ!!」


酒場大爆笑。


「その傷で言うな!!」


「役人まで連れて帰って来やがって!」


レオは机へ額を打ち付けた。


「帰りたい……」


「もう地下街に居る時点で手遅れだろ」


「嫌な事言うな!!」


また笑いが起きる。


白衣は酒場隅で小さくなっていた。


地下街の空気へ、全く馴染めていない。


しかも周囲から妙に警戒されている。


白衣本人も居心地が悪そうだった。


ログが酒を飲みながら言う。


「お前、王都帰らねぇの」


白衣は少し黙った。


「……戻っても処分される」


酒場が少し静かになる。


レオが顔を上げた。


「切るの早過ぎないか王都」


主が煙を吐く。


「上はそんなもんだ」


短い。


だが妙に重かった。


ログは少し眉を寄せる。


だがすぐ、酒を煽った。


「じゃあ地下街居ればいいだろ」


全員止まる。


白衣ですら固まった。


レオがゆっくり振り返る。


「……お前今」


ログ。


「ん?」


「何でもないみたいに言ったな?」


「だって行く場所無ぇんだろ」


酒場が静まる。


地下街の人間は、そういう言葉に弱かった。


主だけが煙を吐く。


「若造」


「何だ」


「軽い」


「アンタに言われたくねぇ」


酒場大爆笑。


空気が少し戻る。


その時だった。


ミシ……


天井から砂が落ちる。


酒場沈黙。


全員、ゆっくりログを見る。


ログ。


「だから何でだよ!!」


主。


「説得力無ぇな」


レオ。


「半分はお前だからな!!」


「半分ならセーフだろ!!」


地下街は、その夜も騒がしかった。


だが。


誰も口にはしなかった。


地下深部から、赤い灯りが消えていた事を。


そして。


酒場奥で煙草を咥える主だけが、時々静かに地下側を見ていた事を。

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