閑話 地下街雑用
一年下働きになって数日後。
ログは本当に雑用をやらされていた。
酒樽運び。
皿洗い。
床掃除。
見張り。
地下街の主は容赦が無い。
「おい若造」
「……何だよ」
「裏通路の樽運べ」
「さっきも運んだぞ」
「落とした」
「一回だけだろ!?」
酒場が笑う。
ログは顔をしかめながら樽を抱えた。
脇腹がまだ痛む。
ミナが後ろから言う。
「無理してる」
「してねぇ」
その直後。
ログ、 普通に樽を壁へぶつける。
「っだぁ!?」
「してる」
「うるせぇ……!」
地下街の常連達が腹抱えて笑う。
「若造ほんと雑用向いてねぇ!」
「格好つけるからだ!」
ログは煙草を咥え直し、 不満そうに舌打ちした。
「……俺もっとこう、危ねぇ仕事とか向いてると思うんだけど」
その瞬間。
奥の席から主の声。
「向いてねぇよ」
即答だった。
酒場爆笑。
ログが顔をしかめる。
「何でだよ」
主は酒を飲みながら言う。
「お前すぐ顔に出る」
「出てねぇ」
「今も出てる」
また笑いが起きる。
ログは不貞腐れたまま樽を運ぶ。
ミナはその後ろをついて歩いていた。
小さい手で空の皿を抱えている。
《鴉樽》の人間達は、 いつの間にかそれを普通に受け入れていた。
「おいガキ」
常連の一人がミナへ焼き菓子を投げる。
ミナは反射で避けた。
床へ落ちる焼き菓子。
沈黙。
「警戒心強ぇな!?」
酒場大爆笑。
ミナは床の菓子を見る。
ログが肩を竦めた。
「地下街育ちだからな」
ミナは少し迷い、 結局拾う。
その様子を見て、 主が煙を吐きながらぼそりと言った。
「……まぁ、まだ死にたくねぇ顔してる」
ログは樽を置きながら聞き返す。
「何だよそれ」
主は答えない。
ただ、 煙草の火だけが暗く揺れていた。
地下街では、 生きる気を無くした人間から先に消える。
《鴉樽》の大人達は、 それを知っていた。




