閑話 情報通っぽい男
《鴉樽》で暮らし始めて数週間。
ログは地下街の仕事を少しずつ覚えていた。
荷運び。
見張り。
伝言。
雑用。
そして――
格好つけ。
「おい若造」
「ん?」
「西水路、最近妙だぞ」
「へぇ」
ログは酒を飲みながら適当に返す。
言ったのはミナだった。
二階へ薬草を運びながら、 ついでみたいに口にしただけ。
「見慣れない連中増えてる」
「ふーん」
「あと、灰靴の運び屋が最近《鉄杭》側行ってる」
「詳しいなお前」
「聞こえた」
地下街の子供は、 放っておいても情報が耳へ入る。
特にミナは、 人の話をよく覚えていた。
ログよりずっと。
その日の夜。
《鴉樽》はいつも通り騒がしかった。
地下街の連中が酒を飲み、 誰かが喧嘩し、 誰かが笑っている。
その奥で。
ログは妙に渋い顔をしていた。
煙草。
片肘。
低い声。
かなり“分かってる男”を演出している。
本人だけは。
常連が笑う。
「何だその顔」
ログは煙を吐いた。
「……最近、西水路が妙でな」
近くの連中が少し見る。
ログ、 ちょっと気分が良くなる。
「灰靴の運び屋も動いてる」
「へぇ?」
「《鉄杭》側と繋がってるかもしれねぇ」
かなりそれっぽかった。
本人だけは。
常連の一人が感心したように言う。
「お前、そんな話どこで拾った」
ログは口元を歪める。
「まぁ、色々ある」
かなり得意げだった。
その時。
後ろから小さい声。
「それ私が言った」
沈黙。
酒場が止まる。
ログが固まる。
ミナは薬草籠を抱えたまま、 じっとログを見ていた。
「昼に」
常連達の顔が崩れる。
「ぶはっ!!」
「若造お前ぇ!!」
「横流しじゃねぇか!!」
ログが顔をしかめる。
「いや違っ……!」
ミナが追撃する。
「あと灰靴の話も私」
酒場崩壊。
「全部じゃねぇか!!」
「情報通ぶってたぞ今!!」
ログは煙草を咥え直す。
かなり苦し紛れだった。
「……情報源を守っただけだ」
「後付けだろ!!」
爆笑。
二階の手すりにもたれた地下街の主が、 煙を吐きながらぼそりと言う。
「馬鹿だな若造」
ログは机へ突っ伏した。
「……格好悪ぃ……」
ミナは真顔だった。
「最初から格好悪い」
「お前ほんと容赦ねぇな!?」




