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第3章 地下機構 終

《鴉樽》の夜は、いつも通り騒がしかった。


地下深部崩落の話は、 既に酒場中へ広がっている。


「地下水路一本潰れたらしいぞ」


「また変な赤灯り消えたってよ」


「最近ガキ攫い減ったのも関係あるか?」


常連達は好き勝手言っていた。


ログは奥席で不貞腐れている。


「だから俺じゃねぇって……」


「若造」


主が煙を吐く。


「半分はお前だ」


「半分ならセーフだろ」


「駄目に決まってんだろ!!」


レオが即座に叫ぶ。


酒場大爆笑。


完全に地下街へ馴染み始めていた。


本人は不本意だった。



白衣は酒場隅へ座らされていた。


かなり浮いている。


地下街と相性が悪過ぎた。


しかも今は、 腕へ薄く赤い線が残っている。


酒を運んでいた女が露骨に距離を取った。


白衣の顔が引き攣る。


ログがじろりと見る。


「……まだ出てんのか」


白衣は腕を隠した。


「……消えない」


酒場が少し静かになる。


地下街の人間は、 赤い灯りの噂を知っている。


主だけは動かなかった。


煙を吐くだけ。


白衣が低く言う。


「貴方は何故」


ログ。


「何が」


「何故助けた」


地下街が静まる。


ログは数秒考えた。


「……夢見悪ぃ」


白衣が止まる。


ログは本気だった。


「目の前で引き摺られてんの嫌だし」


「お前が何したかとかは知らん」


「でもあれは気持ち悪ぃ」


白衣は言葉を失った。


今まで、 “対象”としてしか人を見て来なかった。


なのに地下街の若造は、


善悪でも理屈でもなく、


“嫌だから助けた”


と言った。


白衣は初めて、 少しだけ目を伏せた。



レオはその様子を見ていた。


地下街は理解出来ない。


暴力的。


雑。


無茶苦茶。


なのに。


時々、 王都より人間臭かった。


レオは机へ突っ伏す。


「胃が痛い……」


ログ。


「弱ぇな役人」


「誰のせいだと思ってんだ!!」


また笑いが起きる。


常連の一人が酒を置いた。


「役人」


レオ。


「……何だ」


「お前逃げなかったな」


レオが止まる。


地下深部。


崩落。


赤い灯り。


怖かった。


本当に。


それでも。


レオは小さく息を吐く。


「……放っとくともっと酷くなりそうだった」


ログが笑う。


「染まってんな」


「嫌な言い方するな!!」


だが。


地下街の連中は、 少しだけレオを見る目を変えていた。


“表側の役人”ではなく。


“地下へ降りて戻って来た奴”


として。



主は静かだった。


いつも通り。


煙草。


酒。


低い声。


だがログは、 何となく主を見る。


「……アンタ」


主。


「何だ」


ログは少し迷う。


地下最後。


赤い目。


“観測終了”


妙に引っ掛かっていた。


だが。


主は煙を吐くだけだった。


「若造」


「ん?」


「考えても腹減るだけだ」


ログ。


「確かに」


レオが頭を抱えた。


「納得するな!!」


酒場大爆笑。


だが。


その笑い声の奥で。


主だけは、 ほんの一瞬だけ地下側を見た。


誰にも気付かれない程度に。


煙が、 静かに揺れた。

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