第3章 地下機構 ⑳
地下水路へ飛び出した瞬間、全員しばらく動けなかった。
湿った夜風。
石畳。
地下街の薄暗い灯り。
ついさっきまで、 地下そのものが崩れていたとは思えない静けさだった。
レオが壁へ手を付き、 息を切らす。
「はっ……はっ……」
そのまま崩れ落ちた。
「もう嫌だ……」
ログは白衣を放り出す。
ドサッ。
「うおっ」
白衣が潰れた声を出す。
「扱いが……雑……」
「生きてるだけマシだろ」
「理論が地下街過ぎる……」
主が最後に水路から出て来た。
煙草はまだ咥えている。
レオが顔を上げる。
「アンタそれ地下でも消えてなかったのか……」
「消す暇無かった」
「消えろよ!!」
地下街の奥で、 小さく地鳴りが続いていた。
ゴゴ……
ゴゴゴ……
常連らしい男達が、 水路側を見てざわつき始める。
「何だ今の」
「地下深部か?」
「崩れたのか……?」
ログが即座に視線を逸らした。
レオが指差す。
「何で逃げる!!」
「俺じゃねぇし」
主が煙を吐く。
「半分くらいはお前だろ」
「半分ならセーフだろ!!」
レオ絶叫。
「セーフじゃない!!」
子供達は、 まだ怯えていた。
だが主が居るのを確認すると、 少しだけ表情が戻る。
主は短く言った。
「……《鴉樽》戻るぞ」
誰も反対しなかった。
*
《鴉樽》は、 夜だというのに騒がしかった。
地下深部の揺れは、 地下街全域へ届いていたらしい。
扉が開いた瞬間。
常連達の視線が一斉に集まる。
沈黙。
そして。
「若造また何かやったのか」
ログ。
「冤罪だ!!」
酒場大爆笑。
「その顔で言うな!!」
「血塗れじゃねぇか!」
「今度は何壊した!!」
レオが机へ突っ伏した。
「壊したんだ……」
「役人染まってんなぁ!」
「違う!!」
主はいつもの席へ座る。
何事も無かったみたいに。
煙草へ火を付けた。
ミシ……
天井から砂が落ちる。
酒場沈黙。
全員、 ゆっくりログを見る。
ログ。
「俺じゃねぇって!!」
主。
「説得力無ぇな」
また爆笑が起きた。
白衣だけ、 酒場の隅で青い顔をしている。
地下街の笑い声。
酒の匂い。
煙。
その中で。
レオだけは、 ふと主を見た。
主は黙って煙を吐いている。
いつも通り。
だが。
地下崩落の最後。
赤い目が、 主を見ていた。
レオだけが、 まだそれを忘れられなかった。




