第3章 地下機構 ⑮
ログは赤い腕へ飛び付いた。
地下空間が脈打つ。
赤い目が、 初めて大きく見開かれる。
ジャリ!!
鎖が暴れた。
ログは白衣の腕を掴む。
「離せコラ!!」
赤い腕が締め上げる。
鈍い音。
普通なら腕ごと潰れていた。
だがログ、 歯を食いしばったまま離さない。
白衣が呆然とログを見る。
「……何故」
ログは顔をしかめる。
「夢見悪ぃんだよ!!」
「理由が軽い!!」
レオの絶叫。
主が煙を吐く。
「若造らしい」
地下空間がまた揺れた。
石柱へ亀裂が走る。
子供達が悲鳴を上げる。
レオが振り返る。
「主!! 崩れる!!」
主は即座に子供達を庇う位置へ入る。
「ガキ連れて先に上がれ」
「アンタは!?」
「後だ」
短い返答。
地下街の主は、 赤い目を睨んだままだった。
その間にも、 ログは赤い腕と綱引きしている。
「離せって言ってんだろ!!」
赤い腕が脈打つ。
地下機構が低く響く。
「接続対象、抵抗確認」
ログ。
「だから何だよ!!」
次の瞬間。
ログ、 赤い腕へ噛み付いた。
地下空間沈黙。
レオ。
「……は?」
主が初めて少し黙る。
白衣ですら固まった。
ログ本人だけが本気だった。
「硬っっ!!」
レオが頭を抱える。
「何で噛んだ!!」
「手が滑った!!」
「絶対違う!!」
だが。
赤い腕の脈動が、 一瞬止まる。
地下空間全体が静まった。
主の目が細くなる。
「……効いてるな」
ログも止まる。
「効いたのか?」
地下機構が低く響く。
「未知反応確認」
レオが天を仰いだ。
「増やすな未知を……!!」
地下空間が、一瞬静まり返った。
赤い腕の脈動が止まっている。
ログはまだ噛み付いていた。
主がぼそりと呟く。
「……離せ若造」
ログが顔を上げる。
「……あ」
ゆっくり離した。
レオが頭を抱える。
「何で効くんだよそれぇぇぇ!!」
地下機構が低く響く。
「未知反応確認」
「増やすな未知を!!」
レオの悲鳴。
白衣はまだログに掴まれていた。
完全に呆然としている。
「……噛み付いた」
ログが真顔で答える。
「滑った」
「滑ってない!!」
地下空間がまた揺れた。
石柱が崩れ始める。
主が即座に動く。
子供達を引き寄せ、 落石を蹴り飛ばす。
「役人!!」
レオが反応する。
「な、何だ!」
「出口確認しろ」
「今!?」
「今だ」
短い。
だがレオは走った。
地下街で、 その声は逆らう類じゃなかった。
その間にも、 ログは赤い腕を睨んでいる。
腕は動きを止めたままだ。
地下奥の赤い目だけが、 ゆっくり脈打っていた。
まるで考えているみたいに。
ログが顔をしかめる。
「……コイツ、考えてねぇ?」
白衣の顔色が変わる。
「待て」
「それは駄目だ」
ログ。
「何が」
白衣が本気で叫ぶ。
「認識されるな!!」
地下空間が静まり返る。
数秒。
そして。
赤い目が、 ゆっくりログへ向いた。
地下機構が低く響く。
「個体識別、開始」
ログ。
「……は?」
主が舌打ちする。
「最悪だ」




