第3章 地下機構 ⑩
巨大な赤い目が、地下の闇でゆっくり開いた。
空気が止まる。
ログも、 流石に黙った。
赤い灯りが脈打つ。
ドクン。
ドクン。
地下空間全体が、 その目と一緒に呼吸しているみたいだった。
レオの声が震える。
「……何だ、あれ」
白衣が後退する。
初めて。
明確な恐怖だった。
「封印は完全だった筈だ……」
主が低く吐き捨てる。
「役人」
レオが反応する。
「な、何だ」
「今すぐ閉めろ」
「無理だ!!」
即答だった。
地下がまた揺れる。
石柱へ亀裂が走る。
ログがようやく口を開く。
「つまり?」
レオが半泣きで叫ぶ。
「起こしちゃ駄目な奴起こした!!」
「分かりやすく言え!!」
「今してる!!」
その瞬間。
地下奥で、 巨大な何かが動いた。
ズゥゥゥ……
重い。
鉄仮面とは比べ物にならない。
地下そのものが軋む。
赤い目が、 ゆっくりこちらを見る。
ログの背筋へ、 初めて本気の寒気が走った。
主が短く言う。
「逃げるぞ」
ログが振り返る。
「白衣は」
主の目が細くなる。
「知るか」
だがその時だった。
白衣が突然、 制御石板へ飛び付いた。
「まだ終わっていない!!」
レオが叫ぶ。
「触るな!!」
遅い。
白衣が石板へ手を叩き付ける。
赤い灯りが暴走した。
地下空間が真っ赤に染まる。
巨大な目が、 完全に開いた。
そして。
地下奥から、 低い声が響く。
「――認証」
全員の動きが止まる。
その声は。
人間の声だった。
地下空間が静まり返る。
赤い目だけが、 暗闇で脈打っていた。
「――認証」
低い声が響く。
ログが顔をしかめる。
「認証って何だよ」
レオが半泣きで叫ぶ。
「そこじゃない!!」
地下が揺れる。
石柱が軋む。
白衣は石板へしがみ付いていた。
「起動反応……?」
明らかに様子がおかしい。
レオが気付く。
「お前も知らないのかよ!!」
「あり得ない……」
白衣の声が初めて揺れる。
ログは数秒黙った。
それから白衣を見る。
「……コイツ殴っとく?」
主が即答する。
「やっとけ」
「軽っっ!!?」
レオの悲鳴。
次の瞬間。
ログの拳。
ドゴォン!!
白衣、 石板へ顔面から突っ伏す。
赤い灯りが一瞬止まる。
地下空間が静まった。
全員止まる。
ログがゆっくり拳を見る。
「……効いた?」
レオが叫ぶ。
「機械じゃないんだよ!!」
だがその瞬間。
石板が再び赤く脈打つ。
地下奥で、 巨大な目がゆっくり細くなった。
まるで、 こちらを観察するみたいに。
ログの背筋へ、 嫌な寒気が走る。
主が低く言う。
「若造」
「何だ」
「今の、多分見られた」
ログが真顔になる。
「……殴ったの」
「そこじゃねぇ」
地下奥で、 低い声が響いた。
「認証完了」
レオの顔色が消える。
「待て」
「何を認証した」
数秒の沈黙。
そして。
「適合個体、確認」
地下空間全員の視線が、 ログへ向いた。
ログ。
「……は?」
主が舌打ちする。
レオが青ざめる。
「待て待て待て!!」
白衣だけが、 ゆっくり顔を上げた。
鼻血。
だが目だけは、 妙に興味深そうだった。
「成程……」
ログの顔が歪む。
「その顔やめろ」
白衣は立ち上がる。
「地下街個体で適合反応が出るとは――」
ドゴォン!!
ログの拳。
白衣再び沈む。
レオ絶叫。
「話聞けぇぇぇ!!」
ログが真顔で答える。
「気持ち悪かった」
主が煙を吐く。
「正しい」
「増えた!!?」
地下奥で、 赤い目がゆっくり脈打つ。
ドクン。
ドクン。
そして再び、 低い声が響いた。
「適合個体、接続開始」
地下空間が、 一瞬静まり返る。
ログ。
「……何にだよ」




