第3章 地下機構 ⑧
赤い灯りが脈打つ。
地下空間全体が、 生き物みたいに震えていた。
鉄仮面の拳が振り下ろされる。
ログは振り返る。
「うおっ――」
足を滑らせた。
さっき砕けた椅子の破片だった。
ログが盛大にバランスを崩す。
そのまま転ぶ。
直後。
ドゴォォン!!
鉄腕が、 ログの頭上を通過した。
石壁が砕け散る。
地下空間が揺れる。
沈黙。
ログは床へ転がったまま、 ゆっくり顔を上げた。
「……避けた」
主が即答する。
「転んだ」
レオが叫ぶ。
「今の偶然だろ!!」
ログは真顔になる。
「地下街は空気で――」
「もういい!!」
その間にも、 赤い灯りは強く脈打っていた。
レオは制御区画の奥を見る。
鉄扉。
刻印。
脈動。
そして中央。
赤い灯りが集まっている場所。
「あれだ……!」
ログが転がりながら叫ぶ。
「止められんのか!?」
「分からない!!」
「じゃあ試せ!!」
「だから簡単に言うな!!」
レオは半泣きで走った。
鉄仮面が行く手を塞ぐ。
だが次の瞬間。
主が横から椅子を叩き付ける。
ガァン!!
鉄仮面が吹き飛ぶ。
主は真顔だった。
「通れ役人」
「備品の使い方おかしいんだよアンタ!!」
レオが叫びながら走り抜ける。
白衣はその様子を静かに見ていた。
「興味深い」
「地下街個体は予測外です」
ログが顔をしかめる。
「だから個体って言うな!!」
白衣は初めて、 ほんの少しだけ首を傾げた。
「何故です?」
地下空間が静まる。
ログは数秒黙った。
それから、 ものすごく嫌そうな顔で言った。
「……お前、ほんと友達居ねぇな」
レオが奥で叫ぶ。
「今それやってる場合かぁぁぁ!!」
その瞬間。
制御区画の赤い灯りが、 突然激しく点滅した。
赤い灯りが、狂ったみたいに点滅した。
地下空間が震える。
ゴゥ……
低い唸り。
レオが制御区画の端へ手を付く。
熱い。
壁そのものが脈打っていた。
「何だこれ……!」
赤い灯りの中央。
古い装置。
無数の管。
脈動。
まるで巨大な心臓だった。
レオの顔色が変わる。
「生体制御……!?」
地下空間の奥で、 白衣が静かに言う。
「正確には補助機構です」
ログが叫ぶ。
「説明始めんな気持ち悪ぃ!!」
鉄仮面が再び動く。
だが今度は違った。
動きが鈍い。
赤い灯りが乱れる度、 反応が遅れる。
レオが気付く。
「繋がってる……!」
「灯りが制御中枢だ!!」
主が鉄腕を受け止めながら怒鳴る。
「壊せるか」
「分からない!!」
「役人」
主の声が低くなる。
「出来るか出来ねぇかじゃねぇ」
地下空間が揺れる。
鉄仮面の拳。
爆音。
主が無理矢理受け流す。
「止めろ」
短い沈黙。
レオは歯を食いしばる。
怖い。
失敗したら終わる。
でも。
後ろでは、 子供達が怯えている。
ログが鉄仮面へ飛び蹴りしながら叫ぶ。
「グズグズすんな!!」
「うるさい!!」
レオは赤い装置へ飛び付いた。
古い刻印。
配線。
脈動。
意味不明な文字。
だが役所資料で見た古代記号と一致する。
レオの顔が青ざめる。
「王都が封印した区画……」
白衣が静かに答える。
「旧王都遺産管理機構」
「現在は我々が引き継いでいます」
ログが顔をしかめる。
「名前からして最悪だな」
その瞬間。
レオが何かを引き抜いた。
赤い灯りが止まる。
地下空間が静まり返った。
全員が止まる。
数秒。
そして。
地下全体が、 ゆっくり軋み始めた。
レオの顔から血の気が引く。
「……あ」
ログが察する。
「お前やったな?」




