第3章 地下機構 ⑦
白衣は静かに赤い灯りを見上げていた。
地下空間全体が、 脈打っている。
鉄仮面達は動かない。
待機している。
まるで命令待ちだった。
ログは顔をしかめたまま、 前へ出る。
「改善って何だよ」
レオが青ざめる。
「おい下働き、刺激するな!」
「誰が下働きだ!!」
地下空間へ声が響く。
白衣はゆっくり視線を向けた。
感情が無い目だった。
「地下街の方には理解出来ないでしょう」
ログの眉が跳ねる。
「感じ悪ぃなお前」
主が後ろで煙草を咥え直す。
止めない。
珍しく。
ログは赤い灯りを指差した。
「ガキ攫って鎖付けて」
「それ改善か?」
白衣は即答した。
「はい」
地下空間が静まり返る。
レオの顔色が悪い。
主の目だけが冷たい。
白衣は続ける。
「旧王都時代より続く問題です」
「人は脆い」
「病む」
「壊れる」
「死ぬ」
平坦な声。
まるで書類を読むみたいだった。
「ならば改良が必要です」
ログが数秒黙る。
それから、 ものすごく嫌そうな顔をした。
「……お前、友達居ねぇだろ」
沈黙。
レオが頭を抱えた。
「何でそこでそうなる!?」
主が煙を吹き出す。
少しだけ。
笑っていた。
白衣だけが無表情だった。
だが数秒後。
初めて、 ほんの少し眉が動く。
「……友達?」
ログは真顔で頷く。
「居たら誰か止めてる」
地下空間が静まる。
レオがもう駄目そうな顔をしていた。
「下働き、お前時々とんでもない事言うな……」
だが白衣は、 初めて少しだけログを見た。
観察するみたいに。
「興味深い反応です」
ログが顔をしかめる。
「気持ち悪ぃな」
その瞬間。
赤い灯りが強く脈打った。
鉄仮面達の目が、 一斉に赤く点灯する。
レオが青ざめる。
「刺激したぁぁぁ!!」
ログが振り返る。
「お前が話長ぇからだろ!!」
主が低く吐き捨てた。
「馬鹿共、来るぞ」
鉄仮面の腕が暴れる。
轟音。
地下空間が揺れる。
主は真正面からそれを止めていた。
石床が軋む。
普通の人間なら、 とっくに潰れている。
だが主は低く吐き捨てた。
「……痛ぇな鉄屑」
ログが思わず吹き出す。
「化け物かアンタ」
その瞬間だった。
白衣が初めて、 少しだけ眉を動かす。
「……興味深い」
赤い灯りが強く脈打つ。
そして地下空間奥で、 別の鉄扉が開き始めた。
ゴゥ……
重い音。
レオの顔色が変わる。
「……待て」
赤い灯り。
壁の刻印。
脈動。
何かが繋がる。
レオは鉄扉を見る。
「これ……制御区画だ」
ログが鉄仮面を蹴り飛ばしながら叫ぶ。
「止められんのか!?」
「分からない!!」
「じゃあ試せ!!」
「簡単に言うな!!」
鉄仮面の拳。
主が横から受け止める。
爆音。
地下空間が揺れる。
レオは顔を歪めた。
怖い。
無理だ。
戦えない。
でも。
妹の顔が浮かぶ。
地下街で震えていた子供。
頭から離れない。
ログが怒鳴る。
「グズグズ言ってる暇あったら行け!!」
レオが叫び返す。
「怖いんだよこっちは!!」
「知るか!!」
無茶苦茶だった。
でも、 地下空間の奥では、 赤い灯りが更に強く脈打っている。
子供達が怯えていた。
主が鉄仮面を殴り飛ばしながら低く言う。
「役人」
レオが顔を上げる。
主は前を向いたまま続けた。
「止められるなら止めろ」
短い沈黙。
レオは歯を食いしばる。
そして。
「……っ、クソ!!」
走った。
赤い灯りの奥。
制御区画へ向かって。
ログが笑う。
「行け役人!!」
その直後。
鉄仮面が、 ログへ向かって振り下ろされた。




