第3章 地下機構 ➅
赤い灯りが暴れるように脈打った。
ドクン。
ドクン。
鉄仮面達が、 一斉に動き出す。
重い足音。
地下空間が揺れる。
レオが顔を引き攣らせた。
「多い多い多い!!」
「落ち着け!」
「お前が言うな!!」
ログは既に走っていた。
若かった。
怖いより先に身体が動く。
鉄仮面の一体が腕を振り上げる。
ログは滑り込む。
低い。
速い。
地下街仕込みの喧嘩だった。
鉄腕の下へ潜り込み、 横から蹴りを叩き込む。
鈍い音。
鉄仮面が僅かに揺れる。
「硬っっ!?」
主が横から飛び込む。
拳。
爆音。
鉄仮面が吹き飛ぶ。
レオが叫ぶ。
「比較対象がおかしい!!」
その間にも、 別の鉄仮面が迫る。
ログが舌打ちする。
「チッ、数多過ぎんだろ!!」
白衣は台座から静かに見下ろしていた。
まるで観察だった。
「戦闘反応、良好」
「地下街個体は予想以上」
ログの顔が歪む。
「個体って言うな!!」
鉄仮面が振り下ろす。
ログは避ける。
だが後ろ。
鎖に繋がれた子供達が居た。
レオの顔色が変わる。
「下働き!!」
ログが振り返る。
間に合わない。
その瞬間。
ガァン!!
横から椅子が飛んだ。
鉄仮面の顔へ直撃する。
全員が止まる。
レオが目を見開いた。
「……椅子?」
主だった。
何処から持って来たのか、 地下街の酒場椅子を片手で持っている。
主は真顔だった。
「《鴉樽》の備品壊すな」
ログが思わず叫ぶ。
「そこ!?」
鉄仮面の顔へ突き刺さった椅子が、派手に砕け散った。
木片が地下空間へ飛ぶ。
主は真顔だった。
「……高かったんだが」
ログが叫ぶ。
「壊したのお前だろ!!」
「当たった方が悪い」
「無茶苦茶だ!!」
レオが頭を抱える。
「何で会話成立してるんだこの人達……!」
だがその間にも、 鉄仮面達は迫って来る。
重い足音。
赤い灯り。
地下空間が揺れていた。
白衣は台座から静かに見下ろしている。
観察。
まるで実験動物を見る目だった。
ログの顔が歪む。
「気に入らねぇ……!」
鉄仮面が振り下ろす。
ログは横へ飛ぶ。
直後。
ドゴォン!!
石床が砕ける。
破片が飛び散る。
ログが舌打ちする。
「だから火力おかしいんだよ!!」
主が横から割り込む。
鉄腕を掴む。
止める。
地下街の主と、 鉄仮面が真正面からぶつかる。
石が軋む。
レオが息を呑む。
「止めた……!?」
主は低く言った。
「若造」
「何だ!」
「ガキ連れて下がれ」
ログが振り返る。
鎖に繋がれた子供達。
怯えている。
ログは一瞬だけ迷う。
主が吐き捨てた。
「お前はそっちだ」
短い沈黙。
ログは舌打ちした。
「……死ぬなよ」
主が笑った。
ほんの少しだけ。
「誰に言ってる」
次の瞬間。
鉄仮面の腕が暴れる。
主ごと壁へ叩き込む。
轟音。
地下空間が揺れる。
レオが青ざめる。
「主!!」
だが瓦礫の中から、 煙草の煙が上がる。
低い声。
「……痛ぇな鉄屑」
ログが思わず吹き出す。
「化け物かアンタ」
その瞬間だった。
白衣が初めて、 少しだけ眉を動かす。
「……興味深い」
赤い灯りが強く脈打つ。
そして地下空間奥で、 別の鉄扉が開き始めた。
「まずい」
「駄目な相手」
「……お前、誰だ」
白衣は赤い灯りを見上げたまま、 静かに言った。
「地下街の方に名乗る必要はありません」
ログが顔をしかめる。
「感じ悪ぃな」
レオが青ざめる。
「おい下働き……!」
「誰が下働きだ」
ログは前へ出る。
かなり無謀だった。
本人だけではない。
主ですら止めるタイミングを測っていた。
ログは白衣を睨む。
「ガキ攫って実験して」
「それで何してんだよ」
赤い灯りが揺れる。
白衣は数秒黙った。
やがて、 初めて少しだけログを見る。
まるで、 石でも見るみたいな目だった。
「改善です」
空気が凍る。




