第3章 地下機構 ⑤
子供の悲鳴が、地下へ響いた。
ログは迷わなかった。
崩れた床を蹴り、 下層へ飛び降りる。
「若造!!」
主の声。
止める声ではない。
位置を変えろという声だった。
ログは赤い灯りの中へ着地する。
水飛沫。
重い空気。
地下の匂い。
見た事の無い場所だった。
巨大な円形空間。
古い石柱。
水路。
そして、 壁一面に埋め込まれた赤い灯り。
脈打っている。
まるで生き物みたいだった。
ログが顔をしかめる。
「気色悪ぃ……」
その背後へ、 レオが落ちて来る。
「うおっ!?」
着地失敗。
盛大に転ぶ。
「痛っっ!!」
ログが振り返る。
「お前ほんと戦えねぇな」
「誰のせいだ!!」
その直後。
主も降りて来た。
着地音が軽い。
人間じゃないみたいだった。
レオが少し引く。
主は周囲を一瞥する。
赤い灯り。
古い壁。
奥へ続く鉄扉。
そして。
鎖で繋がれた子供達。
ログの目が変わる。
黒外套達が後退していく。
逃げるつもりだった。
主が低く言う。
「逃がすな」
ログが即座に走る。
かなり速い。
地下街では上位側だった。
黒外套の一人へ飛び込む。
殴る。
水路へ吹き飛ぶ。
レオが叫ぶ。
「加減しろ!! 情報源!!」
「後で考える!!」
「今考えろ!!」
その時だった。
地下空間の奥。
巨大な鉄扉の向こうから、 低い音が響く。
ゴゥ……
赤い灯りが一斉に脈打つ。
空気が重くなる。
主の顔が変わった。
初めて。
明確に。
「……チッ」
地下街の主が、 露骨に嫌そうな顔をした。
それだけで、 レオの背筋が冷える。
そして鉄扉の奥から、 ゆっくり声が響いた。
人の声だった。
だが、 妙に平坦だった。
「実験体、損傷確認」
ログ達の動きが止まる。
声は続ける。
「地下区画、第七層。侵入者を確認」
レオの顔色が消えた。
「……第七、層?」
赤い灯りが、
一斉に脈打った。
ドクン。
地下そのものが呼吸したみたいだった。
ログが顔をしかめる。
「……今の嫌だな」
「嫌で済ませるな」
レオの声が掠れている。
鉄扉の奥。
平坦な声が続く。
「警戒等級、上昇」
「処理機構、起動」
ゴゥ……
重い音。
巨大な鉄扉が、 ゆっくり開き始めた。
赤い光が漏れる。
熱い。
地下なのに、 妙な熱気が流れて来る。
ログが思わず顔をしかめる。
「何だこれ……」
主だけが静かだった。
だが、 僅かに位置を変える。
庇う位置。
ログとレオ、 そして子供達の前へ出る。
その時点で異常だった。
地下街の主が、 防御側へ回っている。
鉄扉が開く。
奥には、 更に広い空間があった。
円形。
巨大。
無数の赤い灯り。
そして。
並んでいた。
鉄仮面。
何体も。
レオの息が止まる。
「……嘘だろ」
ログも流石に黙る。
さっきの怪物が、 “量産品”みたいに並んでいる。
その中央。
高い台座。
白衣の人影が立っていた。
顔は見えない。
細い。
老人にも見える。
だが声は若かった。
平坦な声。
感情が無い。
「地下街の方でしたか」
ログの背筋へ、 嫌なものが走る。
その声は、 地下街を“場所”としてしか見ていなかった。
人じゃない。
物みたいに。
白衣はゆっくり言う。
「予定より早いですが」
「実験を前倒ししましょう」
赤い灯りが、 一斉に点灯した。




