第3章 地下機構 ④
瓦礫が崩れ落ちる。
赤い灯りが揺れる。
地下水路へ、 石の落ちる音だけが響いていた。
ログが顔をしかめる。
「……やったか?」
レオが即座に叫ぶ。
「その台詞は駄目だ!!」
ギ……
瓦礫が動く。
ログが指差す。
「ほら見ろ!」
レオが半泣きになる。
「だから言っただろ!!」
数秒。
ギ……
止まる。
沈黙。
地下水路が静まり返る。
レオが恐る恐る口を開く。
「……え?」
主が瓦礫を見たままぼそりと言う。
「止まったな」
ログが少し得意げになる。
「ほら」
「お前が言うな」
その時だった。
赤い灯りの奥。
黒外套達が、 静かに後ろへ下がり始める。
ログが眉を寄せる。
「……逃げる?」
レオが顔をしかめた。
「違う」
地下水路の空気が変わる。
冷たい。
さっきまでより、 もっと。
主の目が細くなる。
次の瞬間。
瓦礫の下から、 低い音が響いた。
ゴゥ……
地下そのものが唸るような音だった。
ログ達の足元が震える。
水面が波立つ。
レオの顔色が変わる。
「……待て」
主が低く言う。
「下が開く」
ログが顔をしかめる。
「は?」
その瞬間。
鉄仮面が埋まっていた床ごと、 ゆっくり沈み始めた。
赤い光。
崩れる石。
そして地下水路の更に下から、 巨大な赤い灯りが浮かび上がる。
ログが息を呑む。
今まで見えていた灯りは、 ほんの一部だった。
下に。
もっと大きい“何か”が居る。
地下の赤い灯りは、
ゆっくり脈打っていた。
まるで生き物みたいだった。
ログ達が居る水路より、 更に下。
巨大な空間がある。
赤い光は、 そこから漏れていた。
主は崩れた床際へ立ち、 静かに下を見ている。
珍しく、 煙草を咥えていなかった。
ログが顔をしかめる。
「……アンタでも知らねぇのか」
主は短く答えた。
「知ってる」
「知ってんのかよ」
「噂だけだ」
地下街の主でも、 “噂”。
その時点で嫌だった。
レオが低く呟く。
「旧水路……」
「王都建設前の地下施設説は聞いた事ある」
ログが嫌そうな顔をする。
「何で王都ってそういうの埋めたまま使うんだよ」
誰も否定しない。
下から、 また鎖の音が響く。
ジャリ……
ジャリ……
子供達だった。
赤い灯りの奥、 小さな影が動いている。
ログの顔が変わる。
「……まだ居る」
主が低く言う。
「待て」
「待ってる間に連れてかれる」
「今飛び込む方が死ぬ」
ログが舌打ちする。
止まり切れない顔だった。
その時。
下の赤い灯りが、 一瞬強く脈打った。
ゴゥ……
空気が震える。
レオが顔を上げる。
「……何だ?」
地下の奥。
巨大な影が動く。
鉄仮面とは比べ物にならない。
もっと大きい。
もっと遅い。
だが、 存在感だけで空気が重くなる。
ログが小さく息を呑む。
「まだ居んのかよ……」
主の目が細くなる。
そして、 初めて少しだけ嫌そうに言った。
「最悪だな」
その瞬間。
下層から、 子供の悲鳴が響いた。
ログが動く。
今度は主も止めなかった。




