第3章 地下機構 ②
赤い灯りは、水面へ揺れていた。
まるで血みたいな色だった。
地下街の灯りじゃない。
《鴉樽》のガス灯とも違う。
もっと古い。
嫌な色だった。
ログとレオは、 崩れた石壁の陰へ身を伏せる。
鎖の音が近い。
ジャリ……
ジャリ……
レオが低く息を呑む。
「……本当にあったのか」
ログは答えない。
水路の奥を見ている。
赤い灯りの向こう。
人影が動いた。
三人。
黒い外套。
顔は見えない。
だが腕に、 赤い印が浮かんでいる。
子供が描いた印だ。
レオの顔色が変わる。
「中央監査局……」
ログが顔をしかめる。
「監査どころじゃねぇだろ」
その時だった。
水路奥から、 また別の影が現れる。
小さい。
子供だった。
痩せた子供達。
数人。
鎖で繋がれている。
ログの顔から、 完全に軽さが消えた。
レオも息を止める。
赤い灯りが揺れる。
黒外套の一人が、 低い声で何かを喋った。
知らない言葉だった。
地下街の言葉じゃない。
表とも違う。
そして子供の一人が倒れる。
鎖が強く引かれた。
小さな悲鳴。
その瞬間。
ログが動こうとした。
レオが反射で腕を掴む。
「待て!!」
「離せ」
低い声だった。
本気で怒っている時の声。
レオが顔を強張らせる。
「今行ったら死ぬ!!」
「ガキ連れてかれてんだぞ!!」
ログの声が地下水路へ響く。
最悪だった。
赤い灯りが止まる。
沈黙。
そして。
黒外套達が、 ゆっくりこちらを向いた。
地下水路の空気が止まった。
赤い灯りだけが揺れている。
黒外套の一人が、 ゆっくり顔を上げた。
仮面だ。
白い。
表情の無い仮面。
ログの背筋へ、 嫌なものが走る。
地下街の人間じゃない。
もっと冷たい。
黒外套が低く何かを喋る。
知らない言葉。
だが意味だけは分かった。
“居る”。
見付かった。
レオが小さく舌打ちする。
「最悪だ……」
ログは既に立ち上がっていた。
「若造!!」
レオが止めるより早い。
ログは水を蹴った。
バシャッ!!
地下水路へ音が響く。
かなり無茶だった。
でも若ログは、 こういう時止まらない。
黒外套の一人が腕を上げる。
次の瞬間。
ギィン!!
金属音。
ログが反射で身を捻る。
細い刃が石壁へ突き刺さった。
レオの顔が変わる。
「飛刃……!?」
地下街じゃ見ない武器だった。
ログは舌打ちしながら走る。
「知ってんなら後で説明しろ!!」
また刃が飛ぶ。
水を裂く。
ログが滑る。
派手に転ぶ。
「っだぁ!?」
レオが頭を抱えた。
「何でそこで転ぶ!!」
だがその瞬間。
ログの身体が、 倒れていた子供の前へ滑り込む形になる。
黒外套達が止まった。
ほんの一瞬。
ログ本人も止まる。
水の中で、 子供と目が合った。
痩せた顔。
怯えた目。
地下街の子供だった。
ログが低く言う。
「……立てるか」
子供が小さく頷く。
その背後で。
レオが叫んだ。
「下働き!! 後ろ!!」
ログが振り返る。
赤い灯りの奥。
更に大きな影が、 ゆっくり立ち上がっていた。




